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忍者の末裔は忍ばない  作者: 木塚 麻弥
第1章 忍者の末裔

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第10話

 

 3月、品川第2ダンジョン、10階層。

 俺はポーターとして最後のバイトをやっていた。


「レン君、今回もナイスアシスト」

「回復薬ありがとね~」

「良いタイミングで助かったよ」


「どういたしまして」


 今回同行しているのはレッドドラゴンというS級パーティー。6人2組で計12人という中規模パーティーで、彼らがB級だった時からたまに俺を雇ってくれていた。


「レン君ってさ、今回がポーターするの最後なんだよね」


 戦闘がひと段落して各自装備を点検したり、回収した素材を整理している途中、回復術士のアカリさんが声をかけてきた。初めて雇ってもらった時から俺のことを気にかけてくれた優しい人だ。


「はい。俺も攻略者になりたいなって」


「暁組に同行した時の配信見たよ。あんなに強いなら攻略者になるべきだよね。でもなんで今まではやろうとしなかったの?」


「それはなんというか……。自分の力に自信がなかった、とか?」


「あいまいだねぇ。なんか他にも事情がありそうだけど、漆黒のキマイラ瞬殺しちゃう子が自信ないなんて言っちゃダメだよ」


「す、すいません」


「責めてるわけじゃないの。私たちはレン君と一緒に攻略できたおかげで、こうしてS級まで上がれたんだから」


「それは流石におだてすぎですよ。だって俺、レッドドラゴンに17回しか同行してませんし」


「17回()、な。それは俺が雇ったポーターの中で最多だぞ」


 リーダーの久龍(くりゅう)さんが会話に入ってきた。


 ポーターはいざという時、囮として置き去りにする可能性がある。情が移ればそれができなくなる。だから多くの攻略者は専属のポーターを雇うことをしない。


「レンには昇級がかかった大事な攻略の時とかに依頼してきた。お前はいつも俺たちの期待に応えてくれたんだ。そんなレンがポーターを辞めちまうのはとても悲しい」


「私もです。だからどうです? もういっそウチに入っちゃいません?」


「おっ。それいいな」

「うちに来いよ」

「ここ待遇はかなり良いです」

「配信で見せた実力がありゃ十分」

「十分すぎじゃない?」

「レン君が主力になっちゃうね」


 パーティーメンバー全員が俺を誘ってくれる。S級まで上がった人たちに認めてもらえて嬉しいが、俺にはどうしてもやりたいことがあった。


「みなさん、ありがとうございます。でも俺、まずはソロでダンジョン配信していきたいんですよね。ちょっと自由にやってみたくて」


 18歳未満でダンジョンに入るには特別指定を受ける必要があるが、それでなれるのはほとんどがポーターだ。ごく一部のダンジョン適性が高い人だけが特別指定で攻略者になることが出来る。俺のダンジョン適性は最低ラインぎりぎりだったので、攻略者になる許可は降りなかった。


 ちなみにポーターになったからといって戦っちゃダメなわけじゃない。ダンジョン管理局が定めた制度的には、パーティーリーダーの同意があればポーターであっても戦える。ブレイズファングとは必要に応じて戦闘も許可される契約をしていたから、俺がキマイラを倒したのも問題にはならない。


 ただあの時までそうしなかったのは『忍びの技を見られるべからず』っていう、風魔の里の掟に縛られていたから。


 掟から解放されて忍ぶことを止めた瞬間から、やりたいことが溢れ出してきた。そのやりたいことのひとつが、自分でダンジョン攻略配信をすること。


 踏破は不可能だって言われているダンジョンをソロで制覇する様子を配信し、じいちゃんから受け継いだ技が最高だと世間に思い知らせたいんだ。


「ソロはきついんじゃない?」


「なにかあった時に助けてくれる仲間がいないのは危険だぞ」


「そうそう。せめてペアで行動すべき」


「はいはい! 私、レン君に同行するよ!」


 レッドドラゴンのみんながソロは危険だと止めてくれる。アカリさんに至ってはパーティーを組んでくれると言ってくれた。


「ありがとうございます。もちろん安全マージンは十分とって攻略します。それでキツいなって感じたら、パーティーに入るか自分でパーティーを作るか検討します」


「そん時は是非うちを候補にいれてくれよ」


「もちろんです。久龍さんにはたくさんお世話になりましたから」


「でも久龍さん、今までレン君に加入を勧めなかったのはなんでですか? 3回目の同行依頼を出した時から、私たちはレン君ならパーティーに正式加入してもらっても良いんじゃないかって話してましたよね。久龍さんが直接レン君を誘うのって、これが初めてなような気がして」


「あー。それは……」


 困った顔で久龍さんが俺を見てきた。この会話の内容も配信されているので、ここでの言葉は世界に向けて発信するのと同義。


「言っちゃって良いですよ。これがポーター活動の最終日なんで」


「お、そうか。じゃあ遠慮なく。実はパーティーのリーダーだけには雇うポーターの素性まで公開されるんだ。レンって、特別指定のポーターなんだよ」


「特別指定? それって、未成年の……。えっ? もしかしてレン君、未成年?」


「はい。来月から大学生になるんで、そこで免許が取れればやっとダンジョン攻略者になれるんです」


「ま、まじかよ」

「あの動きが出来る高校生?」

「ヤバくね」

「高校生にしては落ち着いてるよな」

「でも可愛いなって思ってたんだ」

「顔は隠してても、仕草とかね」

「5つも年下だったかぁ」


「まぁ、そーゆーわけで特別指定のポーターだったレンはダン管のお抱えだから、俺らのパーティーに引き入れるわけにはいかなかった。んで普通なら特別指定のポーターは大学には行かず、そのまま管理局で働くようになる」


「あれ? でもレン君はさっき大学に行くって」


「そう。コイツは都の制度を変えやがった」


「俺がなにかしたわけじゃないですけど」


「ほんとにそうか? 偶然にしちゃタイミングが良すぎるぞ」


 (あおい)さんに相談はした。

 でもほんとにそれだけ。


 ダンジョン管理局の窓口のお姉さんに相談したら、翌週には東京都の制度が本当に変わったなんて説明して、誰が信じてくれるだろうか。


「まぁいい。とりあえず俺が何を言いたいかって言うと、まだ俺たちにはレンを加入させるチャンスがあるってことなんだ」


 久龍さんの目つきが変わった。

 ボス戦前の、鋭い真剣な目だ。


「お前ら、このダンジョンをサクッと踏破し、その後も名声を積み上げるぞ! そんでレンの方から『レッドドラゴンに入れてください』って言われるような最強パーティーにするんだ!」


「「「おおぉぉぉぉ!!!」」」

 

 ヤバいな。

 この人たち、激アツすぎる。


 久龍さんやアカリさんたちに失望されないよう、俺はもっと頑張らなきゃいけないって想いを胸にしっかりと刻み込んだ。

 

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