花飾りの花嫁をもう一度(2)
城内には、小雨が降り注いでいた。
衛兵の静止を振り切り、厩舎を抜けていくとベリウスが可愛がっていた愛馬のグリンフィールがいななく、悪い予感が押し寄せて足速に進めて行けば、ようやく見知った黒い銀の車輪が見えてきた。
「エリヴァルイウス…。お前、こんな所にまで」
「叔父上、ベリウスは!! 姉さまはご無事なの…?」
馬車の窓から抱き上げられ、濡れた頭にショールが巻かれた。御者に馬を出すよう伝えてから椅子に座らせ、エリヴァルの髪を拭いていく。
「早る気持ちはわかるが、お前が体調を崩しては報告も何も伝えられなくなる。何より、城を出る事を禁じられた身の上だろうに」
「ーーごめんなさい。ベリウスの様子がどうだったか、知りたくて」
馬車が降車場に停まった。オーカスはエリヴァルの頭を撫でてから抱えたまま、城内へと入っていく。
「これから告げる事は、あまり良い話ではないが、お前の姉も生まれた姫君もちゃんと生きている。まずは身体を暖めてからだ。経過の報告をするから、今は自分を大切にするんだ。わかるな…?」
「…うん、ごめんなさい」
開いたままだった部屋の扉を閉め、やって来た侍女達がエリヴァルの濡れた髪を整えさせて着替えをし、熱い紅茶の準備をしていく。
「お前は、本当に姉が好きなのだな…。私に対してもそう想って貰いたいとは考えていたが、一度決めた気持ちは動かなかったか…。まあいい、姉姫の話だが……恐らく、長くは持たないだろう」
「持たないって、どういう事…?」
「それは言葉通りだ。本人と御子にも会ってきたが……まるで、娘を産むために残された力を全て使い尽くしたかのように、衰弱し切っていた。
お前の縫った産着を喜んでいたよ。恐らくだが、以前から身体は弱っていたのだろう。私と会っても言葉も出せず、何十年も歳を重ねたかのように頬が欠けて虚ろになっていた」
「ーーどうして…。何でベリウスは、そうまでして子供を産んだの…? 弱った身体で孕んだりしたら、命を落とすって分かりきっているじゃないか」
オーカスは幾度も胸を叩くエリヴァルの髪を撫で、溢れ出る涙を拭った。
「きっと、お前のために産んだんだ。婿殿に話を聞いた所、王宮に居た頃から体調が優れなかったらしい…。元々、気候の良い場所で暮らしていた所から王宮入りしたからな。この国で住むには、少し難しかったのだろう…」
「陛下はもしかして、ベリウスの事を知ってて、暖かい辺境伯領に…」
様子を伝えてくれる侍女達は、お元気ですとしか体調について今まで教えてはくれなかった。
既に医師が常に付き添って居て、いのちの灯火が尽きかけている事も。
「そこまでの憂慮をした上で、采配を決めるお方だ。お前の母君は、昔囚われたお前を救うために私を派遣して、カスティアに悟られる事も気にせずに姉姫を呼びつけた。お前の母は、私の義姉。娘たちを愛せないような、冷たい女王陛下のはずが無いだろう…?」
「陛下。ヘリティギア母さま…」
不器用な所と、意地っ張りな部分は本当に姉に似ている。もしかしたら、流行り病で避難した際にリリスを雇ったのも、今回の同居生活に同じ傷を持つフレドリクスを加えたのも、陛下のご指示なのかもしれない。




