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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第2章 富嶽学園

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第19話 〈配信コメント欄〉

 

 スタスタと第1階層を進んでいく蓮を見て、視聴者たちは唖然とする。


〈マジで深淵ソロ凸すんの?〉

〈どう考えても自殺行為〉

〈誰か止めてやれよ〉

〈そう言うお前が止めに行け〉

〈誰が行くか! 俺も死ぬわ〉

〈ヘルハウンドに見つかって終わりだろ〉

〈もし凶犬に見つかったら死亡確定〉

〈てかハルヒコのアイキャッチはAI?〉

〈どう考えてもそーだろ〉

〈だってそうじゃなきゃレンは死んでる〉

〈ヘルハウンドは得物を逃がさないから〉


 ハルヒコというインフルエンサーがSNSの投稿に添付した画像には、蓮がヘルハウンドに立ち向かう様子が映っていた。まるで配信画面を切り抜いたかのような精巧なつくりだったが、今のAI技術であれば不可能ではない。


〈でもハルヒコがAI使うの珍し〉

〈むしろ使うの嫌ってたよな〉

〈なんで今回は使っちゃったん?〉

〈待てって。AIじゃない可能性も〉

〈そのほうがねーよ!〉

〈だってAIじゃないならレンは〉


 視聴者たちの書き込みが一瞬止まった。


 目の前に体高が人の身の丈ほどもある大きな犬が現れたからだ。


 一般的な成人男性が素手で勝てる肉食動物は10kg程度の大きさのものとされている。それはサイズ的には中型犬程度で、体高は60センチくらい。人の身の丈くらいに体高がなる動物というのは、体重500キロにもなる。


 武器を持てば勝てる可能性はある。

 しかしそれは、普通の動物であれば。


 ダンジョンのモンスターで、体重は500キロを超える。それだけのサイズでありながら、時速150キロ以上の速度で襲い掛かってくる凶犬ヘルハウンド。


 討伐例は0だ。

 遭遇後、逃げきれた例も少ない。


 なお遭遇しても逃げられたのはパーティーを組んでいた事例のみで、ソロで遭遇した場合の死亡率は100%である。


 あまりの絶望的状況に、誰もコメントを書き込めない。しかしそんな強敵と向かい合っている風魔(ふうま) (れん)は、落ち着いた口調でこう言い放った。


『またコイツか。S級指定のくせにドロップアイテムがしょぼいんですよね。つまんないのでサクッと倒します』


 蓮の姿が消えた。


 ドサッ


 ヘルハウンドの首が地面に落ちる。

 いつの間にかレンは画面の奥側に移動していた。


〈…………は?〉

〈えっ〉

〈え、えっ?〉

〈ちょいちょいちょい!〉

〈待てって。待てまて!〉

〈今、斬ったの? 首を?〉

〈ヘルハウンド、倒したの!?〉

〈あ、ありえなくね?〉


 S級攻略者が複数パーティーで挑んでも倒せなかったヘルハウンドが倒され、光になって消えていく状況を視聴者たちは理解できずにいた。


〈みんな驚いたでしょ。レンって、強いの〉


『ありがとうございます、ハルヒコさん。ところでヘルハウンドのドロップアイテムが今回もしょぼいんですけど、こんなもんなんですか? 皮と牙だけって』


〈ごめん。わかんない〉


 当然である。アビスダンジョンのヘルハウンドが倒されたのはこれが世界初なので、誰も討伐後に入手できる素材がどんなものなのか知らないのだ。


『そうですか。他の視聴者の人で、なんか知ってる人います? 俺の運が悪いだけなんですかね?』


〈いや、知らんがな〉

〈てか知るわけねーだろ!〉

〈ヘルハウンド討伐が世界初やぞ〉

〈逆に俺らが詳しく教えてほしいわ〉

〈凶犬からは皮と牙が(ドロップ)するんだ〉

〈メモメモ( ..)φ〉

〈国際学会で発表出来る情報レベル〉

〈皮ってどんなん? 備考欄は?〉

〈レアリティ表示は!? S級素材?〉

〈牙を出して見せて!!〉


 コメント欄が大いに盛り上がる。


 蓮はそれが嬉しくなり、ひとつひとつの質問に答えていく。


『皮のレアリティはSってなってますね。備考欄は"斬撃耐性S"と"魔法耐性S"って表示されてます』


〈斬撃耐性Sの首を斬っちゃったww〉

〈魔法耐性あるのヤバいな〉

〈めっちゃ高値で売れそう〉

〈それをしょぼいとか言うな〉


『だってここS級ダンジョンなんですから、素材も"ヘルハウンドの魔眼"みたいなカッコいいやつを期待しちゃうじゃないですか。ちなみに牙の方はこれですね。こいつの備考欄は"物理貫通S"ってなってます』


 蓮がアイテムバックからヘルハウンドの牙を取り出した。


〈長っが〉

〈凶悪すぎる見た目だ〉

〈物理貫通Sやべぇ〉

〈これも高そうだな〉

〈深淵ダンジョン流石だわ〉


『でもこれ、数があんまり出ませんね』


 そんな会話をしている時、配信用ドローンが遠くからこちらに向かってくる影を捕らえていた。それに数人の視聴者たちが気付く。


〈おい! また来てる!〉

〈マジか、数が多いぞ!〉

〈2、3…5体、5体も来た!!〉


 遠くからとてつもない速度でこちらに向かってくる5体のヘルハウンド。


 群れの仲間が倒されたことに気付き、敵を排除に来たようだ。


 しかし蓮は視聴者たちに見せた素材をアイテムバックにしまおうとしており、ヘルハウンドの急接近に気付いていないように思えた。


〈ヤバい、速い!〉

〈おい、気付け! ヤバいぞ〉

〈あっ。これもう無理──〉


 ヘルハウンドの牙が蓮の身体に到達するまで、蓮はアイテムバックの中身をゴソゴソ整理していた。視聴者たちは蓮が死んだと考えた。


 ただひとり。ファン第一号であるハルヒコは、蓮がこの程度じゃ死ぬわけがないと信じていた。


〈また来てるけど、大丈夫だよね。レン君なら〉


 彼はレンという配信者が、これまで誰も見せたことのない世界を見せてくれると確信していたのだ。


『せっかく整理したのに、またアイテムが増えちゃう……』


 蓮の声が配信画面から聞こえてくる。それと同時に5体のヘルハウンドが光になって消えていった。


〈──はっ!?〉

〈い、今、どうなった?〉

〈なんでコイツ生きてんの!?〉

〈てか5体の凶犬が消えたんやけど〉

〈い、意味わからん。倒したんか?〉


『今のはドローンの画角が良くなかったかな。すみません。次はもっと倒すところが、しっかり映るように立ち回ります』


 S級の攻略者であっても、ヘルハウンドに遭遇すれば『どうやって逃げるか』を考えなければならない。しかし忍びの技を極めた蓮には『どうやったらかっこよく倒せるか』を考えながら戦う余裕があった。

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