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孤独な姫君たちの蜜の駆け引き  作者: 和泉葉也
第四章 懐妊と届かない便りと

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レッスンを終えて(2)

「レッスン合格で、ついにオレのダンスパートナーも終わりと聞いたが?」

「だからこうして、お礼の挨拶に来たんじゃないの…」


 手製のキルトを手土産に上の階のウィードの部屋を訪れると、勤務明けだったようでやや仏頂面をした宮廷鍛治見習いが出迎えてくれた。

 鋳造の道具や剣の類が立ち並ぶ以外は生活感がなく、普段は寝るだけのために使っているとしか思えない室内には、元からあった家具以外の追加品も無さそうでいかにも彼の部屋らしかった。


「婚約候補者自ら淫らな挨拶に来てくれるとは、午後の時間がこれから楽しみだ」

「お礼のキルト渡しに来ただけよ。部屋には似つかわないかもしれないけど、誠意という事で受け取って頂戴」


 深い縁色で織られた生地を礼をして開き、丁寧な縫い目に感心したようで、修練用の模造刀の前に置いていく。

 呆れるくらいに装飾の類が無かった室内に、シュテインの屋号を縫い込まれたキルトが飾られ、ちょっと誇らしげにウィードはそれを眺めていた。


「それにしても男の部屋に自ら入り込むとは、元侍女長も随分と積極的になってきた」

 軽口を叩きながら頬に口付けて抱き寄せるウィードの手をつねり、リリスは大きなため息を漏らした。


「そんな気持ちでドアをノックしていないと、今何度も告げたでしょ、ウィード…?」

「いい女が初めてオレの部屋に来てくれたんだ、歓待しないで何になる」

 木箱から秘蔵の蜂蜜酒を取り出し、リリスにグラスを持たせて波なみと注いでいく。お膳立てが良すぎて何も言えなくなったリリスはそれを飲み干し、お返しの返杯をしてグラスを鳴らした。


「……さり気なく、内鍵を二つも閉めたわね」

「さすがは元侍女長殿。室内の構造には、大変お詳しくて優秀だ」

 元から取り付けられていた鍵に、お手製の堅牢な内鍵と細工を施してしまえば、外からどんな屈強な兵士がドアを叩いても扉が開く事はない。

 二人を遮るどの兵士の訪問を恐れているのかは、言うまでもなかった。


「レッスン中に、二十回以上も足を踏んだお返しを今するつもり…?」

「二十七回だ、脛を蹴られたのも加えれば四十は超える」

 大層痛そうに脚をさすり、そのままリリスの足首へと絡めてダンスの基本ポーズを取ると、蜂蜜酒の瓶を手にそのまま口にして、リリスの唇へと送り込んできた。


 思っていたよりも強い酒に戸惑いは隠せなかったが、お礼を渡すだけとはいえ無防備に男性の部屋に訪れた自分に落ち度を覚え、素直にそれを受け入れた。


「……んっ、ちょっと。そ、そんなつもりで訪ねたわけでは…」

「勤務明けで疲れた身体を癒しに、リリスがやって来たんだろ?」


 そっと扉の内鍵を見れば、彼にしか解き方がわからないような複雑な蝶番が施されていた。

 手前の鍵を回し、奥のボタンを押して開くタイプらしいが、それ以外の解錠手順は想像も出来ない。


「……確認の試験で、まだ服も汗で濡れているのに」

「風呂も着替えも、自分で用意出来るさ。本職の鍛治師の細工では、歴戦のリリスティン殿も扉を簡単に開けられないだろ?」


「計画的過ぎて、言葉も出ないわよ…」

 壁際に追い込まれ、ドレス越しにウィードの右膝が秘芯に触れた。熱のこもった口付けに息が漏れ出し、だらしなく唇を揺らして這わせ合う。

 指先が差し込まれた髪は振り乱れ、朱色の髪飾りが床に散った。


 下唇を噛むように吸い、舌裏を何度もノックしてから咥内で取り合うように乗せ続ける。鍛治職特有の鉄や煤の匂いがして、何かの作品として蹂躙されているかのように手指が肌へ触れていった。


 午後の予定もなく、頼みの綱の義兄は王弟の護衛で外遊に出かけてエリヴァルやニオブは公務中だ。

 ここに居るのを恥じらう事も、咎めてくれる相手も誰も来ない。

 諦めたように目を閉じて背中に手を回し、少々強引な婚約候補者殿の作為的な罠に、自ら飛び込んでいった。


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