花飾りの花嫁をもう一度(1)
予定より早産では有ったが、第一王女の出産は国内外を問わずに知れ渡った。
産褥熱に侵され、王女の身は伏されたまま姿を現さなかったものの、久しぶりの慶事に城内は浮き足だつ。
普段は口をつぐんだままの女王でさえ、この時ばかりは喜びを口にし、遠く離れた娘の大義を褒め称えた。
「経過が良くなかったのに、無理をして産んだらしいよ。赤い髪をした姫君だってね。瞳の色も姉上と同じ赤になるのかな…」
「お名前は、姉姫さまがアリサと名付けられたらしいわ。アリーサ、アリッサではなく、三音のアリサだそうよ。少し言いにくい、珍しい発音の名を持つ姫君になったわね」
侍女からの定期報告の手紙を見つめながら、リリスは辞書をパラパラと捲った。
「姉上の本当の名前は、マリア・オーファルだからね。王宮に入る際に捨てた名と言っていたから、そこから取ったかもしれない…。意味はベリウスが住んでいた国の言葉らしいし、誰も知らないよ」
「そう…。マリアで、アリサと韻を続けたのね。でも、そんな短い名前を選んだという事は、姉姫さまは女王にさせる気は無いのかしら?」
「最初から、そのおつもりだったんだろうね。ボクたちに託して、生まれた子供をつがいにして王にするか、どちらかに姫君が生まれたら、女王に…」
談笑ですっかり冷めてしまったお茶を飲み干し、少しだけ先を思い描く。
私から生まれる子供は、男の子に間違いない。ベリウスが女の子を産んだから、次の国王となる子供が生まれてくるはずだ。
「定例なら母子共に城下に姿を見せるのに、今回は控えているし、産褥熱を抱えた姉上のお身体に何も無いといいのだけど…。叔父上が今、様子を見に行ってくれているから…今は、それをじっと待つしかないかな…」
出産の祝いは、ノースと一緒に縫い上げた小さな産着。使ってくれるかは分からないし、きっと返事も届かないけれど、無事でさえ居てくれればそれでいい。
「後は、ボクが王子を産めば王家は100年以上安泰さ…。生まれながらに、王となる定めを持った子供。無責任な母親に、ボクはもうじきなるんだ。まだ、孕んでさえ居ないけれど、その日は近い予感がする」
「花飾りの花嫁の試練にでも、また挑戦するの?」
「そうだね、口枷だけはしないと試練を乗り越えられそうにもないけど…。それを達成したら、良い子供を産めるって話だからね」
叔父の帰りは、夜遅くになると言っていた。外はまだ日が高く、空を眺めて待ち続けていたとしてもすぐには時間とならない。
ベリウスが無事でありますように…。アリサ姫が健やかに、元気に育ちますようにと祈りながら空虚に天井を眺めた。
オーカスの馬車は夜を過ぎてもまだ届かず、不安を抱えたままのエリヴァルは、一人自室で叔父の到着を待ち続けた。
二度、三度と違う車軸の音が門を通り過ぎてから、ようやく見知った音が閉門間際に聞こえ出した。




