第15話
富嶽学園、地下5階の演習場。
「枢木君、攻撃がきます! 防御を!」
「あいよ」
身の丈ほどある大剣を構え、危険度B級モンスターが放った炎のブレス攻撃を枢木 颯が余裕で防ぎきる。
「防御、ナイスっす!」
彼の後ろに隠れていた沙霧 奏多が飛び出し、モンスターに斬りかかる。彼女の武器は刃渡り30センチ程度の小刀。それでモンスターの四肢に斬撃を加えていく。奏多の動きはとても素早く、大型の狼のようなモンスターが噛みつこうとしても、その身体を捕らえることができない。
「だいぶ動きが鈍ってきたっすね」
「うん。奏多ちゃん、ありがと。あとは任せて」
北条 翠がその手に持つ魔導杖を掲げると、轟轟と燃え盛る炎の槍が出現した。
危機を察知したB級モンスターが逃げ出そうとするが、奏多に傷つけられた四肢のせいで移動速度は明らかに遅くなっていた。
「そんな速度じゃ私の炎槍から逃げられませんよ。ファイアランス!!」
目にも止まらぬ速さで炎の槍が射出され、狼型モンスターのコアを貫いた。
モンスターが光の粒子となって消えていく。
富嶽学園は校舎の地下にダンジョンを再現していた。モンスターを倒した後に、こうして消えていく現象まで完璧に再現されている。
「やりましたね! これで試練はクリアです!」
翠が手を叩きながら喜んでいた。
「ほとんど北条さんのおかげっす」
「俺はモンスターの攻撃防いでただけだしな」
「そんなことないですよ。ここまでこれたのは、4人の力を合わせたおかげです!」
そう。この場には風魔 蓮もいる。
(よかった。忘れられてたわけじゃないんだ)
「みんな、お疲れ様。水いる?」
「あぁ。もらうよ」
「欲しいっす!」
「私もいただきます。風魔君も、ポーターお疲れ様でした」
蓮は富嶽学園に入ったのに、また荷物運びをやっていた。
ただそれも仕方ない。今朝のダンジョン適性確認で、他のクラスメイトがみんな適性率80%後半以上を叩きだしたのに、彼は11%しかなかったのだから。
今は初回の授業中。担任の不知火は、それぞれの戦力を確認するためといって、11人の特進Sクラスを半分に分けて演習場を地下5階まで踏破するように指示を出した。
颯、奏多、翠、そして蓮という4人パーティー。蓮はポーターなので、実質戦力外扱い。残るクラスメイトは7人プラス先生でパーティーを組んでいる。不知火が言うには、これでちょうど良いらしい。
引率の先生も同行せずにいきなりダンジョン攻略してるようなもの。しかし全く危険な感じはなかった。
(翠様は日本最強のティアワンだし、沙霧さんは俺と同じ忍びでダンジョン適性が90%越え。正直言って、このふたりだけで十分すぎたな。枢木君は本当に今日がモンスターとの初対戦だったけど、驚くほど冷静に対処していた。すごいと思う)
それが蓮の感想。
蓮は戦闘の邪魔にならないよう、かつ離れすぎてモンスターに狙われた時に翠たちに迷惑をかけないような距離を保ち、求められる前に必要なアイテムを供給する。縁の下の力持ちを心がけた。
(本当は与えられた役割なんか無視して、無双してやりたかったんだけど……。ただ翠様の前では出しゃばっちゃダメな気がするんだよなぁ)
何故か彼は、北条 翠のことを心の中では『翠様』と呼ぶようになった。ちなみに口に出して名前を呼ぶときは『北条さん』と苗字で呼ぶ。
「よし。地下5階のチェックポイントにも記録完了です」
狼型モンスターが守っていた人の腰ほどの高さの端末。これに翠は学生証をかざしていた。こうすることで、この場まで来たことの証明になる。
ここは人工的にダンジョンを再現した場所なので、いたるところに監視カメラがあるため本来この行動は意味がない。しかし実際のダンジョンでも踏破力を査定する試験ではこのようなチェックポイントが利用されるので、練習を兼ねて富嶽学園ではこのシステムを採用していた。
「それじゃ、帰りましょうか」
「はーい」
「了解っす」
「御意」
蓮は翠の発言に異を唱えない。それは彼女がティアワンで最強だから素直に従っている颯や奏多とは少し違うが──その理由は、彼自身もまだ気づいていなかった。




