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32 満月の夜に



ブクマ・評価ありがとうございます!

おかげで完結まで書けました。





 満月の夜、ワインを片手に外し方を忘れた笑みを浮かべて、石の上に腰を下ろす夜の王がいた。今日は彼の待ちに待った日で、時折鼻歌を歌って月を眺めている。


「こんばんは、夜の王。」

「あ、やっと来たね。さぁ、座って・・・」

「おやすみなさい。」

「ちょ、待ってよっ!」

 やっと現れたエクスに席を勧めるが、すぐに別れの言葉を切りだして立ち去ろうとするエクス。それはないだろうと、席である石をぺしぺしと叩いて座るように促した。


「はぁ・・・ミデンの寝顔が見たい。」

「毎日見ているでしょ?」

「今のミデンの寝顔は、今しか見られない。」

「そんな話はいいから、座って。それとも、契約違反をするつもりかな?」

「・・・チっ。」

 聞こえるように舌打ちをして、夜の王、ペンデの隣に置かれた石の上に腰を下ろすエクス。満月の夜にはこうやって酒をかわすことが、2人の間に結ばれた契約の一つだった。面倒だが契約違反をすればどうなるかはわかっているので、舌打ちをしながらも従うエクス。


「で、どうなの?どこまで進んだ?」

「好きだよね、年寄りはこういう若いものの恋話。」

「ん?月姫に逝ってもらう?後を追えない君には拷問だね。」

「・・・・・抱きしめて、キスしたよ。あと、寝てる間に」

「待って、何で寝てる間?両思いだよね?」

「・・・だって、拒絶されたらって・・・」

「いや、何言ってるの?拒絶も何も魔法かけているんだから、そんなの関係ないでしょ?手を握れば握り返されて、キスをされればそれに答えて、押したら押し倒されるそういう関係でしょ?」

「別に、私に惚れるように魔法をかけていないから。ただ、判断力が低下するのと、記憶を一部思い出させなくするの・・・これだけだと不安で。」

「いや、まだ不安なの?どれだけ心配性なわけよ?」

 あれ、おかしいな。僕の記憶が確かなら、この目の前の自信なさげな男、告白されていたような気がするが・・・とペンデが記憶を確かめていると、唐突にエクスに両肩を掴まれた。


「な、どうかしたの?」

「不安になるのは普通だと思う!だって、あんな天使、いつさらわれるかわかったものではないし、いつ愛想を尽かされるか・・・気持ち悪いとか言われたら、もう立ち直れる気がしないよ。」

 ミデンの顔を見るのが怖くなってきたと、先ほどとは全く違うことを言うエクスに、ペンデは無言で頭をチョップした。


「いたっ!」

「で、顔を見るのが怖いってどうするわけ?この世界には、僕と君、あと月姫がいるだけなんだよ?たまに別の世界から現れる人間はいるけど・・・で、その人間に任せたりするのかい?」

「いや、その人間はころ・・・あの世界に転生させるよ、もちろん。」

「殺すって言おうとしたよね?間違いではないけど、気持ち的には殺したいってことだよね?全く・・・」

 パチンと指を鳴らして、新たなワインとグラスを出現させるペンデ。真っ赤な血のようなワインをグラスに注いで、エクスの手に無理やり持たせる。


「それ飲んで、さっさと月姫のところに行きなさい。」

「な・・・さっきは帰るなというばかりだったのに、今はさっさと帰れと?もう来ないからね。」

「それは契約違反だからね?まぁ、次会うときには僕に感謝をして態度を改めるんだね、ヘタレ腹黒。」

「・・・それ、あのエナトン嬢の皮を被った何かも言っていたような。腹黒って・・・ヘタレはついていなかったけど。」

「ヘタレは僕がつけた。なんか、他にも言っていたなぁ。エンとデュオは王子に魔法使いだから普通だけど、テッセラはレズ?君とテッセラだけ変な呼び方をされていたね。」

「ひどい言われようだけど、否定はできないのが・・・まぁ、否定する必要もないね。もうあれはここにはいないのだし。」

 ペンデから受け取ったワインを、エクスは勢いよく飲む。空になったワイングラスは、スゥっと消えた。


「うわぁ・・・」

「何か?」

「いやぁ・・・月姫大丈夫かなって・・・」

「帰ります。さようなら。」

「あ、うん。ばいばーい。」

 立ち上がって走って帰るエクスを見送るペンデは、苦笑いを浮かべる。


「まぁ、月姫は強いから大丈夫。うん。強く生きてね。」







 次の日、ミデンはベッドから起き上がることができないほど疲れ果て、魔法も解けてしまっていた。でも、エクスが魔法をかけなおすことはなかった。


「あの・・・影、野郎、エクスに何を、飲ませたぁっ!」

 少しかすれた声で叫んで荒れるミデンに、エクスは微笑みながらはちみつがたっぷり入った紅茶を差し出した。


 次の満月の夜には、菓子折りの一つくらい持っていてあげようというくらいには、夜の王に対して好感を持つようになったエクスだった。


「エクス・・・何を呑気な、顔を・・・しているの?わか、ってるよね、魔法が解けたなら、私に・・・何を聞かれるか・・・」

「あぁ、もちろんだよ。私はミデンが欲しかった。だから、ミデンを私と一緒に夜の王にさらわせた。ごめんね、ミデン・・・君は、もう元の世界に戻ることはできないんだ。」

「・・・やっぱり・・・そう。」

「うん。・・・嫌いになったかな、私のこと。」

「・・・ふふっ。嫌い、になれたら・・・私は、悩まなかった・・・よ。エンと、婚約者なこと、に。」

「ミデン・・・どうしよう、ミデン。」

「?」

「愛しすぎて、苦しい。」

「私も・・・エクス、愛してる。」

「本当?」

「うん。」

「なら・・・」

 エクスが先を言う間に、ミデンはその口に指をあてて言葉を止める。ミデンの口の端が吊り上がって、エクスの耳に息がかかるほど近づく。


「あげる。すべてを・・・私のすべてを、あげる。」

「ミデン・・・」

 ぽたぽたと、ミデンの肩に水滴が落ちて、ミデンはおどけたように付け加える。


「もう、あげた後だけどね?」

 そのせいで疲れたと、ベッドに倒れこむミデンだったが、どうやら休憩は終わりのようだと悟って、ここにはいないペンデのことを思い浮かべる。


 悔しいけど、感謝するよ・・・月光の生徒会長。


 最愛を手に入れ、最愛を愛し最愛に愛される。

 優しいあの世界では手に入らなかったものが、すべて手に入った。他はすべて捨ててしまうことになるが、それでも喜びの方が勝る己には、これが最上の結末なのだろう。


 さようなら、みんな。



「これから、末永くよろしく・・・エクス。」

「永遠に手放さず、愛すことを誓うよ。」





最後までお付き合頂きありがとうございました。

楽しんでいただけたなら幸いです。


完結済み小説「死神勇者」などいくつかあるので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。




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