7話 同担
「あれ、優斗まだ帰らないのか?」
帰り支度を済ませた雅之が
振り返った。
「また先生に
荷物運び頼まれちゃって……。」
肩を竦めてみせる。
「ほぅ~……。
ちなみにどこまで?」
「別棟の資料室。」
すぐさま、
憐れむような声が聞こえた。
「これまた遠いなぁ、
手伝おうか?」
「いや、今回はいいよ。」
手をひらひらと振り、
間髪入れずに断った。
「彼女が待ってるんだろう?
だったら僕を置いて先に行くんだ。」
「くっ……!漢として一度は行ってみたいセリフを。
しゃーねぇ、先に帰るぜ!!」
カバンを背負い、
意気揚々と駆け出した。
「じゃあね~、
彼女さんによろしく。」
「おうっ、また明日な!」
そう言って彼は去っていった。
ひらひらと手を振る中で、
彼の足音は遠ざかっていく。
「よしっ、行ったか。」
反応が無いことを再確認。
「じゃあ僕も、っと。」
荷物をまとめて立ち上がり、
教室後方の扉へと向かった。
「でさ~、うちの弟が―――」
「やっば~、それは面白すぎでしょ!
ねっ、千春さん。」
「ふふふ、そうですね。」
残っていた千春さんたちのグループの
後ろを通っていく。
僕に向けられた視線に、
気づかないふりをしながら扉を抜けた。
待ち合わせ場所は決めてない。
けれど二人の頭の中には、
共通の場所が浮かんでいた。
《先に行って待ってるよ、
秘密が始まったあの場所で……。》
階段には、
カツコツという足音だけが響いていた。
***
『ん?どうしたの千春さん?
黙り込んじゃって。』
『すみませんっ!
移動教室の時、忘れ物したみたいなので取ってきます!!』
『えっ?う、うん、わかったけど……。』
『遅くなってしまうかもしれないので、
どうぞ私のことはお気になさらずに!
それではまた明日!!』
『あっ!ちょっと。』
『『……。』』
『はや~、千春さん行っちゃったね。』
『だね。』
『今日ずっと様子変だったけど、
大丈夫かな?』
『う~ん、わからんっ。』
千春さんがいなくなった後、
教室には二人の女子の会話が残っていた。
***
―――バタンッ!
扉が一気に開かれる。
「すみません!
お待たせしてしまって!!」
息を切らせ、
膝に手を当てる彼女。
「いや、こっちこそ。
呼び出すような形になっちゃってごめん。」
広げていたラノベを閉じて、
ポリポリと頭を掻いた。
「そういや友達は?」
「先に帰ってもらいました。
私のせいで待たせるのも悪いですから。」
「そうか……。」
ここに来るまでにもしかして、
友達に嘘をつかせてしまったのだろうか?
事情を知ってる身としては、
どことなく後ろめたさや罪悪感が募ってしまう。
《肩入れ、し過ぎなのかなぁ……。》
「どうかしましたか?小鳥遊さん。」
「何でもないよ。
それより、これ―――」
カバンからボールペンを取り出して、
千春さんの掌に置いた。
「あの時渡せればよかったんだけど、
人の目があったし、何よりこのボールペン……。」
【百合香たんだよね、もしかして “はし恋” オタク?】
言いかけて言葉に詰まる。
違っていたらどうしよう。
「すみません引きましたよね。
オタバレしたくないのに、
推しグッズなんか持ってきてごめんなさい……。」
何を誤解したのか、
彼女の発言が段々と消極的になっていく。
「使いもしないのに、授業中ずっとニチャニチャしながら握ってごめんなさい。
でもこの子を肌身離さず持ってると自然と元気が出てきて―――」
「あっ、この子は花園 百合香って言うんですけど。
“はしる背中に恋をした” ってラブコメアニメのヒロインで、
可愛いのは大前提なんですけど、
性格も佇まいも凛としていて本当に最高なんですよ!」
「あびゃっ!!」
「す、すみません!!
一人長々と語って……気持ち悪かったですよね。」
千春さんの前で口を押える。
《危なかった……。》
興奮して変な声出るとこだった。
いや、もう出てたわ。
「ほんとごめんなさい。
私なんて、もう土に還っ―――」
「―――続けて。」
「へっ?」
言葉を被せた。
「もっともっと聞かせてくれ。
千春さんの “百合香たん” 愛を。」
「“百合香たん” って……まさか?!」
「同担。」
「っ?!」
考えるより先に口が動いた。
「この意味、分かるだろ?」
自分の口元が、
歪に歪んでいくのが分かる。
ガチオタならではの危険な笑み。
「……1つ、気になっていたことを聞いてもいいですか?」
「もちろんだとも。」
―――ごくり。
喉の奥が小さく鳴った。
「優斗さんの眼鏡ってまさか……。」
「あぁ、そのまさかだよ。」
眼鏡の縁をクイっと押し上げた。
「はし恋コラボグラス―――」
「Concept “花園 百合香” モデルだ!!」
「えぇ~~~~?!」
屋上に彼女の声が響き渡った。
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