花飾りの花嫁をもう一度(3)
「アイツは本当に、意地っ張りな姉上だったから…。こんな時でなければ、最後までボクに隠したままで逝ってしまわれただろうね…」
「もう、お前たち二人を咎める者は誰も居ない。陛下でさえ、会ってやって欲しいと零していた…。あの子も、本心ではエリヴァルイウスに会いたがっている。出来れば、早い方がいい」
「姉様と、ベリウスと…」
エリヴァルは涙を拭い、叔父の肩から手を離して真っ直ぐに立ち、それから大きく深呼吸をしてからオーカスに向き合った。
「ーー会わないよ。ボクは、ベリウスに決して会わないまま別れを告げるんだ。ボクには…。私には使命が有るから、王を産んでベリウスの娘アリサと繋げ次代へと引き継ぐ義務がある。だから、姉上の姿は想い出のままで、いいんだ…」
「本当に、お前はそれでいいのか? もう、最後まで会えないまま終わりを告げられる事になるのに…?」
「うん、会わないよ。彼女も、弱ったお身体を見られたくはないんだ。……女だからね。いつまでも美しかったベリウスのままで、オーファルゴートの母なる始祖神ベルソナの身元に旅立ったと思って貰いたいんだ。だから、お会いしたくないし、その姿を見たくはない」
「ーーわかった」
何かを感じ取ったかのように、オーカスはエリヴァルの手から離れ、自室の小部屋から蜜色の帽子箱を持ってきた。
「もしも、お前が最期まで姉と会わないと決めたなら。これを渡すように、侍女に言われていたそうだ。会うと決めたなら、この箱は焼き捨ててくれと…」
「姉上は、何をボクに…?」
震える手で帽子箱を持ち、蜜色のリボンで結ばれた箱を開く。
やや煤けて、艶を失った薄紫の髪の束に金の髪飾りが付けられたそれは、まるで付け髪か装飾品のように丁寧に織り込まれて整えられていた。
自分の髪を切って送った時のように、薄紫の帽子箱に詰めて送った蜜色の髪と引き換えのように、思ったよりも軽く、心を突き刺していく。
「……こんなになるまで、何も告げないなんて、酷い姉上だ。何十通も送り付けた手紙とプレゼントの返事に、何度も何度も、会いたいとか、愛していると伝えた言葉のお返しが、これ…を私に届ける事だなんて!」
「受け取った上で、お前が会いたくなったとしても、姉はお前を責めはしない。会ってやって貰いたい。ここからお前が離れて、ずっと姉の元で暮らしたいと願っても構わない…。少し考えてから決めるのでもいい。後で後悔するよりも、会って僅かでも言葉を伝えてやってくれ」
「叔父上…」
ベリウスと最後に会えたら、どんなに素敵な事だろう。弱った姿を見られたくないだろうけど、本心では会いに来て欲しいはずだ。
アリサ姫の姿を見て、姉上の髪を梳かして、それから愚痴や不満なんかを口にしながら、お茶を飲んで二人で過ごすんだ。
ベッドから起き上がれなくても、言葉を発してくれなくても、エリヴァルの事をもう見れなくなってしまわれていても、あの人の傍にさえ居られたら…。
蜜色の帽子箱の隅には、小さなメッセージカードが添えられていた。二人にしか知らない言葉で書かれたそれをそっと隠してから、エリヴァルは箱の蓋を閉じた。
「それでもエリヴァルイウスは、ベリウスとは…。第一王女とはお会いしないよ。これから叔父上を子を孕むための道具にして、次代の王を私は産まなくてはならないんだ。感傷に浸っている時間はもう、終わりにしよう。
私たちには、大切な役目があるのだから、先の将来だけを考えなくてはならないんだ」
「……そうだな。それが第二王女としての、退屈なクイーンとしての決断なら、私は子を孕むだけの道具に成り切ろう。出来る限りの医師は集めてきた、有能な薬師も揃えてきた。後は、残された時間がどれだけ伸びるかだけの話だ」
オーカスはひざまずき、クイーンの手の甲に口付ける。
しっかりと前を見た彼女は、それまでの姪とは違う、王族としての気品に満ちた深い笑みを浮かべていた。




