71話 千春さんファンミーティング
ご覧いただきありがとうございます!
「付き合ってるの?」というお決まりの質問から始まる、とある放課後の一コマです。
勘違いから始まる、ちょっと賑やかで甘酸っぱい(?)空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、どうぞ!
「僕と千春さんが付き合ってる―――だって?」
目の前にいる彼女を見つめながら、そう聞き返した。
当の本人は否定もせず、不思議そうに僕を見つめている。
「まさか~。そんなわけないって」
丁寧に、朗らかなトーンで言い切った。
「本当に?」
「あぁ。というか、そもそも……」
流し目で千春のいる方を見る。
「僕らの関係って、元クラ対リレーの仲間ってだけだし。別にそんなんじゃないよ」
目元にしわを寄せて、快く笑ってみせた。
「雰囲気がどうとかも、別に僕だからってわけじゃないしね」
ピッと親指を横に向けた。
その指線の先には、千春に抱き着いている来栖さんの姿。
これ以上ない説得材料だった。
でも同時に、僕の胸で何かが裂ける音がした。
「そう、なんだ……」
拍子抜けした様子で、目の前の少女は少し肩を落とす。
「?」
逆に彼女は、僕らにどうあってほしかったのだろう?
そんな疑問が浮かび、首を傾げた。
「……でもあの感じ、少なくとも千春さんは」
「ん? どうかした?」
「えっ! い、いやいや、こっちの話だからっ……!」
彼女自身も無意識だったのか、慌てて口をつぐむ。
両手で口元を押さえながら、僕と、なぜか千春の方をちらちらと交互に伺っていた。
何かあるのだろうか?
「あの、さ……。聞きたいことがあるんだけど」
言いづらそうに彼女は言った。
指同士を落ち着きなくこねくり回し、視線を泳がせている。
「僕に答えられる範囲なら」
(どうせ勉強の話だよね)
心の中でそう思いながら、手元の問題集をペラっとめくり、次の言葉を待った。
意を決したような彼女の呼吸音が聞こえる。
顔を上げた僕と目が合った瞬間――
「―――千春さんって、どんな感じの人?」
「へっ?」
まさかの質問に、僕の思考は一旦フリーズ。
それから、はたと我に返った。
「ち、千春さんのこと? 勉強とかじゃなくて?」
「そうだけど?」
お互いにポカンとした顔で見つめ合う。
「その話、俺も気になるわ」
「俺も~」
「雅之に、達也まで……」
さっきまで静かにしていた奴らが、まさかの刺客として参戦してきた。
雅之はテンションが高いのか低いのかよく分からない返事だが、残り二人(※)はめっちゃ食い気味だ。達也に至っては鼻息すら荒い。
なんていうか、推しを語るときの自分を見ているみたいだ。
「ちなみになんで僕? さっきも言ったけど、そこまでの関係でもないんだけど」
「けど、体育祭のとき一番話してたの優斗だろ」
「だから俺らの知らない千春さんのことも、オメェなら知ってんじゃねぇのか?」
「それは……」
流れで、目の前の彼女の方へ視線を戻した。
その瞳は宝石箱みたいに爛々と煌めいていて、好奇心に満ちあふれている。
「少しのことでもいいよっ! だから千春さんのこと、教えてほしい!」
ふんっ、と勢いよく意気込んだ様子で僕に詰め寄る彼女。
「私、千春さんのファンだから!!」
鼻先に息がかかる。
さっきも思ったけれど、この子は距離感が近い。
(まぁ、これくらいで意識してるようじゃ、オタクなんてやっていけないよな)
諦めたように両手を挙げ、やれやれと首を振った。
「わかったよ」
開いていた参考書を優しく閉じる。
それから、わざとらしくひとつ咳払いをした。
「それじゃあまず、何から話そうか―――」
こうして僕らの『推しを語る会』が始まった。
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