レッスンを終えて(3)
「ーーもう、随分な話じゃない…。抜け駆けはしないって、互いに取り決めたのではなくて?」
「向こうから檻に入って来たなら、それは抜け駆けには入らないだろ…。単なる偶然が重なっただけなら、作戦勝ちと言うことさ」
足に力が入らなくなり、身を任せて熱っぽい指に翻弄されていく。留め具を外され紐が解かれていくと、抵抗する心とは反対に胸が浮き足立ってくる。
逃げられないという恐れと、もうどうなってもいいと願う火照った悦び。
拘束から解放された乳房が姿を見せると、子供のようにウィードは顔を寄せて肌の感触を味わう。
「まだ、汗ばんでいるから、恥ずかしいって、言ってるのに……」
「レッスン用のドレスが見納めになるのに逃すなんて惜しいし、白い衣装がリリスには似合ってるからな」
「素直にそんな事を言われると、悪い気はしないけど…。ここまで脱がされると何を身に付けても同じだから、一度お互いに服を着ましょう?」
拒絶の言葉のお返しに、秘芯へと手が伸ばされてきた。退路を与えてくれない指先が奥へと侵入していき、そっと一番敏感な箇所を掻き鳴らしていった。
「……いや、それ以上は。もう、やめて、ウィード…。ごめんなさい、いやっ! ーーっ!! ん…っ! だ、だ、ダメだったら…お願い、やめて…」
「まさかとは思っていたけど、お前ーー」
「はぁ…っ…。んっ、王族に仕える侍女が、そんな淫らな娘なはず、ないでしょ…。小間使いと違って、姫君との会話もお仕事なんだから…。ゃ、……ち、ちょっとウィード!!」
「今、手を離したら、お前の初めては他の男の者になるんだろ。そんな弱気な気持ちで、お前との婚約を前提に志願なんかしていない」
壁に手を押さえつけられ、唇を塞がれると最後に抵抗していた気持ちも安らいできた。同意の証に手を握り返すと、ウィードが真っ直ぐな瞳で見つめ、少しだけ躊躇ってから抱き上げて、何もない最初に備えられたままの簡素な寝台に、リリスを横たわらせた。
「ーーリリスが、カーゲンの屋敷へ行儀見習いに来た時は、父に手を付けられて王宮入りしたと思ってたんだ」
「バカね、そんな軽い女だったら王宮の侍女なんて目指さないわよ」
「そう、だったな…」
戸棚の小箱から細かな意匠が彫られた装身具を取り出し、そっとリリスの髪と首を彩っていった。
細い金糸の織り込まれた髪飾りには赤い宝石が、いくつかの水晶と飾り石を並べたチョーカーには、春を告げる銀細工が。
元は剣を鋳造した際の余りや細工の切れ端では有るが、丁寧な仕事と相当な製作の時間がかかっただろう重みが肌に押し寄せる。
「レッスン終わりのご褒美として、渡すつもりだったんだが、悪い。少し気が焦った…」
「熱くなるのはいつもの癖でしょ。でも、殿方からの頂き物なんて初めてだから嬉しい」
「見習いだから造りが、今ひとつだけどな」
「そんな事ない、ずっと大事にする……。ねぇ、恥ずかしいから目を閉じたままでも、いいかな?」
そっと瞳を閉じた瞼に口付けられ、耳の後ろが熱くなった。秘芯に指が触れると、さっきまでの震えの感覚が短くなっていくのを感じる。
「ーーエリヴァルよりずっと年上なのにね、臆病だなんて笑われてたりもしたわ」
「臆病だったおかげで、こうしてここに居るから、こちらにとっては有難いさ」
「そうね…。でも、急な婚約候補話にまだ戸惑っているから。誰を選ぶのかは、まだわからないわよ。もしかしたら、義兄さまに惹かれる事になるかもしれないし」
「それだって構わない。今だけは、他の誰の物にもならないんだから」
「うん…。でも、初心者にはそっとお願い。ここから先、私は何も知らないの…。
無垢なままで居たい気持ちも確かに有ったけど、こんなにもお膳立てされて平民から侯爵にまで上がって…。それで、ずっと子供の気持ちのまま、男の人と向き合うなんて出来ないもの…」
ベッドの軋む音が聞こえ、身体が浮き上がっていく。激しい痛みと、貫かれていく震えが交差して、涙を流しながら縋っていった。
背中を掴み、声を何とか抑え、何度も心の中で拒絶と静止の言葉を吐き付けながら快楽と苦痛とに抗う。絶叫のような喘ぎが漏れ出し、抱き合いながら徐々に精を受け入れていく。
少女時代の終わりと、拒絶を繰り返していた自分との別れを安堵と共に迎え入れ、目を見開いた先に辿るのは淑女としての生き方といくつかの選択肢。
まだ自由に動かない身体を何とか起こして、貰ったばかりのチョーカーに触れる。
行き着く未来がどうなるのかは想像も出来ないが、今はただ一人の女として、レッスン終わりのプレゼントを心の底から喜んでいた。




