第28話 凋落の始まり①
「あのーすみません」
「ん?」
水戸裕はダンジョン内のボス部屋の前で見張りを行なっていた。
最近関東支部のエリアマネージャが代わった。
そして、ランクアップまでダンジョンを保護してランクアップした直後にランクの上がったボスを叩いて報酬を得る作戦が行われるようになったのだ。
この作戦はかなり有効で、比較的安全に儲けも出るし、経験値もかなり稼げる。
ランクアップ直後のボスは強さはEランクに毛がはえた程度なのに、報酬も経験値もDランクダンジョンボス相当のものがもらえるからな。
本来Dランクに潜るレベルに来ている水戸たちでもどんどんレベルが上がっていっている。
報酬だってDランクダンジョンに潜っている場合と同じかそれ以上に稼げている。
問題は失敗すると命を落とすということだが、いまだに失敗の報告は上がっていないし、安全マージンは十分に取れているのだろう。
水戸はこの方法が今後の企業型探索者のトレンドになるんじゃないかと考えていた。
(唯一の欠点はダンジョン内でかなり長い間張り込みをしないといけないので、張り込む探索者がかなりきついということくらいか)
この時間も仕事中だから、周りの目を気にする必要がある。
そのため、見張り中は横になっていたりトランプをして遊んでいたりすることは禁止されていた。
探索中は金竜会の羽織を着ている。
その格好で遊んでいるところを見られると金竜会の品位が下がるからだそうだ。
まあ、仮眠を取ると称してテントを立て、パーティメンバーのうち三人はテント内で遊んでいるのだが。
水戸ともう一人のメンバーは今見張り担当で外に出ているが、あと十分くらいしたらテント内のメンバーと交代予定だ。
流石に何もせずにボス部屋前を見張り続けるのは辛すぎる。
マネージャもこれについては黙認してくれてるみたいだし。
理解のあるマネージャで助かったぜ。
(はぁ。めんどくさい)
普段は何も起きないのだが、その日は水戸に三人組の女性パーティが話しかけてきた。
高校生か大学生くらいかな?
たまにこういうことがある。
大体は水戸たちがボス部屋を張っていることに対する苦情だ。
水戸たちが張っているEランクダンジョンではそこまで苦情は来ないがFランクダンジョンの方は相当酷いらしい。
Fランクの探索者の一番の収入はボス討伐だからな。
ボス討伐を妨害されたとなれば文句を言いたくなる気持ちもわかる。
だが、ここのボスは元々俺たちが先に見つけたのだ。
こうやって張り込みを行わなくてもすでに攻略されており、元々攻略できなかったはずだ。
先を越されたと思って諦めてほしい。
探索者なんてやってる人種がそんなふうにちゃんとした理屈を聞いてくれるわけがないんだが。
水戸はちょっとゲンナリしながら探索者たちの対応をする。
「どうかしたかい?」
「皆さんは、金竜会?の探索者さんですか?」
「あぁ。そうだぞ」
「よかった! ここでDランクの武器が買えると聞いてきたのですが」
どうやら、文句を言いにきたわけではないらしい。
もう一つの商売の方の客だったみたいだ。
「あぁ。売ってるぞ」
水戸たちが会社から言い渡された仕事はボス部屋前での通せんぼの他にもう一つあった。
それは余っている生産職が作った武器を売ることだ。
金竜会の関東支部は最近大量の生産職を雇い入れた。
その生産職のレベリングも兼ねて大量に武器を作らせているのだ。
普通、Dランクの武器は元となったDランクのドロップアイテムよりアプリ内のショップでの売却価格は安くなる。
どうも加工の際に価値が下がってしまうようなのだ。
一般職のランクⅩになればドロップアイテムと同じ価格で売却できる武器が作れるようになるそうだが、ランクⅩになればそもそもレベリングの必要がない。
そういうわけで、武器を作るための鍛冶スキルの利用は簡単ではないのだ。
だが、売値が下がるのはショップに売却した場合だ。
探索者的にはドロップアイテムより加工後の武器のほうが価値が高い。
ドロップアイテムはモンスターを倒さないが、武器はモンスターを倒すのに役立つからな。
そこに目をつけた上の連中が低ランクの探索者に武器を売ることを考えついたのだ。
低ランクの探索者に出会う機会なんてほとんどないが、金竜会は今ボス部屋前で張り込んでいる。
その結果、EランクやFランクの探索者と出会う機会が多い。
EランクやFランクの探索者の収入では普通Dランクのドロップアイテムで作った武器を買えないのだが、今はフリーターでも借りられるローンはたくさんある。
金竜会の提携企業の中にそういうローン会社もあった。
だから、水戸たちはその会社の職員として探索者にお金を貸出、そのお金でEランク探索者に武器を売っているのだ。
借金じゃなくてローンを使った分割払いだといえば探索者たちはホイホイ乗ってきた。
「じゃあ、武器の種類を教えてほしい。分割払いの書類を用意するからちょっと待ってて」
「えーっと。現金一括じゃダメでしょうか? 必要分のお金は持ってきてます」
どうやら、この子達は外で俺たちのことを聞いて買いに来たみたいだ。
しかも、この言い方からすると、Dランクに潜れるレベルの探索者にも見える。
もしかしたら、Eランクの探索者が武器を買いに来たんじゃなくて、Dランクに挑戦したい探索者がDランクでも壊れない武器を買いに来たのかもしれない。
Dランクの武器がないとDランクダンジョンを攻略するのは無理だからな。
だから、生産職のつてがないとDランクダンジョンに潜るのは難しい。
関東圏の生産職は金竜会が全員押さえてしまっているので、Dランクに上がってもなかなか生産職の探索者は見つけられない。
そんなわけで、Dランクに上がりたての探索者もたまにこうやって武器を買いにくる。
水戸が直接対応しただけでもこれで三パーティ目だ。
ということは、もうちょっと丁寧に対応しないといけないな。
水戸は姿勢を正して探索者たちに向き合った。




