5話 また明日
シリアスからほのぼのパートへの移行がかなり難しく、いつもの数倍時間がかかりました。読んで楽しんでいただけたら幸いです。
「あなたの前で飛び降ります。」
その一言を皮切りに、全身の血の気が引くのを感じた。
吹き抜けた春風が、僕の精神をグラグラと揺らす。
「は、はは。冗談キッツ―――」
「冗談じゃないです。本気ですから。」
「マジ(本気)、なのかよ……。」
はぁ~っとため息をついた。
「……言われなくてもそのつもりだ。
覗き見していた僕にも非はある。」
千春さんを真っ直ぐ見据える。
「そもそも言うような友達も、
知り合いもいないから安心してくれ。」
「……それはさすがに嘘。」
むっと眉間にしわを寄せて彼女は言った。
「嘘じゃないって、ほら。」
L〇NEアプリを開いて、
千春さんに見せる。
「一応、クラスラ〇ンには入ってるんだけど……。」
そのまま画面をスクロールすると、
「えっ?友達4人だけ?」
素っ頓狂な声を上げられた。
直接言われると悲しいが、
とりあえず補足説明する。
「うち3人は家族、
あとは親友の雅之かな。」
言い終えると、
彼女と視線が交差した。
「……ちょっと、そんな憐れむような目で見ないでくれよ。」
その表情はあまりにも真剣だった。
善意が余計に苦しい。
「これはその……あれだ!友達を作ろうと思えば余裕で作れるけど、
まだ本気出してない的な―――」
「そ、そうだよね、なんかごめん……。」
「うぐっ!余計傷ついたんだが?!」
ぶはっと、彼女が噴き出した。
それにつられて僕も笑った。
《聖女なんかより、こっちの方が―――》
そんな本音が胸の奥に浮かんだ。
けれど、口に出す前に弾けて消えた。
「どう?これで少しは信じてもらえた?」
ひとしきり笑った後、彼女に声をかけた。
「まぁ、そうですね。ほんとちょっとですけど。」
「手厳しいなぁ。」
情けなさそうに眉を下げた。
「ですので、今後しばらくは観察処分ということで。」
「……なんか、犯罪者臭プンプンなんですけど。」
「当然です。」
一点の曇りなく告げられた。
《断言されると意外と来るなぁ、けど―――》
「信じてもらえるのなら、
それでもいっか。」
千春さんに向き直る。
いつの間にか瞳に、
ハイライトが戻っていた。
心なしか、表情も柔らかくなってる気がする。
そして、
「改めてよろしくお願いしますね。小鳥遊さん。」
小さな右手が差し出された。
手の震えは消えている。
「こちらこそよろしく、千春さん。」
優しく自身の右手を重ね合わせた。
「ふふっ。」
「はははっ。」
繋がれた手から体温が伝わる。
数分前まで他人だったとは思えないほど、
その温もりは心地よかった。
「それとさっき言いそびれたけど―――」
最後に思っていたことを口にする。
「素の千春さんも十分素敵だよ。」
「……ふぇっ?!」
「少なくとも、僕はそう思ったからね。」
変な声を上げた彼女をよそに、
僕は続けた。
「自信を持ちな、人を見る目には自信があるんだ。」
「あ、あの、その……。」
慌てふためく千春さん。
だけど、どうしても伝えたかった。
自分自身を嫌いになって欲しくなかったから。
“聖女じゃなくなっても、
離れていかない人が居るんだよ“
そう、知ってほしかったから。
―――ピピピッ、ピピピッ
突然、腕時計が鳴った。
見ると時刻は5時半を示している。
「やっべ、もうこんな時間だ。」
頭の中を今日のTO DOリストがよぎった。
《マズイ、長居し過ぎた!
今日こそ、 “アレ” を仕上げないとなのに!!》
「ごめん千春さんっ、
急用思い出したから先に帰るよ!」
「……え?」
くるりと身を翻して出口へ向かう。
「それじゃあ、また明日ねっ!」
軽く後ろに手を振って、
勢いよく地面を蹴り上げた。
「……う、うん。また明日。」
ボソリと何か聞こえた気がする。
けれど、気にする余裕は無い。
立ち尽くす彼女を置いて、
僕はその場を後にした。
「さっさと帰って、原稿仕上げるぞ~!!」
沈みかけの夕日を前に、
自身に喝を入れたのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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