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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第2章 富嶽学園

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第16話

 

「なんで俺、北条さんのことを翠様って呼んじゃうんだろ?」


 寮のベッドで寝ころびながら、今日の演習場での様子を振り返っていた。


 推薦でこの学園に入れたのに、結局ポーターをすることになったこととか納得できないことが色々ある。また提供された寮が驚くほど良い物件だったことなど、今日は本当に色んな事があった。それでも俺が一番気になるのは翠様のこと。


 彼女が纏うオーラのせいだろうか?


 100人を超える攻略者が所属する最強クラン『アークナイツ』で最高戦力と呼ばれる彼女が強いのは当然。一般人が憧れる気持ちもわかる。でもだからと言って、俺が翠様に対して献身の気持ちをこんなに強く持ってしまうのはなぜだろう?


 本当なら俺は忍ぶことを止め、難攻不落のダンジョンで無双して、じいちゃんから受け継いだ技を世間に広めていくつもりだった。


 もちろん学園でも無双してうやろうと考えていた。女子からキャーキャー言われるのも悪くないって思っていたんだ。それなのに……。


 翠様が近くにいる時、俺は彼女より目立ってはいけないと自然に考えていた。


 こんなことは初めてだった。

 とてもモヤモヤする。



「……学園じゃ大人しくするか」


 無双してやりたいという気持ちに嘘偽りはない。しかし翠様がそばにいる富嶽学園では今後もそれが出来る気がしない。今日たった1日だが、それを痛感した。


 無双したい。

 大人しくしなきゃいけない。


 その相反する気持ちを満たすことは簡単だ。


()()を使ってダンジョンに入っちゃえばいいんだよな」


 俺の手にはダンジョン攻略者証があった。


 今日、特進Sクラス校舎の地下にあった模倣ダンジョンを5階層踏破した俺たちには、ダンジョン管理局から公式に攻略者としての承認がもらえた。


 俺は特別指定のポーターじゃなく、正式な攻略者になれたんだ。


 だから俺はもう自由にダンジョンに入れる。


「よしっ。いこう!」


 ベッドから跳ね起き、俺は初日から学園を抜け出すことにした。



 ──***──


 一旦、自宅(ボロ屋)に帰り、装備を回収した。


「今22時。こっからなら、2時間くらいかな」


 目的地まで全速力で走って2時間。3時間ダンジョン攻略して、2時間で帰ってくる。明日の授業は9時からだから、シャワー浴びたりしても3時間は寝られる。


 いいね。

 それで行こう。


 なんで2時間も走るかっていうと、これが俺の初ダンジョン攻略になるんだから、でっかいことをやってみたいって思いがあった。あと移動で走るという選択肢を選んだのは単純に金がないから。普通の人は新幹線を使うと思う。

 

 荷物の最終確認をして、俺は影になった。


 闇に溶け込み、目的地に向けて音もなく超高速移動を開始する。



 1時間30分後──


 俺は富士山の麓まで来ていた。


「ワクワクしすぎて、飛ばしすぎちゃった」


 でも身体の調子は悪くない。

 良いウォーミングアップができたと思おう。


 ここには深淵(アビス)がある。それは日本で10か所だけ、地名とは別の名称がつけられたダンジョン。


 多くの冒険者が挑戦し、まだ1階層も突破されていない難攻不落。もちろんティアワンなど、多くの高ランク攻略者も挑戦している。それでも攻略できないらしい。


 高校の時にクラスメイトたちが話しているのを聞いてただけで、ここを攻略しようとする配信とかは見れていない。仕事が忙しかったから。つまり俺はこれが深淵ダンジョン初見ってこと。


 深淵(アビス)は日本の最難関ダンジョンだから、それだけ挑戦者が多い。攻略者は配信しなきゃいけない規則なので、アーカイブ動画を探せばいくらでも視聴できる。でも俺はそれらを見なかった。


 だって攻略者として初挑戦だもの。

 俺の初々しい感じを見てもらいたい。


 まぁ、1階層くらいいけるっしょ。

 そう軽く考え、俺は中に入った。

 



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