第14話
地下演習場はダンジョン内を模した内装になっていた。エレベーターで降りてきたのに、ここが室内だと認識できなくなるほどの作り込み。
いや、もしかしたらここって──
本物のダンジョンなんじゃ?
「全員揃ったな。では早速だが、ダンジョン適性の測定を行う」
不知火先生が、ぼんやりと輝く拳大の水晶玉を取り出した。
「先生、それなんですか?」
生徒たちみんなが気になったことを、背が高くイケメンな男子生徒が聞いてくれた。彼は間違いなくクラス委員長タイプだな。
「発光玉と呼ばれている。触れた人間のダンジョン適性が高いほど眩く輝くという特性を持ったアイテムだ。これを用いて適性を数値化している。今、日本で行われているダンジョン適性検査は大半がこれだな」
なるほど。じゃあ俺たちがこの前やったあれも、でっかい装置の中にこの発光玉が入ってたんだ。そういえば装置に腕を突っ込んだ時、指先に当たったのはあのくらいのサイズの球体だったかも。
「誰からでもいい。順番に触っていけ」
「じゃ、まず俺が」
クラス委員長(勝手に任命)が真っ先に名乗り出た。
「枢木 颯だな」
「はい」
不知火先生が発光玉を突き出す。
それに枢木君が触れた。
──まっぶしっっ!
発光玉が滅茶苦茶明るく光った。
薄暗い地下演習場が真昼のようになった。
「ほう。ダンジョン適性88%か。なかなかやるな」
いつの間にかサングラスをかけている不知火先生。彼女は手に持つスマホで発光玉の輝度を測定していた様子。88%と出力された画面を俺たちに見せてくれた。
ここでも適性が晒されるのか……。
気分が沈んだ。
俺が入ったのは、富嶽学園に推薦で招かれた生徒たちだらけの特進Sクラス。どう選ばれたのか基準は良く分からないが、ダンジョンを攻略する基礎能力が高いと認められた生徒が集められたはず。
俺みたいに特別指定でダンジョンに入っていた人間を除けば、ダンジョン攻略能力というのはダンジョン適性で評価されるに違いない。
ダンジョン適性が88%もある枢木君のような人ばかりの可能性がある。
つまりピンチってことだ。
そんなことを考えてると、再び地下が光で溢れた。
「沙霧 奏多、92%」
先日俺を尾行した男装女子が、まさかの90%越え。
おいおいおい。
マジかよ、お前。
忍者だろ? 忍びのくせに、なんでダンジョン特性まで高いんだよ!?
沙霧君だけは俺の仲間だと思ってたのに……。裏切られた。
「次は私がやります」
可愛らしい女の子が前に出た。
きっとこの子も適性率高いんだろうな。
そんな俺の考えは甘かった。
──パキン
不知火先生が布越しで持っていた発光玉に女の子が触れた瞬間、その玉は真っ二つに割れて全く光らなかったんだ。
……まさか、これって。
「あー。やっぱりダメか。北条 翠、適性が高すぎて測定不能だ」
はい出ました!
強すぎて水晶玉割っちゃうやつ!
ラノベだとお約束だね。
てことはこの世界って、北条さんが主人公だったりする?
「ごご、ごめんなさい。アイテム、壊しちゃって」
「気にするな。学園長からはこうなる可能性も聞いていた。流石、Tier 1だな」
「「「えっ!?」」」
俺だけじゃなく、特進Sクラスのほぼ全員が驚いていた。
ダンジョン踏破能力が高いとされるS級攻略者。その中で強い順に上位30名が『ティアワン』だ。いろいろ条件もあると思うけど、少なくともダンジョン内なら北条さんは世界で30番以内に強い。
てか日本のティアワンって、たしかふたりだけじゃなかったかな。最強のうちのひとりがクラスメイトにいるってことか。
「せっかくだから紹介しておこう。この北条 翠は日本最強クラン『アークナイツ』の矛と呼ばれてる。この学園で学ぶことなんかないくらい強いぞ。お前たちは彼女を参考に……、できるかは分からんが、切磋琢磨して日本の未来を切り拓くんだ」
なんか先生、若干投げやりじゃないっすか?
目が物語ってるんですよ。『もう翠だけいればよくね?』って思ってるって。
「あ、あのっ。私なんかで良ければ、いつでも訓練に同行しますので、一緒に頑張りましょうね!!」
うわぁ。たぶん、めっちゃ良い子。
最強で、人格者? え、ヤバ。
絶対に翠様が主人公じゃん。
「さてと。次は風魔 蓮、お前だ」
「えっ」
不知火先生が2個目の発光玉をどこかから取り出していた。
いや、もちろんいつかはやるよ。
でも今じゃないでしょ。
翠様から俺って、落差酷くない?
「どうした。早く触れ」
「……………」
とっても嫌だ。
俺は神頼みした。
この瞬間だけで良いです。俺のダンジョン特性が、せめて50%を超える奇跡を起こしてください!!
祈りながら発光玉に触れる。
それはぼんやり輝いた。
もとから少し発光しているんだけど、その輝きがちょっとだけ増した。
「ん、と。じゅ、じゅういち、ぱーせんと、だな」
不知火先生が笑いを必死に堪えながら結果を伝えてくれた。
この人、絶対こうなるって分かってやっただろ!
「じゅういち?」
「111とかじゃなくて?」
「え、じゅういちって。マジっすか」
みんなの視線が突き刺さる。
俺は忍ぶのを止めたはずなのに、今すぐこの場から姿を消してしまいたくなった。




