第20話 セールスはお断り!②
「ん? 誰か来たのか?」
「おかしいな、今日は特に予約とかは入っていなかったと思うが」
雅はそう言ってスマホを確認する。
雅には俺たち以外にもお得意さんがいるから、もしかしたら誰か来たのかもしれない。
だが、確か、昨日と今日は俺たちとダンジョンに潜ってレベル上げをする予定を入れており、お客さんは取っていないと言っていた。
というか、当分の間土日には予約を入れていないそうだ。
雅もこんなに早く鍛治師のランクがⅩになるとは思っていなかったらしく、三ヶ月間は休日はダンジョンに潜るつもりだったみたいだからな。
俺たちのパーティは京子と朱莉がいるため、平日の昼間はダンジョンに潜らないし。
雅は大学生で、平日にも暇な日はある。
雅のお客さんになるような探索者は基本的に専業探索者だから土日だろうと平日だろうと大して変わらないそうだし。
「うん。やっぱり予約は入っていないみたいだな」
「じゃあ、誰が来たんだ? セールスか?」
「セールスがこんなところまで来ることはないね。誰もいないことの方が多いし」
「確かに」
この工房は秋葉原の結構離れたところにある。
確かに、こんなところにセールスが来るとは考えずらい。
「じゃあ、誰かお得意さんの武器が壊れて駆け込んできたとか?」
「うーん。それなら連絡が先に来ると思うんだよね」
「ミヤビちゃーん。今日はいるんでしょー?」
その時、扉の向こうから男の声が聞こえてくる。
なんというか、ちょっと嫌な感じの声だ。
そう思ったのは俺だけではないらしく、京子と朱莉も嫌そうな顔をしている。
「またあの人か」
「知り合いなのか?」
「あぁ。すぐに追い返すから少し待っていてくれ」
雅はそう言って扉の方に向かっていく。
俺たちは雅たちの会話に聞き耳を立てる。
「ミヤビちゃん。どう? うちの会社に入ってくれる気になった?」
「「「!?」」」
どうやら、来客は雅を勧誘しにきているらしい。
にしても、パーティじゃなくて会社?
パーティのことを隠語で会社と言っているのか?
「何度も断っているだろ? そちらの会社に入るつもりはないと」
「そうは言うけどさ、うちの会社に入った方が絶対にいいよ? 毎月決まった給料が出るし」
「お金の心配はしてくれなくて大丈夫だ。十分に稼げている」
雅は断るが、相手はしつこく絡んできている。
話を聞いた感じ、ずっと勧誘を続けているが、雅が断り続けているらしい。
「学生で稼げるレベルなんてたかが知れてるでしょ? うちに入ればDランク探索者とまではいかないけど、Eランク探索者なんかよりずっと高い給料が出るよ?」
「!! おあいにく様。僕は今探索者パーティを組んでてね! Dランクダンジョンに潜っているんだ」
「え?」
「Dランク探索者よりは給料が低いんだろ?」
「そ、それは」
「どうやらあなたたちでは僕を満足させる給料を払えないみたいだね。まあ、報酬が十分でも君たちのところに入るつもりはなかったが。色々悪い噂も聞くし」
「なっ!」
「じゃあ、もうこないでくれ」
雅は一方的に会話を打ち切り、テーブルへと戻ってきた。
勧誘にきた男は少しの間、扉の前に立ち尽くしていたようだが、雅がテーブルに戻ってきた頃にはいなくなっていた。
「どっかのパーティに勧誘されてたのか?」
「ん? あぁ。今の人かい? あれはパーティの勧誘じゃなくて、企業への勧誘だよ」
「企業?」
「そう。探索者を集めた企業があるんだよ。そうだね。Dランクダンジョンに潜るなら今後も出会うかも知れないし、一通り教えておこうか」
探索者の歴史は結構長く、軽く戦国時代まで遡ることができるらしい。
それまでは陰陽師やエクソシストなど、一定の家系の人間がダンジョンを処理していたのだが、世界の人口が増加した事により、対処できなくなってきたそうだ。
そこで、一般人にも手伝ってもらおうとなって一般人から対魔の能力を持つものを見つけ出してダンジョンの浄化に駆り出し始めたらしい。
発祥がどこかとか、正確にいつ始まったかとかはわかっていないそうだが、ヨーロッパの方で1500年ごろから始まったのではないかとの話だ。
ダンジョン関係の知識は昔からダンジョンと全く関係のない人間には教えられないらしく、正確なことはわかっていない。
各家ごとに歴史はあるのだが、自分の家の歴史というのは大袈裟に書きたがるものだから、どうしても正確な情報っていうのはわからないからな。
日本に伝来したのは戦国時代で、キリスト教とかと一緒に伝来したのではないかと言われている。
それでも、伝来した頃は人数が少なかったそうだ。
だが、次第に数が増えていき、江戸時代の終盤ごろには全国で数千人になっていたそうだ。
「探索者って結構儲かるだろ? でも、人数が増えてくると、探索者同士で儲けを取り合うようになってきた。だから、探索者をまとめ上げる企業を作って効率的に稼ごうって集団が出てきたんだ」
二人いれば啀み合い、三人いれば派閥ができるという言葉があるように、人が増えてくればそれだけ色々な考えを持った存在が増えてくる。
そこで、自分たちにより有利な状況を作るためにパーティよりも大きな枠組みで企業が生まれたそうだ。
まあ、これも海外ではすでにあった考え方のようで、開国と同時に海外から輸入されたという考え方もあるそうだが。
ともかく、今、七つの大きな探索者企業が日本にあるらしく、それをまとめて七曜会と呼ばれており、あの人はその一つである金竜会のスカウトマンだそうだ。




