第12話
ダンジョン適性検査があった日の夜。日課のランニングを終えて家に帰ろうとしていた時、違和感を覚えた。
誰かに見られている感覚。
これは……。
誰かに尾行されてる?
忍者だから他人を尾行するのは慣れている。逆に自分が尾行されてないかなども感じ取れるよう、厳しく訓練されてきた。
──そのはずなんだけど、尾行者の気配をいまいち掴み切れない。
風魔の忍びとして免許皆伝を受けた俺がそんな状態なんだから、尾行者はかなり腕が立つ存在であることが判る。ドローンとかを使った尾行じゃない。このまとわりつくような感覚は、間違いなく人間がどこかから隠れて俺を見ている。
思い当たることと言えば、氷浦関係だろうか。
俺は今日、巨大企業の御曹司を人目のある場所で恥をかかせたので、彼の関係者が最強クラスの忍びを雇って俺に復讐しようとしているとか。
ただ、殺気は感じないんだよなぁ。
どちらかというと、俺に興味を持っている感じ。
「さて。どーしよっかな」
このまま家についてこられては困る。
あのボロ屋で戦闘なんかになったら、一瞬で俺の家がなくなってしまう。まぁ来週からは富嶽学園の学生寮に入れるから良いんだけど。
よし、決めた。
とりあえず挨拶しに行こう!
勢いよく気を放ち、それをソナーのように使って周囲の状況を瞬時に把握する。
──発見!!
尾行がバレたことに気付いた何者かは、もう逃げ出していた。しかし俺は追跡体勢に入る。地面に吸い込まれるように身体を低くし、滑るように超高速で尾行者を追いかける。
けっこう早いな。
でも俺ほどじゃない。
街灯のない裏路地で追いつき、尾行者の進路をふさいで立つ。
「俺に何か御用ですか?」
「──っ!?」
尾行者は俺より小柄だった。
中学生くらいか?
忍びは幼い時から訓練される。俺より若いのに、俺より強い忍者がいてもおかしくない。もしそうでも、逃げるだけなら何とかなりそうだから追いかけてきた。
顔は隠されていて見えない。
そして俺と話す気はないようだ。
武器を取り出し、俺に向けてきた。
「あ、それ! 俺も使ってます」
D級ダンジョンで手に入れられるクナイ。ダンジョン産武器特有のオーラで、尾行者さんが持つものが俺のと同じであることを把握した。とりあえず同じクナイを使っているとアピールしてみたが、反応はしてくれなかった。
「なんで俺を尾行してたか答えてくれません?」
「…………」
尾行者さんは無反応。
「答えてくれないなら──」
捕まえて吐かせる。つい昔の癖でそんな思考をしてしまった。うっかり漏れた殺気に触れた尾行者さんがビクッと身体を震わせた。
でもこの程度で怯むってことは、あんまり強くないんじゃないかな。少なくとも実戦経験はあまりないだろう。足がそこそこ速いのは確かだけど。
「手荒なことはしませんよ。だからちょっとお話ししましょうよ」
声さえ聞ければ色んな事がわかる。
骨格を変えて変装しているのかなども。
相手もそれを分かっているらしく、発声しようとしない。
「話してくれないなら、仕方ないんで捕まえちゃいますね」
尾行者さんが逃げ出そうとした。
でも俺の方が早い。
素早く接近し、その胸部に腕を回す。
これは言い訳なんだけど、腕の下から手を入れて胸部を抱えるようにしたのは逃げられないようにするためって以外の理由はない。だって腕とか手首を掴んでも、忍びなら簡単に逃げられちゃうから。忍びを捕まえようとするなら、これが一番確実だ。
俺が尾行者さんの胸に腕を回したとき──
ふにゅん
「きゃっ」
尾行者さんが可愛らしい声で、悲鳴を上げた。
柔らかかった。
俺は思わず手を離していた。
「…………」
「…………」
互いに距離をとる。
女性だったのか。
着痩せするタイプかな?
結構大きかった。
大きさと柔らかさを思い出すように俺が無意識で手を動かしてしまう。
「──っ!? へ、変態!」
尾行者さんからそんな言葉を投げつけられた。
「女性だって思わなくて。すみません」
なんで謝っちゃったんだろ。
忍びを隠れて尾行してたんだから、捕まったら拷問されてもおかしくない。少なくとも俺は、ちょっと前までそんな闇の世界で生きていた。
さてと。この子どうしよっかな。
そんなことを考え始めた時──
彼女より数段強そうな。
かなり強力な殺気がどこからか放たれた。
それに気を取られ、もはや脅威に感じなくなっていた女性からは意識が離れる。
「……あれ?」
殺気が収まった。
それと同時に目の前にいた女性は消えていた。
「マジか。逃げられちゃった」
おそらく彼女を逃がすために俺を牽制したんだろう。あのレベルの殺気を放てるなら里で最上位の忍びか、里長レベルなんじゃないかな。
危ない危ない。
そんな人たちに目を付けられたくない。
彼女に手を出さなくて良かったと思う。
とりあえずもう監視する存在は感じられなくなったので、俺は自宅に帰ることにした。
──***──
少し離れた場所。
「あ、危なかったっす。じいちゃん、俺を助けに来てくれて、まじ感謝っす」
沙霧 奏多は冷や汗を拭いながら、祖父である半蔵にお礼を伝える。
「いや、お前。なにをしとるんじゃ。アレはヤバいぞ。チラッと見せた力の片鱗だけでも、おそらく儂の全盛期に近いものを持っておる」
「えっ」
「風魔という姓を隠さず名乗る、ガチモンの風魔一族だとは儂も思っておらんかった。しかし忍びだとわかっていて、そのオーラをあそこまで完璧に隠せる者に出会ったなら、尾行など即刻中止して逃げねばならん」
「ご、ごめんなさいっす」
「ちなみに彼の前で声は発しておらんだろうな? 風魔の忍びは耳が良い。声から様々なことを感じ取る。少しでも話せば、奏多の素性がバレるぞ」
その話を聞き、奏多が顔を青ざめさせる。
「まさか、声を?」
「⋯⋯はいっす。で、でも! 本当にちょっとだけっすよ!?」
半蔵は諦め、遠くを見つめた。
「え、えっ。じいちゃん? あの、俺、大丈夫っすよね? ちゃんと来週から学園生活送れるっすよね? ねぇ!?」




