6話 オタクはオタクにひかれ合う
「あぁ~、ねっむ。」
教室の隅
窓際に位置する自分の席で、ひとりぼやいた。
「朝から顔が死んでんな~。大丈夫そうか?」
後ろから声を掛けられ振り返る。
「よっ、優斗。」
「……おはよう雅之。ちょっと昨日の疲れが溜まっててだな。」
「ん?何かあったのか?」
ドカッと、前の席に荷物を置くと
そのまま僕の方に向き直った。
「いや、実は―――」
クマの深くなった顔を上げ、
うす開きの眼で彼を見た。
「おう……。」
喉がヒクつく。
緊迫の瞬間は訪れた。
そして、
「自作小説の原稿、まだ仕上がってなくてだな。
必死に書いてたら日付が変わってただけ。」
―――ガチャガチャガチャ
「うわっ!千春ちゃん大丈夫?」
「あっ、ご、ごめんなさい!
私ったらうっかりして……。」
何やら聖女様の方が騒がしい。
横目で見るとどうやら、
筆箱の中身をぶちまけたみたいだった。
「盛大にやったなぁ、
色んなとこ飛んでんじゃん。」
気の毒そうな声を上げる雅之。
視線の先では、
多くの生徒が拾うのを手伝っていた。
《聖女だとここまで大事にされるんだな。
そりゃあ、手放したくないわけだ。》
“自分も手伝おう”
そう思い席を立った直後。
―――カランコロンッ
足元で音がした。
「何だこれ―――ッ?!」
拾い上げたのは一本のボールペン。
だが、ボディのデザインを見た途端、
脳内パルスに強烈な電気信号が走った。
《 “はし恋” 10周年記念、限定ボールペンだと?!》
そこには、何をどう見ても僕の推し、
“百合香たん” が描かれていた。
出た当初から欲しくて堪らず、
何度もネット上を駆け巡ったこの僕だ。
当然、見間違うなんてありえない。
《確か限定100名にのみ、手に入れることができた幻の一品。そのあまりの在庫の無さと需要の高さから、ネット通販では常にプレミアがつき、オークションでは数十万はくだらないとされていたはず。
それを千春さんが持っているということは……そうか!!
昨日のオタク発言は伏線回収で彼女ももしや同志。
なるほど、そそる、そそりまくりだぞこれは!!
えぇっ、でも嬉しい!僕の身近に―――etc》
*この間、実にコンマ数秒。
「あれっ?優斗、そのボールペン……。」
「えっ?」
彼の一言で我に返る。
「お前の推しキャラじゃん。
なになに、そんなの持ってたっけか?」
その瞬間、
目を丸くした千春さんと目が合う。
明らかに動揺した表情だった。
「千春さん顔色悪いけど、
もしかして体調悪い?」
「ほんとだ!保健室行っとく?」
「い、いえっ、大丈夫ですので……。」
おまけに周囲にはまだ人がいる。
しかも、うち何人かはこっちを見ていた。
《……直感で分かる。》
今渡すのは、
彼女のオタバレに直結する。
う~む、どうしたもんか。
「あぁ~、そうだな―――」
助けを求めるように彼女を見ると、
あっちもまた、あたふたと視線を泳がせていた。
仕方ない。
ここは僕が誤魔化すしかなさそうだ。
「最近買ったんだよ。デザインも最高で、僕の宝物なんだ。」
そう言いながら、口パクで
預 か っ て お く
と伝えた。
「あ。言っとくけど、渡さないからな。」
「……言われなくても、盗ったりしないっつーの。
俺を何だと思ってんだ。」
鼻を鳴らしながら、
軽く小言を言われる。
その一方で―――
あ り が と う
と、彼女の口元が動いたように見えた。
ついでに小さく手を合わせ、
ペコペコと頭を下げている。
やがてホームルームのチャイムが鳴り、
全員が席に着き始めた。
席に着いた僕は、ボールペンを丁重に筆箱に仕舞い、
担任が来るのを静かに待った。
《さてと、いつ渡そうかな?》
担任が来てからも、
頭の中はそれで一杯だった。
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