ロイヤルアゼールの嗜み(2)
午後の行事も終え、今日はこのまま休息となった所でフレドリクスがドレスの裾を引き、新しく入れた家具を見に来るように誘って来た。
少しだけ指先が震えたエリヴァルは、それを気がつかせないようにお辞儀で回答して招かれていき、複雑な気持ちを残したままの日向の部屋へと入っていく。
「ーー赤茶色の戸棚は、この王宮の倉庫に仕舞われていた物の頂き物なんだ。黒のテーブルは城下の問屋からの流れ物だけど、僕の部屋で使っていたクロスを敷いたから、少し豪華に見えるかな…?」
「………うん…」
てっきり贅をあしらった部屋に仕上がったと思って見れば、少しずつ傷みが目立ってきた使い古しの家具と調度品が立ち並ぶ。
大きな鏡にはカーテンが取り付けられ、木の実の可愛らしい房が揺れている。勉学用の書物と筆書きが幼さを感じさせ、黒い格子のバルコニーに続く扉には花飾りが、バスルームの扉にはロイヤルアゼールの言葉でお風呂と刻まれたプレートが掲げられていた。
「ニオブからの恩給は、使わなくて良かったのかい…?」
「だって僕は、大国と言われてるけど妾腹の第三王子だよ。国に帰った所でお飾りにされるだけだし、墓もエリヴァルの国に作って貰うつもりで志願したからね…。出来れば身の回りの物より、高価な書物の方が欲しいんだ。一人でも、暮らしていけるだけの知識を身につけなくてはね」
恥じらいながら微笑む第三王子の背中には、確かに王となるべき威厳が漂わせていた。誇らしいばかりの姿に、思わず自分の寂しさを埋める事を公務としていた今までの姿勢を心底軽蔑する。
「そうだね…。ボクはお飾りの王女だと思っていたけれど、自分を磨いて行けば、一人で立つ事だって出来るんだった」
「お飾りなんかじゃ無いよ、エリヴァルは国民に慕われている。僕は、国では誰からも相手にされない、供に来た兵士も皆、帰って行った。第三王子なんて呼ばれても、護衛する兵も身の回りの乳母や小間使いも、付けて貰えないんだから…」
そっとフレドリクスを抱き寄せると、彼の身体も小刻みに震えていた。最初こそは大国らしく何百もの兵が立ち並んだものの、この国に残ったのは僅かな侍従と年老いた男だけ。
「……ごめん、ちょっとだけ肩を貸して貰ってもいいかな。抱きしめたりしたら、こちらの身体の震えも気づいてしまうよね…」
「エリヴァル? 昨日も体調を崩していたみたいだけど、もしかして、この部屋に何か有るの?」
「魔物の類が住み着いているわけではないのだけど、この部屋はボクの伯母上が使っていた場所だからね。幼かった頃に、父の怪我の治療と引き換えとして、カスティア伯母上に#遊ばれた__・__#部屋なんだ…」
背中に手を当てられ、そっと優しく撫でられる。小さな口づけをされ、髪を撫でて頬に触れられた。
「ーー豪華な菓子箱も、甘い砂糖菓子も手元に無いけど。君に触っても、将軍にお許しを貰えるかな?」
「蜜蜂側が望んだなら、叔父上の許可やお菓子なんて必要ないさ…。ごめん、会って間もないフレドリクスに頼むのも悪いけれど、ちょっと限界、だよ…」
肌に熱が溢れていた。昨晩の痛みの残る秘芯から胸へ、背中へと毒が廻っていくかのように広がっていき、呼吸が徐々に荒くなっていく。
「ねえ、エリヴァル。僕はお飾りのロイヤルアゼールの三の君だけど、君の婚約候補者だ。クイーンの頼みには何でも応えるし、誓いも幾つでもするよ…。
僕は幼いかもしれないけれど、会ったばかりの君に惹かれている気持ちは確かだ。話を持ちかけられてから、ずっと写した絵姿に焦がれてきた」
「……身体の我慢も抑えられない、こんな端女な王女でも…?」
答えの代わり深い口づけに、その身が覆われていく。
この場に何度も繋がれた。鞭を打たれ、指先や道具を入れられ、汚い言葉を吐かれて父や母を何度も侮辱された。
蜜色の髪を乱して、様々な愛妾と侍従に身体を弄ばれ砂を噛んでいた部屋は、王の威厳を秘めた少年の終いの住まいとなった。
伯母上逹は儚くなり、王宮は母と子が住むための城。そうは思っていても身体の疼きは消えず、頸の奥の傷痕と背中の鞭跡はそのまま残された。




