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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第1章 忍者の末裔

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第2話 〈配信コメント欄〉

 

 風魔(ふうま) (れん)が忍ぶのを止める少し前──


〈やっぱブレイズファングは強いなぁ〉

〈あぁ。安心して見てられる〉

〈14階層のボスを5分で討伐はヤバい〉

〈6人パーティーなら日本最強なんじゃね?〉


 攻略の様子が確認できる配信では、そんなコメントが書き込まれていた。ちなみにコメント欄への書き込みは音声入力とAIによる文字起こし機能を利用している視聴者が多く、ほぼリアルタイムで感想を言い合える。


 現在はブレイズファングのように6人組で強いパーティーはどこか、という話題で盛り上がっていた。


〈"悠久の風"も強いぞ〉

〈そこは新人が入って10人になった〉

〈じゃあ"クロノス・ゼロ"とかは?〉

〈確かに強いな。てか間違いなく最強〉

〈でもあそこはリーダーの独力だろ〉

沙霧(さぎり) (じん)は別格だからなぁ〉

〈S級攻略者を持ち出してくんな〉

〈日本人でふたりしかいないTier 1(ティアワン)でもある〉


 ダンジョン攻略者は強さやダンジョン踏破能力に応じて、S~Fでランク分けされている。最も強いS級攻略者は日本に25名、世界全体では1,300人程度いる。


 そのS級攻略者の中で強い順に上位30名を『ティアワン』と呼ぶ。


 ダンジョンを知り尽くし、ダンジョンで入手できるアイテムや装備の性能を最大限引き出す才能を持った者たちだ。


〈もうひとりティアワンいるじゃん〉

〈あれは100人規模クランの(ほこ)だから〉

〈そう。そっちはノーカン〉

〈じゃあ6人ならクロノス・ゼロが最強だな〉

〈その次がブレイズファングか〉

〈連携なら絶対ファングが勝ってる!〉

〈刃はワンマンアーミーじゃねーか〉

〈たまたまチームが6人なだけ!!〉

〈古参ファンが騒ぎ出したwww〉

〈よし、この話題はもうやめよう〉


 こんな会話がされていた時、新規視聴者の書き込みがされる。


〈こんちゃ。初見っす〉

〈初見さんいらっしゃい〉

〈らっしゃい!〉

〈ここは比較的のんびり会話するコメ欄だよ〉

〈ゆっくりしていってね〉

〈はーい、よろしくっす〉


 この配信アプリでは一度の配信に対して、複数のコメント欄が設定される。何個のコメント欄が開設されるかは配信者の人気で変化する。配信視聴登録者数が30万人を超えるブレイズファングのコメント欄は最大6個。ここはその内の『初見歓迎のんびり会話部屋』である。


 ブレイズファングのコアな古参ファン数名が管理するようになっていた。


〈最近ここの配信を見始めたっす〉

〈そーなん? 誰がお気に入り?〉

〈リーダーが良い仕事するっすね〉

〈おっ。君、分かる人だねぇ〉

〈あんなオッサンを気に入るとか残念〉

〈オッサンいうなし。まだ28だぞ〉

〈28はおっさんだろww〉

〈……ねぇ。ちょっと話題変えない?〉

〈うん。僕らにもダメージくるから〉

〈え、あ、なんかゴメンなさいっす〉

〈じゃあ質問とかない?〉

〈古参ブレイズファンいるから何でも聞いて〉

〈あざす。気になってんのがあって〉

〈なになに?〉


〈ブレイズファングって6人パーティーっすよね? でも配信見ると、7人いません? あの人なんなんすか? 突っ立ってるだけで戦いもしない〉


〈あー。ポーターの人か〉

〈ポーター?〉

〈君はダンジョン配信あんまり見ないの?〉

〈見ないっすね。仕事忙しくて〉

〈このご時世にまだそんな人いるんだ〉

〈いるだろ。ウチのじーさんとか見ないぞ〉

〈おじいちゃんと同じ扱いはかわいそう〉

〈AI、とりあえずポーターの説明してあげて〉


 コメント欄に不適切な書き込みがされていないかを監視し、視聴者から質問事項などが書き込まれた際はそれに対応するAIが回答する。


〈ポーターとは荷物運びのことです。彼らの役割はダンジョン攻略者に同行し、装備や回復薬などのアイテムを運搬すること。ポーターの存在により攻略者は戦闘に集中することができ、ダンジョン攻略の効率が格段に上昇しました〉


〈AI、サンキュー〉

〈ポーターはパーティーの人数に含まれない〉

〈使い捨てにされることもある職業だからな〉

〈つ、使い捨てっすか?〉

〈モンスターはダンジョンのアイテムを守る〉

〈その習性を利用して逃げる〉

〈負けそうになったらポーターを囮にするんだ〉

〈え、でも…。そんなのって〉

〈酷いか? でも仕方ないんだよ〉


〈一般人でもダンジョンでゲットした装備やアイテムを使えば強くなれる。でもそれには限界がある。アイテムの性能をどれだけ引き出せるか、どんなスキルを身に着けられるかは才能や運に依存する。そんな天賦の才や強運を持った攻略者を、簡単に死なせるわけにはいかないんだ〉


 もちろんポーターを引き受ける人は、その危険を承知した上で攻略者に同行している。生還すれば、危険を冒すのに見合うだけの報酬が得られるからだ。


 またピンチになったからと、すぐポーターを囮にする攻略者たちばかりではない。ダンジョン攻略の様子は常に配信しなければならないので、ポーターを囮にして逃げれば人気が低下するのだ。


 できるだけポーターを含む全員で逃げようとして、どうしようもならない時に最終手段として囮にする。それであれば視聴者たちも仕方がないことだと納得する。


〈ブレイズファングのポーターになれたんだから、この人もそれなりにダンジョン攻略に同行した経験があるんだと思う。それでもピンチになれば彼は囮にされる〉


〈そーゆーもんなんだよ〉

〈でもこの調子なら大丈夫〉

〈そうそう。今回は20階層までだし〉

〈かなり余裕なんじゃないかな〉

〈そうだと良いっすね。あれ?〉

〈どした〉

〈今、画面の奥に何かいたっす〉

〈見えた人いる?〉

〈いや〉

〈爆炎でなにも見えねぇな〉


 その時、漆黒のキマイラが爆炎の奥から現れた。


 一瞬でタンク役の重装騎士が吹き飛ばされ戦闘不能になる。


〈え? な、なにコイツ!?〉

〈キマイラだ! 50階層の!〉

〈S級を何人も病院送りにしてる〉

〈なんでそんなんがここにいるんだよ!?〉

〈タンクが吹っ飛ばされたぞ!〉

〈あっ、次はリーダーが狙われてる〉

〈クールタイムでスキル使えないよな〉

〈ヤバいって! 逃げろ!!〉


 視聴者たちが必死に伝えようとするが、魔術師の男が使った魔法で巻き上がった土埃が邪魔してリーダーの剣士からはキマイラの姿が見えない。


 重装騎士の装甲を切り裂いた爪が、防御スキルを発動できず無防備な剣士に迫る。


 視聴者たちは目を逸らした。



『ズンッ』


 なにかが落ちる重い音。


 多くの視聴者はそれが剣士の首であると思い、目を開けられなかった。


『えっ……。は?』


 配信から剣士の声が聞こえた。


〈ん? リーダー生きてる?〉

〈待って。どゆこと?〉

〈おいおいおい! キマイラ死んでんぞ!〉

〈は? 意味がわからん〉

〈リーダーが倒したの?〉

〈いや、ないだろ。驚いた顔してる〉


『な、なんだ今の』


〈確かに違うっぽいな〉

〈じゃあ、いったい誰が〉

〈あの…。俺、見てたっす〉


 このコメント欄で唯一、その瞬間を目の当たりにしたのは今日が初見の視聴者。


〈あのポーターが急に出てきて、キマイラの首を切り落としたっす〉


〈はぁぁぁぁ!?〉

〈ないね。それは絶対ない!〉

〈キマイラ倒せるならポーターしないって〉

〈あんな身体で50階層の敵を倒せねぇよ〉

〈で、でも俺はマジで見たんすよ〉


 初見さんの主張を、配信画面の中のリーダーが肯定する。


『魔法障壁を持つキマイラの首を、一撃で斬り落とした?』


そマ(それマジ)?〉

〈見間違いじゃ、ないんか〉

〈普通にありえなくね〉

〈ないない。だってポーターだぞ〉


『おい、まさかそれ伝説級(レジェンダリー)の武器か!? なんでポーターのお前なんかが持ってんだよ!』


〈そ、そっか。武器だ!〉

〈どっかでレア泥(レアドロップ)してたんだな〉

〈窃盗じゃねーか!〉

〈それはブレイズファングのもんだぞ!〉


 ダンジョン攻略中にポーターが入手した装備やアイテムは全て、彼らを雇ったパーティーに所有権がある。そのため視聴者たちの怒りがポーターに向けられる。


 数万人もの視聴者から書き込まれる怒りのコメント。

 

 しかしポーターの男、風魔(ふうま) (れん)は静かに答えた。


『これは伝説級の装備とかじゃありません』


〈伝説級じゃない?〉

〈もしかして、その上?〉

神話級(ゴッズ)ってこと!?〉

〈でもそれならキマイラ倒せたの納得〉

〈だとしたらもっとヤバいだろ〉

〈入手した瞬間、国に報告義務があるぞ〉

〈コイツ終わったな。刑務所行き決定〉


 誰もが超絶高性能な武器のおかげと思い込む。しかし蓮の行動と言葉に、視聴者たちは言葉を失うことになる。


『D級ダンジョンの第3階層で拾った上等級(アンコモン)です』


〈⋯⋯⋯⋯は?〉

〈D級ダンジョンの武器?〉

〈あ、アンコモン???〉

〈ちょい待って。意味が分からんが〉

〈上等級でキマイラ倒せんだろ〉

〈うん。絶対無理〉

〈マジでどゆこと???〉


 コメント欄が混乱と興奮の渦に飲み込まれ、視聴者数が爆発的に跳ね上がる中──


 画面の中の彼はクナイをリーダーに手渡すと、今日はもう帰ろうと提案した。


 通常、荷物持ち(ポーター)の意見など受け入れられるわけがない。しかし『退路を確認してくる』と言う彼の背中は、アイテム頼りのダンジョン攻略者たちが忘れていた本物の強者をはっきりと感じさせる。


 パーティーメンバーの誰も反対することなく、ブレイズファングは撤退を決めた。

 

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