心を軽くする薬(3)
「こんなに広いとは思わなかったわ…。まるで、川に水浴びに来たみたい」
「この部屋だけは、湯を沸かす機械が備わっているから、冷えてきても水甕を持ってきて貰う必要もないんだ。焔が熱してくれるし、ある程度の温度も調整出来る」
涙で濡れた服を着替えるついでに湯に浸かる話になり、どうせなら城内で一番広いフレドリクスの部屋のバスルームを借りようとエリヴァルが提案した。
「……どうしたんだい、そんな隅で震えて。ボクたちと一緒に温まらないと、風邪を引いてしまうよ」
「その、僕は、外で待たせて頂いて…」
部屋の主人であるフレドリクスは、突然愛しい姫君に手を掴まれ、拒絶の意見も聞かないまま服を脱ぎ出されたのだから、たまったものではない。
「一緒に湯に浸かったのが、初めてでもないのだから緊張する事ないさ。それとも、リリスが居てはお邪魔だったかい?」
「そんな事は、決して無いんだけど。目のやり場に、困ると言うか…」
戸惑うフレドリクスの腕を掴み、脱ぎかけの衣装のままバスタブに押し込む。こうなってしまっては彼も服を脱ぐしか無くなり、少し躊躇った後、不器用にボタンを外していった。
「バスルームを貸して貰うだけなのに、何故、部屋で服を脱ぎ出して、フレドリクスまで湯の中に押し込む必要が有るのよ…」
「大きいバスタブに二人だけで入ったら、湯がもったい無いじゃないか。それとも、ウィードやアキニムも呼んだ方が良かったかい?」
嘆息し、そう言えばコルセットを外した後の彼女は拘束を解かれた猟犬のように駆けずり回っていた事を思い出し、諦めを悟ったリリスはフレドリクスに丁寧に謝罪してから服に手を掛ける。
「やれやれ、ロイヤルアゼールを訪問したら、エリヴァルは確実に不敬で縛り首になるわね…」
「リリスは、その。僕と湯に入っても、いいのですか…?」
恥ずかしそうにこちらを見てきたフレドリクスの頭を撫で、庇護欲をそそられたリリスは思い切り同意の笑顔になる。
「未婚の女性にこんな事を言っては失礼だけど、その。リリスは幼い頃に亡くなった母君に、少し似ていて、見られると恥ずかしくて…」
「そう言えば、フレドリクスの母君は前国王の叔父の末娘だったか…。血の繋がりとしては、二人は従姉弟同士になるね。フィンネルから辿ると、はとこになるのか。それでは、似ていても不思議は無いよ」
「ーーリリスは僕の、従姉弟、だったのですか…。母上の親類はほとんど残って居ないと聞かされてたので、お会い出来て嬉しいです」
二人の血の繋がりを見て、リリスから辿るとそんなに離れているわけでは無いが、前国王の孫娘というフレドリクスからは随分と離れた血筋に、エリヴァルは軽い嫉妬心を覚えた。
「ち、ちょっとエリヴァル…」
バスタブに縮こまったままのフレドリクスに口付け、頬に首すじへと愛撫を繰り返していく。何かを察したリリスはそれに習い、二人の姫に身体を触れられたフレドリクスは硬直したまま動けなくなる。
「ボク以外の女性に夢中になるなんて、フレドリクスは酷い人だね。ちょっとだけ、虐めたくなってきてしまったよ」
「……そうね。せっかく婚約候補者同士なのだから、彼とスキンシップしても許されるかもね」
互いにウインクの合図をして、フレドリクスの両頬に唇が触れていく。
強く口づけ、そっと胸元に手を這わせられ、エリヴァルとリリスの乳房を寄せられたフレドリクスは、瞼を必死で閉じて湧き上がる感情を必死で抑えようとする。
「ダメ…ですよ、姫君がそんな所に、触れては…」
「どんな所に触れられたら、君は淫らになると言うんだいーー? ボクがこの部屋に入ると、胸が高鳴って性を抑えられなくなるのを知っているのに、何度もわざと誘って。時には、ベッドに無理やり押し込んだじゃないか」
彼としては自分の部屋に誘って談笑したかっただけでも、エリヴァルには死を誘うような甘い罠でしかない。
部屋を見るだけで発情し、指先を秘芯に触れさせなくては抑えが効かなくなる調教をされた身体を蹂躙したお返しをするには、ちょうど良いタイミングだった。




