31 たとえ・・・
最初に見た時、どこか寂しそうな顔をして笑う人だなって、思った。一緒に生活していて、やっぱり寂しそうだって感じていた。
この世界で最も危険人物なのに、この世界で最も愛しくて、ずっとそばにいたい人。
時々見せる、寂しさのない笑顔。でも、すぐに寂しさが混ざるいつもの笑顔になって、いつかずっと幸せそうに笑う人にしたいと思ったっけ。
それなのに、私はこの寂しい世界に囚われてしまったエクスの境遇に喜びしか感じていない。結局は利己的なのだ。
エクスの幸せよりも、どこにも行けないこの世界にエクスを縛り付けることの方を私は望んでいる。まぁ、エクスの幸せを望んだとしても、どうにもならないけどね?
「エクス・・・私、あなたのことを愛しているの。だから、エンの婚約者にならないといけない世界には、帰らない。帰りたくない・・・あなたのいない世界になんて、帰らない。」
「ミデン?」
「本気だよ?私ね、この世界に来ることができてよかった。だって、この世界なら・・・あなたを好きって言っても、誰も止めない。止めないよね、エクス?」
止めるわけがない。そう確信しているからこそ、私はエクスに聞く。
気づかないわけがない。私はそんなに鈍感じゃない。それに、私は恋をしているエクスを知っている。私の目の前にいるエクスは、恋をしているエクスだって、ゲームの知識が教えてくれる。
月のように綺麗な瞳。若草のような緑の髪、柔らかな物腰・・・そして、他者を蹴落とすことに躊躇しない、危険な性格。どれもが魅力的だ。
知っていて、愛しているからこそ、攻略できた。
そう、攻略・・・好きになってもらうことができたのだ。
まぁ、不安がなかったと言えば嘘になるけど、目が覚めると至近距離から顔を見ていたり、抱きしめられていたりすれば、疑うのが馬鹿らしいくらいだ。それに、もう戻れないと知って、この世界に来てくれた・・・これだけでもう、確信できる。
「止めるわけがないよ。ミデン・・・君は何が欲しい?」
一時不安に揺れた瞳を見て、私の口の端が上がる。間違いがない。もう疑う必要もないのなら、私は素直に自分の本音を言えばいい。
「エクスのすべて。」
「あげるよ。私のすべて。」
目を瞑る。すぐにエクスが近づいてくる気配を感じて、私は目を開けてエクスの首の後ろに腕を回して抱き着いた。
「魔法は、全部解けちゃった・・・」
「・・・」
「いいよ、もう一度かけて。」
エクスから少しだけ体を離して、金の目と目を合わせる。
「不安なんでしょ?お兄様?」
「!?」
兄と呼んだ瞬間、エクスは私の唇を奪う。綺麗な月の瞳は不安でいっぱいで、そこに映る私の瞳は幸せを物語る。
ずっと、エクスに魔法をかけられていた。それは、馬車に乗るために眠る魔法ではなく、その手前の判断力を鈍らせる魔法。
そんな魔法をかけなくたって、私はエクスを愛すけど・・・不安な彼のためになら、魔法をかけられてあげよう。
記憶を沈められるだろうけど、別に問題はない。私が彼を愛していることには変わりはないのだから。
たとえ、私を殺したのがエクスだったとしても、この世界であなたと共にいられるなら、私はあなたを愛している。
すがすがしい青空を見ると、不思議なことに私は不安になる。だから、手をつないでいるエクスの手に縋りつく。
目の前の花畑の花の香より、エクスの香りの方がよっぽど私を安心させてくれる。
「どうしたの、ミデン?」
「わからないけど、離れたくない・・・」
「離れないから大丈夫だよ。今日はいい天気だね、ここでご飯にしようか。」
「帰りたい。」
「・・・」
「外は怖いから、家に帰りたい。」
「そうか、なら帰ろう。でもなんで怖いの?」
「だって・・・人がいるかもしれないから。そしたら、エクスを取られるかもしれないでしょ?」
エクスを見上げると、嬉しそうに笑っていた。ひどい人だ・・・私は本気で不安なのにと、エクスを掴む手に力を籠める。
「取られないよ。だって、私はミデンにすべてをあげたから。」
「本当?」
「本当だよ。」
「うん、知ってる。ねぇ、エクス・・・また魔法が解けちゃった。」
エクスの瞳が不安に揺れる。あぁ、本当にこの人は、なんでこんなにも愛おしいのだろう。
私よりも頭がよくて、力もあって、魔法だって使えるのに・・・私に愛される存在だという自信がない。
きっとそれは、エクスが私を手に入れるために、私を殺したから・・・というのが大きいのだろう。実の妹を愛して、手に入れることを選んだ、愛しいエクス。
夜の王の世界なら、誰も私を攫えないし、私は逃げられない。
きっと、夜の王と契約でもしたのだろうなって思っているが、これ以上考えることはできない。だって、また魔法にかかってしまったから。
また魔法が解けたら、かけなおして。あなたの不安がなくなるまで、ずっと・・・私はあなたに魔法をかけられ続けるから。
でも、いつか・・・私の愛を疑わないで、私の愛を受け入れて欲しいって思っている。




