第27話 ならば、戦争だ!③
「そうか。金竜会のマークだったのか。ってことはこの蛇に見えたのは竜か」
「そうだと思うよ。防犯カメラの映像では潰れていて見えないが、この名刺の龍にはちゃんと角がある」
防犯カメラの映像は元々荒い上、無理やり拡大したのでかなりボケている。
名刺のマークと見比べてみないと同じマークと判断できないくらいだ。
だが、名刺にははっきりとマークが描かれていた。
これならちゃんと東洋竜だと判別できる。
どこかで見覚えがあると思ったのは、俺たちがダンジョンの最奥であった探索者がきていたジャケットの背中にもこのマークが書かれていたからだろう。
「それにしても金竜会か。誘いを断っただけでこんなことしてくるか? 結構まともな組織にみえたんだけど」
わざわざ別の探索者のためにもダンジョンが攻略されるのを防ぐような会社だ。
結構いい会社なんじゃないかと思っていた。
そりゃ、自分達にも恩恵があるからなんだろうが、一パーティが常にボス部屋前で張っていなければいけないため、収支的には赤字なんじゃないかと思うんだが。
「そうか。サグルくんは掲示板とか見ないんだったね。彼らは結構悪どいことをやっているよ」
どうやら、ダンジョンの保持というのは建前で、本当の目的はランクアップ現象を人為的に起こして、ランクアップ現象直後の弱いDランクダンジョンボスを倒すことで報酬をがっぽり儲けることなのだそうだ。
Eランクダンジョンの攻略には普通一週間ほどだが、Dランクダンジョンの攻略には一ヶ月以上かかるから、Eランクダンジョンのボス部屋の前で一ヶ月張り続けても十分元が取れる。
ランクアップ現象中のDランクダンジョンボスはEランクに毛が生えた程度だからEランクの探索者でも十分に対応できるし。
確かに、ランクアップ現象中のボスが弱いのは俺も体験済みだ。
「しかも、彼らは低ランクの探索者に高ランクの武器を売って荒稼ぎしているみたいでね」
彼らは割高でDランクの武器をFランクやEランクの探索者に売って荒稼ぎをしているようだ。
値段的にいうと、材料がDランクのドロップアイテムなこともあり、相場より少し高いくらいだが、アフターケアがまったくなっていないらしい。
Dランクの武器はメンテナンスをしながら使うことを前提として作られている。
メンテナンスの有無で壊れるまでの時間が百倍以上変わってくるのだ。
しかも、高ランクの武器でレベリングしてしまうと、ステータスが歪に上がっていき、高ランクの武器なしでは戦闘できない体になってしまう。
確かに、俺も今スピードだけ一気に落とされたりすると、上手くスキルを発動できる自信がない。
一度使ってしまうと抜け出せないとか、なんか麻薬みたいだな。
「旧家のような他の組織や上級探索者には迷惑をかけていないみたいだから見逃されているようだけどね。調停役をしている御剣家は今かなり忙しいそうで動けてないし」
「そうなのか」
国に直接勤めている旧家の探索者もいるらしく、その人たちが探索者のトラブルを調停したりもしているそうだが、別件で忙しくしており、今は動けていないそうだ。
どうやら、国所属の探索者の大半を占めている御剣家が管理しているSランクダンジョンが結構まずい状態になっているらしい。
詳しい情報は回ってきていないそうだが、そちらが最優先のため、調整役としての役割が果たせていないそうだ。
俺たちが関わった竜也の件も御剣家が動くはずだったが、同じ理由で動けなかった。
それを見て、金竜会はかなり派手に動き出したのだろうとのことだ。
かと言って、他の組織は悪影響が出ていないので動くには理由が足りない。
御剣家の代わりに調整役を買って出ようにもそこまでの実力がある家は他にないそうだし。
組織は大きくなると身動きが取りにくくなるからな。
勝手な動きをすればそれが原因で他所から責められたりするし。
探索者なんて対象がモンスターだから合法だけど暴力団みたいな感じだもんな。
『力を持っている方が偉い!』みたいな雰囲気がある。
結果として末端の探索者が搾取される形になっているらしい。
「でも、こいつらはどうして雅に?」
「僕はどうもこの辺りで最後の生産職らしくてね。僕は生産メインから探索メインに戻したいと思っていたから誘いは断っていたんだけど、どうもそれが気に食わなかったみたいだ。でもまさかこんなことをしてくるとは思ってもなかったよ」
「……もしかしたら、金竜会は焦ってるのかもな」
「焦ってる?」
「その御剣家ってのが動けるようになるまでに独占しておきたいのかも」
どんな業界も独占してしまえばかなり美味しい。
実際、古い家の人たちってのは大体既得権益という形で何かしらを独占している。
その御剣家だって自分達で国の探索者組織を独占してるんだし。
独占禁止法なんてものがどこの国でもあるくらいだからな。
だが、探索者の業界に法律は効力を発しない。
やったもん勝ちっていう風潮がある。
しかし、独占されると何かと面倒だ。
だから、誰かが何かを独占しようとすると横槍を入れて邪魔をする。
「でも、邪魔できるのは大体独占が完了するまでだ」
独占しようとしている段階では介入しやすいけど、一度独占されてしまえばそこに食い込むのはかなり難しい。
大きな家であれば無理やり介入することは可能かもしれないが、何をするにも盛大なブーメランになりかねないから、手出しはしにくいし、個人がチョロチョロと稼ぐ程度であれば独占している側には影響を与えられない。
そのため、金竜会は他の家が動く前に関東圏で確固たる地位を築くつもりだったのだと思う。
だが、雅が思いの外、腰が重かったので少し強引な手に出たのかもしれない。
雅の話だと、そろそろ御剣家っていうのもSランクダンジョンの対処が終わりそうとのことだし。
「そんなくだらない理由で僕の大切な場所を壊すとは。相当舐められてるみたいだね」
雅は淡々とした様子でそう答える。
口調はいつも通りだが、そこからは相当な怒りが伝わってきた。
あの店舗部分は雅にとって趣味を煮詰めたような場所だったみたいだからな。
それを壊された今は相当怒っているだろう。
これは何を言っても止まらなさそうだ。
……かなり面倒なことになりそうだが、これは最後まで付き合うしかないかな。
雅を見捨てることなんて俺にはできないし。
「いいだろう。ならば、戦争だ!」
戦争って。
そのセリフを言いたかっただけだよな?
「流石に正面衝突となれば敗戦必至なんだけど。どうするつもりなんだ?」
「大丈夫。僕にいい考えがある」
雅はそう言ってニヤリと笑った。
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次話は今日の夕方に投稿します。
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