第21話
ダンジョン攻略者って、なかなか大変だ。
凶悪なモンスターと戦いながら、視聴者を楽しませなきゃいけない。
普通の攻略者は十分な安全マージンを取りながら戦うし、もし自力以上のダンジョンに挑戦する時は自己蘇生アイテムなどの保険を準備したりする。
俺は金欠だから、高額な自己蘇生アイテムなんて持ってない。
死んだら終わり。
その緊張感が逆に生を感じさせる。
「ひゅう。いまの危なかったです。アレはたぶん毒ですね」
巨大な蛇の胴体、頭部はサソリのような鋏を持ったモンスター。その鋏が切り裂いた岩がドロドロに溶けた。
「コイツって討伐例あります?」
繰り返される攻撃を回避しつつ、配信を見てくれている視聴者さんたちに聞いてみた。情報収集に加え、視聴者との交流まで出来て一石二鳥。
〈討伐例? あるわけねーだろ!〉
〈君がいる場所、深淵だからね〉
〈しかも第1階層をかなり進んでるし〉
〈もう世界中の攻略者が初見だよ〉
そうなんだ。てことはこのモンスターにはまだ名前がない。もし俺がコイツを倒せれば、また名前を付けることが出来る。
「よし。やる気が出ました!」
ポーチに手を入れ、複数のクナイを取り出す。
どうやって戦うべきか、また何を考えて戦ったかを口に出しながら倒した方が配信のコメント欄が盛り上がるんだよな。次にここを攻略しようとする人へのヒントにもなるし。
「まず狙うべきは目ですね。頭部はサソリっぽいので、目の数は全部で8個かな。身体の模様で誤魔化されそうですけど」
クナイを投擲する。
「頭部の中央に2個。これは光の強弱を感知する中眼ですね」
中眼に命中し、血が赤色のエフェクトとなって噴き出す。
「続いて左右の側面に各3つずつ計6個の側眼」
モンスターが痛みで暴れ回る。
俺は狙いを定め、確実に目を潰していった。
全ての目を潰した。
これで俺を探せないだろう。
「──うひゃう!?」
モンスターの強靭な尻尾が俺を狙って振り払われた。それをギリギリで避ける。
「まだ俺の姿が見えてるんだ。どこかに目が残ってるのかな」
視聴者さんたちの意見を確認するため、チラッと配信のコメント欄に目を通す。
〈胴は蛇だからピット器官あるとか?〉
〈サソリなら感覚毛もあるぞ〉
〈腹の下の櫛板で振動を感知できる〉
〈こいつ感覚器官が多すぎじゃね?〉
マジかよ。目つぶしだけじゃ意味ないのか。
「目つぶし作戦は止めましょう。とりあえず危なそうな鋏を奪います」
地面を強く蹴り、上体を起こして高くから俺を見降ろしていたモンスターの頭部と同じ高さまで飛び上がる。
モンスターが鋏で俺を真っ二つにしようと斬りかかってきた。
空中だと身動きできないだろって?
忍者を舐めないでほしいね。
ワイヤーを結んだクナイをダンジョンの壁に突き刺し、それを引いて攻撃を回避。更に身体を回転させながら鋏の付け根に連撃を入れる。
鋏が落ち、巨大なモンスターの悲鳴が響く。
「はい。こんな感じでやっぱり最初に鋏を切り落としちゃいましょう。その方が安全ですね」
〈ねぇ、君って今、飛んでなかった?〉
〈空中で不思議な動きしてたww〉
〈どんなアイテム使うてんの?〉
〈空中移動系って滅茶苦茶レアだろ〉
ワイヤークナイでの移動術の方が話題になっちゃった。
「空中移動術はまた後で詳しく解説しますね。こいつはもう普通に攻略できそうなんで、サクッと倒しまーす」
片方だけになった鋏を振って俺を牽制しようとするが、警戒しなければならない武器が半分になったなら俺の攻撃はこれまでの2倍当たる。
鋏を無視して、サソリと蛇の結合部を集中的に攻撃し続けた。
数十秒後、胴と頭部の切り離しに成功した。しかしまだ頭部も胴もピクピク動いている。
「たぶんこれ頭も胴体もまだしばらく動くので、倒した後も油断しないでくださいね。毒はかなり強いヤツだと思うので」
討伐後の注意事項を伝えつつ、ステータスボードを開く。
これまで通り、【????討伐数:1】という表記が出てきた。
「またまた命名権をゲットしましたー!」
討伐していなくても千人近い攻略者が挑んだモンスターには、それまでで最もダメージを与えた人に命名権が与えられるらしい。ヘルハウンドがそれ。
ただそーゆーのも、アビスダンジョンの入口付近でのこと。
出てくるモンスターを倒しながら10分程進んだら、それ以降に出てきたモンスターの名称は全て????になっていた。
「鋏を持った蛇なんで、シザースネークって名前にします」
〈そのまんまやなww〉
〈分かりやすくて俺は好きだぞ〉
〈シザースネーク( ..)φメモメモ〉
〈命名おめでと!!〉
視聴者さんたちは俺の命名に好意的な反応をしてくれる。センスが悪くないと言ってくれる人もいて、かなり嬉しい。
そして命名することで、自分が未踏の地に挑んでいるということを実感できる。
モンスターは強くなってきたが、まだ先へいける。俺はまだ全力で戦っていない。
「さぁ、まだまだ行きますよ。もう少しお付き合いくださいね!」
深夜なのに俺の配信を見てくれている視聴者さんたちを飽きさせないよう、エンタメを意識しつつ俺は深淵ダンジョンの攻略を続けた。




