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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第1章 忍者の末裔

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第11話

 

 高校卒業まで残り1週間となったある日。

 俺たち生徒は体育館に集められていた。


「今日は事前に連絡した通り、卒業前のダンジョン適性検査をするぞー。出席番号順に並ぶように」


 担任の誘導に従い、俺たちは人ひとり入れるサイズの装置の前に並んだ。これがダンジョン適性を評価するマシン。学生の人生を大きく左右させる装置でもある。


 基本的にダンジョン適性というものは低下することがない。高校3年生の4月に実施する適性検査の結果が高ければ、この時期の結果も高くなる。一方、ダンジョン適性が上昇するというケースも稀に存在する。


 もう卒業が決定し、一般的な大学への進学や就職が決まっている生徒たちにとって、今更ダンジョン適性が高くなったと言われてもどうしようもない。装置稼働費用の問題などから、年2回が限界だと言われている。それでも、できることならもっと早い時期に実施するなど検討してほしいと以前から言われている。


 ちなみに俺は4月のダンジョン適性が10%程度。特別指定でポーターになれるギリギリの数値だ。高校1年の時に特別指定を受けるために検査を受けて以来、全く変わっていなかった。


 下がることはほぼ無いと言われているから、今回の検査も大丈夫なはず。もし下がっていて、ダンジョン入りが認められないってなったら富嶽学園への入学も取り消されてしまうかもしれない。そうなれば生活費や装備費が無料で、ダンジョンを攻略した報酬などは全額貯金できちゃう最高の学園生活を送るという計画が崩れ去ってしまうんだ。


 贅沢は言わない。

 10%あればいい。

 

 そんなことを思っていると、装置が激しく鳴動した。そこで出た結果を担任が読み上げる。


氷浦(ひうら) 祥吾(しょうご)、78%」


 同級生たちから歓声が上がる。

 氷浦が4月から3%も適性を上げたんだ。


 A級以上のダンジョン攻略者になれる人たちの平均適性が60%程度らしい。


 そしてこの装置は国が管理しているものだから、不正は出来ない。嫌味な奴だが、やっぱり彼は『持っている奴』だった。


 これはきっと氷浦は大騒ぎするだろうな。


 そんな俺の予想とは裏腹に、装置から出てきた氷浦は騒ぐことなく冷静だった。そして静かに俺を見ている。なんか気持ち悪い。


「次、風魔 蓮。装置に入りなさい」

「はーい」


 装置に入ると、自動音声がどうすれば良いか指示を出してくれる。それに従い、内部にある椅子に座って、目の前にある装置の穴に腕を突っ込む。


 忍びとして企業へ潜入する時とかのために色んなシステムの構造を頭に叩き込んでいる俺だけど、この装置は何がどうなっているのかさっぱり分からない。だから忍者でも不正が出来ない公正なシステムだと言える。


【風魔 蓮様、ダンジョン適性は11%です】


 よっしゃぁぁぁあ!!

 1%あがったぁぁぁああ!


 嬉々として装置から外に出る。


風魔(ふうま) (れん)、11%」


 当然のように俺の数値も読み上げる担任。4月の時とか、氷浦の時は全く疑問に思わなかったが、この時ばかりはダメだろうって思った。


 だって俺、氷浦の席を奪って富嶽学園に行くようなもんだから。


 氷浦がダンジョン適性78%で、俺が11%だなんてことが判ったら──


「蓮、ちょっとこっちに来い」


 ほらぁ、やっぱりこうなるじゃん。


「……へい」


 断れる雰囲気じゃなかった。俺が彼についていくと、その場にいた全員がぞろぞろと移動し始めた。先生たちもなぜか止めようとしない。



 俺は氷浦に校庭の真ん中まで連れてこられた。クラスメイトや同学年のみんなが俺たちふたりを囲むように立っている。


「俺と勝負しろ。俺の方が富嶽学園へ行くのに相応しいってことを証明してやる」

 

「相応しいかどうかを決めたのは俺じゃない。それにダンジョン適性が高い人間がダンジョン外で無許可の私闘をすると逮捕される。授業で習ったよな」


「覚えている。だから俺は特別指定を受けてきた」


 ……こいつ、もしかして知ってるのか?


「それがなに?」


 とりあえずとぼけてみる。


「蓮、お前も特別指定を受けてるんだろ? 特別指定を受けた者同士なら、訓練対戦が可能だ」


 周りがざわついた。特別指定を受けているということは、未成年でありながらダンジョンに入っていたということ。それがクラスメイトたちにバレてしまった。

 

 どうやったか分からないけど、氷浦はダン管で管理されている俺の情報を調べたみたいだ。どこまで知っているか分からないが、下手に刺激しない方が良いだろう。


「わかった、戦おう。ダン管への訓練対戦モードの申請は?」


「もうしてある。先生からの許可も得た。それから、武器はこれを使う」


 氷浦の取り巻きの学生が2本の剣を持ってきた。それはダンジョン攻略者が使用する最も初歩的なチュートリアル用の両手剣。


 その剣を1本受け取る。

 特に変な仕込みはされてないみたいだ。


 俺が今までダンジョンに入っていたことを知った上で、小細工抜きで俺と戦おうということらしい。



 氷浦がダンジョン管理局から借りてきた装置を校庭の中心に設置すると、対戦訓練用のフィールドが展開された。この直系30メートルのフィールドには対戦が終わるまで部外者が入れなくなる仕様。


「準備は良いか?」


「おう!」


 実は人との対戦ってコレが初めて。

 ちょっとワクワクしてる俺がいた。


「……なんでお前、余裕そうなんだよ」


「えっ」


「俺はダンジョン適性が78%、お前は11%だ。それで互いにダンジョン産の同じ武器を持って戦うんだから勝負は見えてるだろ!!」


 俺に棄権しろと言ってくれてんのかな?

 それか実は人と戦うのが怖いとか?


「俺が特別指定を受けてたって氷浦がバラしちゃったからもう言うけど、俺はポーターとしてダンジョン攻略に同行してきた。自分の身を守るためにモンスターと戦闘もした。特別指定を受けたばかりのお前とは経験値が違う」


 手加減しなくて良いというつもりで言った。

 それが彼を下に見た発言だと思われたようだ。


「ふっざけんなぁぁぁぁああ!」


 両手剣を上段に構えた氷浦から強力なオーラが溢れ出す。


 凄いな。これがダンジョン適性78%か。


「死ねぇぇ! ギガノブレイク!!」


 高速で振り下ろされた両手剣から放出された斬撃が、地面を抉りながら俺に向かってくる。


 ちなみに訓練対戦モードでは相手を殺せない。死に至るようなダメージはフィールドが吸収してくれる。とはいえ、もろに喰らえばしばらく行動不能になる。


 富嶽学園への推薦入学をゲットした俺が、氷浦に負けて校庭の真ん中に横たわるなんてかっこ悪い姿を晒すわけにはいかない。それにもう特別指定を受けていたこともバレた。俺が推薦で富嶽学園へ行くことは高校中で噂になっている。


 富嶽学園に行くのは氷浦(ひうら) 祥吾(しょうご)ではなく、この俺──風魔(ふうま) (れん)で良いのだということを、この場にいる全員に見せつけよう。


 俺はもう、忍ぶ必要はないのだから。


 

  

「どうだ! やったか!?」


「それ、やれてない時のフラグだから」


「──なっ!?」


 無傷の俺を見て、氷浦が驚いていた。


「な、なんで全くダメージ受けてないんだよ! どんなチート使いやがった!? さ、さてはお前、何か装備を身に着けてるんじゃ」


「ううん。俺が今この身に着けてるダンジョン産の装備はこの剣だけ」


「じゃあなんでだ! なんで適性78%の俺が全力で放った攻撃で、たった11%しか適性のないお前が無傷なんだよ!!」


「良いことを教えてあげよう。ダンジョン適性って、ダンジョン産の装備やアイテムが攻略者に力を貸してくれる時の補正値なんだよ」


「……そんなこと、分かってる」


「いや、わかってないと思うよ。だって氷浦はダンジョン適性が高ければ、それだけ武器の性能を引き出せるって勘違いしてるでしょ?」


「お、お前は何を言ってるんだ。勘違いなんかじゃなく、当然のことじゃないか!」


「ダンジョン適性は、装備が力を貸してくれる補正値。ただそれだけ。ダンジョン産装備の力を限界まで引き出す方法は他にもある。例えば──」


 両手剣を片手で天高く掲げる。

 

「これがこの武器、初心者の剣(ビギナーズソード)の100%の力だ」


 掲げた剣を、ただ全力で振り降ろした。


 スキルではない。

 魔力による強化でもない。


 幼少期から数万、数十万回と繰り返してきた素振りの果て。筋肉の一節一節を連動させ、最小の予備動作から最大の出力を一点に集中させた。


 凄まじい衝撃波が吹き荒れる。


 氷浦が放った渾身のギガノブレイク、その破壊跡がただ校庭の表層を軽く引っ掻いただけに思えるほど深く地面を抉り、斬撃が突き進んでいく。校庭がV字に陥没し、砂煙が天高く舞い上がる。



「…………え?」


 氷浦が呆然と声を漏らした。


 彼の視線の先。俺の右手には、もはや剣の形をしたものは残っていなかった。


 パキパキと音を立てて、鉄の破片が地面にこぼれ落ちる。


 ダンジョン産の装備は持ち主の適性に応じてその性能を引き出す。だが道具には限界というものがある。初心者の剣(ビギナーズソード)という低ランクの器は、俺が発揮した純粋な物理速度による負荷に耐えきれず、自壊して光の粒子へと還っていった。


「な、なんだよ。それ……」


 氷浦が膝から崩れ落ちた。


 ダンジョン適性78%の彼がどれほど力を込めても、武器が壊れることなどなかっただろう。だからこそ武器の性能を引き出すのではなく、たった一度で武器を使い潰すという異次元の強さを感じ取ってくれたようだ。


 11%という数値が無意味であることを理解してほしい。


「適性がどうとか、あんまり関係ないんだよ」


 俺は右手の痺れを軽く払い、フィールドを維持していた装置のスイッチを切った。砂煙が晴れ、静まり返った校庭で全校生徒の視線が俺に突き刺さる。


「俺が勝ったんだから、富嶽学園には俺が行く」


「あ、あぁ……。それは、もういい。でも待ってくれ! 俺も蓮みたいに強くなりたい! どうやったらそこまで強くなれる!? このとおり頼む、教えてくれ!!」


 彼のプライドはへし折れたらしい。

 氷浦が俺に頭を下げて教えを乞う。


「ダンジョン適性78%ってのは凄いと思う。でもそれに慢心してスキルや装備頼りの攻略を始めたら、俺みたいにはなれないよ。素振りとか基礎訓練を続けて。それで成長に限界を感じたら連絡して。クラスメイトだったよしみで特訓してあげる」


 本当に氷浦が俺を頼ってくるかは分からない。努力もせず俺を頼ってきたら相手しない。自分を限界まで追い込んで、より強くなりたいと彼が俺の元に来たらじいちゃん直伝の忍びの技を教えてあげよう。

 

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