8話 僕たちの戦い(オタクライフ)はこれからだ。
今回は千春と優斗の距離が少し縮まるお話です。共通の趣味を持つ者同士だからこそ、惹かれ合い分かり合えることがある、そんなテーマで書きました。どうぞお楽しみください。
「やっぱりそうですよね!!」
落ち着きのない様子で、
体を揺らす千春さん。
「一目見た時からずっと、
そうなんじゃないかって思ってて……。」
瞳を燦燦と輝かせた彼女。
「あの……差し出がましいのですが、
少しお見せいただいても?」
「はいどうぞ。」
眼鏡を外して彼女に手渡した。
「はぁ、はぁ……一見すると黒縁の丸眼鏡。
だけど、テンプル部分に白く彫られた百合の花の装飾が
上品さと奥ゆかしさを引き立たせる……。
まさに、“花園 百合香” そのものを体現したような完璧な眼鏡!!
実物を目にする日がこようとは……。」
「だよね!分かってくれると思ったよ!!」
高ぶる気持ちが抑えられない。
「僕も発売が決まった時、
一目見て骨抜きにされたよ。
で、過酷なバイト生活の末にゲットしたんだ~。」
「すごいっ!
オタクの、いや―――
全 “百合香たん” ファンの鏡じゃないですか!!」
「へへっ、そうかな~?そうだと嬉しいなぁ。」
千春さんに褒めちぎられたうえ、
推しについて語れる喜びで心は有頂天だった。
「そう考えると私の “百合香たん愛” なんて、
優斗さんには敵いませんね。」
そう口にすると、
握っていた掌を広げた。
「このボールペン、
実は両親からもらったものなんです。」
「親御さんが?」
聞き返すと、
彼女は小さく頷いた。
「当時、すごく欲しがっていた私を思って、
誕生日プレゼントでくれたんです。」
「へぇ~~~?」
間の抜けた返事の後、
浮かんだ違和感。
「でも、あれって入手するの苦労したんじゃない?
今でもプレミア掛かってるって噂だし。」
「はい、その通りです。」
一区切り置いて、
言葉を連ねた。
「二人ともしれっとしてたけど、
裏ではかなり苦労したんだと思います。
当の本人なんて、
最初から諦めてたくらいなのに。」
斜め下に顔を向け、
自虐的なため息が出た。
「だから私の愛は優斗さんには到底及びません。
ほんと、
オタクなんて名乗れたものじゃないですね……。」
「そうなのかな?」
咄嗟に答えた。
些細な認識のズレを見逃せなかった。
「推しへの愛に、
優劣なんて付けられなくない?」
「でも私は、
優斗さんよりも……。」
言葉の先が出るより早く、
小さく首を横に振った。
「―――好きって気持ちがあれば、
それで十分だよ。」
言いかける彼女を遮って、
言葉を被せた。
「時間や労力、お金のマウント合戦なんて、
そんなの愛でも何でもないよ。」
言い終えてから、
考える素振りを見せる千春さん。
「……確かに。」
「でしょ?」
納得してもらえたようでよかった。
《ついでにこれも言っておくか……。》
「あとさ……。
見てて思ったんだけど。」
パチリと目が合った。
「さっきの夢中になって “百合香たん” の話してる姿。
あれは紛れもないオタクだったよ。」
「そう、なんでしょうか?」
「あぁ。」
肯定する。
「ガチオタ歴16年の僕が言うんだ、
間違いないって。」
親指を立てて諭すと、
彼女は不思議そうに瞬いて、
「16年って、流石に長すぎますよ。
生まれた時からオタクじゃないですか。」
ツッコミを入れてきた。
「中々鋭いところに気が付く、
―――流石は同担だ。」
「ふふっ、変なの。」
カラカラと笑った。
「というわけで、
改めて―――」
コホンッと、
わざとらしい咳払い。
そして息を吸い込んだ。
「僕の名前は小鳥遊 優斗。
はし恋オタクの16歳。」
「私の名前は、アンネリーゼ・千春・リンドバーグ。
同じく、はし恋オタクの16歳。」
「「もちろん推しは―――」」
せーので合わせた。
「「 “花園 百合香たん” ですっ!!」
噛み合うはずのなかった二人。
だけどその間で、カチッと合わさる音がした。
僕たちのオタクライフは、
これからだ!!
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