第19話 セールスはお断り!①
「どうぞ。紅茶だ。結構美味しく淹れられたと思う」
「いえいえ。お気遣いなく」
俺たちはあの後すぐにダンジョンから脱出して雅の工房にきていた。
雅のことが心配だったのでついてきたのだ。
だが、ダンジョン脱出直後はかなり落ち込んでいるように見えた雅は工房に戻る頃には普通の状態に戻っていた。
「心配をかけてしまったね」
「いや、気にする必要ないよ。いらないおせっかいだったみたいだし」
俺たちは出されたハーブティーに口をつける。
なんかホッとする味だ。
リラックス効果のあるハーブティーかな?
カモミールとか?
俺たちも緊張していたから、このハーブティーを出してくれたのかもしれない。
他人に気を使えるってことは普段通りくらいには戻ってるみたいだな。
「いらないおせっかいなんてことはないよ。実際、かなり落ち込んでいたし。でも、落ち込んでいても仕方ないと思ってね。うん、美味しい」
雅もテーブルにつき、ハーブティーに口をつける。
そして美味しそうに少しハーブティーを飲み、ホッと息を吐く。
なんというか、雅って黙ってれば美少女だから、こういうハイソな感じがかなり似合うよな。
絵になるというか。
そういえば、雅の家って結構いい家らしいので、雅は名家のお嬢様ってことになるのか。
「ん? どうかしたかい?」
「いや、なんでもない」
「そうか」
雅はティーカップをソーサーに置いて話し始めた。
「もともと、偽エリクサーでもダメかもしれないとは思っていたんだ。言った通り、イレギュラーなトラップの呪いだから、呪いもイレギュラーの可能性が高かった。落ち込んでしまったのは、黒鍛冶師のジョブと同時に偽エリクサーが出たから、これはもう治るだろうと勝手に勘違いしてしまったせいだ。期待が大きかった分その反動がきてね。三人にはいらぬ心配をかけてしまった。本当にすまなかった」
雅は深々と頭を下げる。
「いや、俺たちは被害を受けたわけじゃないんだから、頭を下げる必要ないよ」
「そうだよ! 雅さんは何も悪くないよ! 呪いを受けたのだって雅さんのせいじゃないんだから!」
「私のほうこそ変なタイミングで手に入れてしまってごめんなさい」
今度は京子が頭を下げてしまう。
「あ! 頭を上げてくれ! 京子くん。京子くんは何も悪くないよ」
「でも……」
「むしろ、僕こそ、京子くんの譲ってくれた偽エリクサーを有効活用できなくてすまない」
「いえ。あれは他に使い道もなかったので……」
雅と京子はお互いに頭を下げ合う。
俺としてはどちらも悪くはないと思う。
悪かったのはタイミングか。
ある意味、ドロップを管理していそうな運営が悪いと言っていいかもしれない。
まあ、運営を敵に回してもいいことなさそうだし、そんなことは言わないけど。
「……とりあえず、謝罪はやめにしないか。誰も悪くない。それでいいじゃないか」
「そうだな」
「そうですね」
俺の一言で謎の謝罪合戦は終わりを告げた。
どうやら、二人ともやめ時を窺っていたみたいだ。
謝罪合戦になると、やめ時がわからなくなるんだよな。
こっちの謝罪が伝わってることはなんとなくわかるんだけど、こっちが先にやめると相手に悪いと思っていないという印象を与えてしまいそうだし、かと言って相手側もおんなじように思っているから相手も謝罪をやめないし。
こういう時は第三者が仲裁に入るのが一番だ。
それに、これからの話をしたいからさっさと話を次に進めたい。
「それで、雅はこれからどうするつもりなんだ?」
「どうするとは?」
「ジョブはどうするんだ? あと、偽エリクサーがダメだったみたいだし、もうダンジョンには潜らないのか?」
こういう状況になってしまったから、雅が今後どうするのかは聞いておきたかった。
それによって俺たちが今後どうするかが変わってくるからな。
もともと、偽エリクサーで足を直すと言うのが雅のダンジョン探索の目的だった。
偽エリクサーが足の呪いに有効でないのであれば、予定を変える必要があるはずだ。
ダンジョン探索自体も好きなようだし、まだダンジョンに潜るつもりで入るみたいだが。
「あぁ。ジョブについてはせっかく出たし魔導装備技師にしようと思っている。今魔導装備技師にしてみているんだが、デメリットもなさそうだしね」
「そうか」
もともと、ダンジョン内では足が治るまでは魔導装備技師にしようか悩んでいたようだし、妥当な選択だろう。
「ダンジョンにもサグルたちが迷惑でなければこれからも一緒に潜れればと思っているがどうだろうか?」
「それは願ったりだよ」
俺は雅が一緒に潜ってくれると聞いて、胸を撫で下ろす。
俺たちは結構長時間連続でダンジョンに潜る。
他のパーティは何度もダンジョンから脱出しながらダンジョン探索を続けるのに、俺たちは一気にボスまで行っちゃうからな。
長時間のダンジョンダイブでも、京子の『快癒』で疲労は取り除けるし。
だから、探索中に武器のメンテナンスも必要になってくる。
そういう意味で、鍛冶師の雅がついてきてくれるのはかなり助かる。
雅がついてきてくれないなら、何度もダンジョンから脱出しながらダンジョン攻略をすることになり、一つのダンジョンを攻略するのに数日必要になってしまうだろう。
「そうか。ありがとう。今後はもっと役に立てそうだしね」
「ん? どういう意味だ?」
「それは――」
――ピンポーン。
俺たちが会話をしていると、チャイムの音が雅の工房に鳴り響いた。
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