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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第2章 富嶽学園

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第20話

 

「じいちゃん、失礼するっす!」


 富嶽学園に隣接する沙霧(さぎり)一族の屋敷。その頭領の部屋へ、沙霧(さぎり) 奏多(かなた)は返事も待たずに飛び込んだ。


「奏多か。今は良い所だから後にしてくれんか?」


 孫に甘く、奏多が訪ねてきた時はいつも事務作業の手を止めて相手をする半蔵(はんぞう)だが、今日は巨大モニターをじっと見つめて振り向くこともしなかった。


 そのモニターには、ひとりの少年が5体のヘルハウンド相手に無双する様子が映し出されていた。奏多と半蔵は、その少年が風魔(ふうま) (れん)であることを知っている。


「あ、じいちゃんもこれ見てたんすか」


「うむ。もしや奏多は、彼が深淵のダンジョンに入ったということを教えに来てくれたのか?」


「そうっす」


「流石じゃ。情報収集は忍びの基本」


「えへへ」


 奏多は嬉しそうにはにかむ。


「ちょっとこちらに来なさい」


「御意っす」


 半蔵がレコーダーを操作して、先ほど蓮がヘルハウンドを倒した時のスロー映像を奏多に見せる。


「ダンジョン管理局がレンタルしている配信用ドローンだが、これに搭載されたカメラのフレームレートは120fpsだ。つまり1秒間に120枚の映像を撮り、それを繋ぐことで動画にする。それを踏まえた上で、このシーンを見なさい」


 半蔵が配信画面を記録した動画をコマ送りで再生する。


「……あっ。蓮が急に消えてる」


「そう。一瞬でドローンの画角から完全に姿を消しておる。つまり彼は1/120秒という僅かな時間で数メートルを移動しているのだ」


「ふ、風魔って、そんなに速いんすか」


「これは縮地(しゅくち)と影送りを応用した移動方法だな。影送りは風魔の歩法だが、おそらく彼はさらに複数の移動術を組合わせてオリジナルの歩法を編み出している。ここまで速い忍びは儂も見たことがない」


「ヤバいっすね」


「移動だけでない。攻撃もヤバいぞ」


 続いてモニターに映し出されたのは蓮がヘルハウンドの首を落とした瞬間の映像。


「映像では一撃に見えるが、おそらくそれはカメラに映るよう()()()()()()()()()()一閃じゃな。ほれ、このコマのここを見よ」


「あっ! 手の残像が見えるっす」


「超高速で複数回斬りつけておる。直に見なければその回数は分からんがな。高い斬撃耐性を持つヘルハウンドの首を斬り落としたのだ。忍びの技術で研磨した武器を持ちいていたとしても、刃をかなりの回数同じ場所に当てねばなるまい」


「コイツ、やっぱり相当ヤバいヤツっすね」


「風魔の里は滅びたはずだが、彼は風魔の技を使っておる。まだ本家の血筋が残っていたということ。それも免許皆伝を受けたような実力者だ」


「てことは、蓮の強さは里長クラス……」


「我ら沙霧は風魔と大きな争いをしたことはない。とはいえ彼の機嫌を損ねれば、何が起こるか分からん。それでもまだ彼を狙うのは止めんか?」


「こんだけぶっ飛んでる奴の方が付き合った時に面白そうじゃないっすか。むしろ俺が蓮をゲットできたら、沙霧は一気に強くなれるっす」


 何を言っても蓮を諦めようとしない奏多に、半蔵は遠い目をした。


「それに蓮は強いヤツだけど、講義室ではなにも言ってこなかったっす。俺のことに気づいてないんすよ。だから大丈夫っす」


 敵にもならぬ小物だから見逃してもらっているのでは? 半蔵はそう考えたが、口には出さなかった。蓮がその気になれば沙霧(さぎり)一族が一晩でこの世から淘汰される可能性がある。それだけの力を持つ者が孫の男装に気付かぬわけがない。


「すべては彼の気分次第か……」


 もはや彼は諦めていた。存在を知られる前であれば対処法はあったが、既に孫が蓮を尾行したことがバレてしまっている。今こうしてふたりが無事なのは、蓮にその気がないからというだけのこと。


「ん? どうしたんすか、じーちゃん」


「爺のひとりことじゃ。前も言った通り、奏多は好きに生きればよい」


「あざっす!」


 例え孫の失敗で一族が滅びることになったとしても、それが運命だと受け入れる。その覚悟ができていた。


「ところで風魔 蓮って、ダンジョン適性低いんすね。11%とか、ダンジョン入れるギリギリじゃないっすか。逆に適性率が100%超えちゃって測定不能になる子もいてビビったっす」


「忍びの技を極めれば、ダンジョン産のアイテムを頼る必要はないからな。そして測定不能になったのは北条(ほうじょう) (すい)だな。どうだ、Tier 1(ティアワン)という存在は。奏多の目から見ても強いか?」


「ダンジョン適性が低いのにヘルハウンドを瞬殺する蓮を見ちゃった後だと言葉に困るっすけど……。北条さんも普通の人間としては規格外っすね。ダンジョンが現れた今の世界に愛されてる存在って感じっす」


「そうだのう。儂もダンジョンの外で彼女を見た時はただの小娘にしか見えんかった。しかしダンジョンで装備一式を見に纏った姿はまさしく鬼神そのもの」


「やっぱそうっすよね。そのせいか蓮も北条さんの指示には完璧に応えてるっす。とりあえず彼女が目下最大のライバルっすよ」


「でっかい壁だのう。でも儂は応援しておるぞ」


「はい。頑張るっす!」

 

 その後ふたりは、深淵ダンジョンの1階層を無双していく蓮の様子を大型モニターで観察し続けた。

 

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