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孤独な姫君たちの蜜の駆け引き  作者: 和泉葉也
第四章 懐妊と届かない便りと

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レッスンを終えて(1)

「…うん、大丈夫。これなら表敬訪問をさせても、問題無さそうね」

「今のところ、そんな予定も有りませんが。立場上、何らかの応対はさせられるのでしょう…?」


 優雅なお辞儀を軽い拍手で褒め称えたニオブに、手にした手帳を見ながら睨みを効かせる。

 淑女のためのレッスンとは言え、元々が王宮勤めだっただけあって、基礎とダンスさえ学べば素地のままで侯爵令嬢のリリスは仕上がった。

 王族の血を引き、どこか威厳を秘めた侍女だったから、作法と衣装が異なれば女王としての品格でさえ出てきそうな雰囲気だ。


「リリスにも公務の義務が課せられて、お髭の小父さま方の無駄話を耳にする時間の始まりかな?

 王族や貴族の数が少ないから、そのうちシュテイン卿の階級まで上がりかねないね。その前に、リリスがボクの妹になる可能性の方が高いか…」

「それは、出来ればご遠慮願いたいですが。何やら、王弟オーカス様の養女になる話も来ているらしいそうよ」


 エリヴァルにお茶を手渡され、水でも飲み干すように乾き切った喉を癒す。侍女長から侯爵令嬢、王族と昇り詰め、行き着く先は女王か元老院を牛耳って摂政を始めるか。

 どちらにしても、神官筋の御子で前国王の叔父の孫という希少価値が幸いして、リリスの民への人気は非常に高かった。山々に囲まれ、古くから宗教の信仰が強かったお国柄に非常に長い王室の歴史。

 二つ揃ったお得な物件リリスティンの取り合いは、各所で常に議論されているらしい。


「ボクを即位させて、叔父上とリリスを結婚させる話まで出たそうだね。そうなったら、ボクはリリスを叔母上呼びしなくてはならなくなる…」

「そういえばエリヴァル。聞きましてよ、花飾りの花嫁ごっこを王弟さまと行ったんですってね。しかも、正式な手順と本物の衣装を使って」

「ほう、それは非常に興味深い…」


 二人に詰め寄られ、口にしていた焼き菓子をエリヴァルは喉に詰まらせた。慌てて小脇に置かれた果実酒を飲み、侍女たちの口には枷を嵌めるか口止め料を払っておくんだったと後悔する。


「我が国の乙女達の永遠の夢を、さらりと王宮で実現させるなんて、どんな王族やお貴族でもそんな大それた事をした姫君は居ませんでしたよ。

 しかも、式典の余り物とはいえ二カ国分の花飾りを全部使って、侍女たちに早馬で地元の衣装を持ち寄らせて妖精の扮装までさせて…」


「それは、叔父上が指示をしてだね」

「宵口を過ぎても、部屋の外の護衛の耳には艶声が轟いたと耳にしてますが…。随分と花嫁の試練を守れない王女殿下ですね」

 どうやら花飾りの花嫁に憧れていたらしいリリスは、二人の蜜月を聞いて相当妬んだようだった。

 それはニオブも同じようで、王室や貴族では本来出来ない式典が相手では、さすがの不死の娘も焦がれるものなのだろう。


「試練を守れなかったから、こうして孕まないでドレスを身に纏っていられるんじゃないか…。本格的な試練では、花嫁に口枷をさせるって話もあるし。そこまでする勇気は、ボクにはないから。

 大体、花飾りの花嫁に憧れてたならウィードかアキニム辺りとごっこ遊びをすればいいだろ…? 二人とも、リリスを取り合っているって話だし、仲良く三人でごっこ遊びに興じればいいさ」


「そ、そんな淫らな事はしませんから。……そういえば、ニオブはフィンネル太子といい感じらしいですし、花嫁の試練達成に挑戦してみては?」

「ーーー私に話を振るという事は、何度か心当たりがあるんだね。淫らではないリリスには…」

 痛い所を突かれて切り返せば、更なる攻撃が待っていた。ウィード達にこの話を持ちかけようものならば、全力で二人がかりの試練達成に協力しかねない。


「まあ、いい感じというより、彼とは軽いキスを交わした程度だよ。元々、学問を専攻していたそうで、摂政の仕事にも興味があったらしい。父上の思惑もあっての監査役だったけど、こうも転がされると腹立たしいものはあるけどね。人選だけは評価するよ…」

 フレドリクスとフィンネル。どちらも学問に重きを置いた人材に、他国の王位継承権もなく国同士の繋がりも作れる候補者。

 姫君たちに選ばれなくても、うちの娘達がおこぼれに預かれば将来は万全。そんな、ご老人方の談笑が耳に浮かぶ。


「……花嫁の試練の話ではないですが、姉姫さまは懐妊の兆しが有るようですね。まだ情報程度にしか見聞きしてませんが、これで王家も安泰といった所でしょうか」


「姉上が、ついにご懐妊か…」

 産まれた御子が女児ならば女王候補。男児であれば、二人のどちらかの子供と掛け合わせて将来の王族に。

 出産を迎えても、恐らくここへは戻って来ないだろう姉の面影の待つ先はこの王宮。

 空虚なままの腹に触れ、自分がまだそうなっていない事に少しだけエリヴァルは安堵した。

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