69話 放課後勉強会
体育祭が終わり、少しずつ日常を取り戻していく季節。
期末テストを目前に控えた放課後、優斗たちは勉強会を開くことになった。
しかし、千春を中心に人が集まり始めたことで、その会はいつしかクラス全体を巻き込む大所帯へ。
賑やかな教室の中で交わされる何気ない会話。
けれど、その放課後は誰も知らないところで、小さな変化の始まりを迎えようとしていた。
「なぁ、雅之」
「なんだ? 優斗」
シャーペンを走らせながら、隣の雅之に声を掛ける。
「どうしてこんな大勢で勉強なんてしてるんだ?」
「……それを俺に聞かれてもなぁ」
雅之は肩をすくめ、僕と顔を見合わせて苦笑した。
時刻は放課後。
期末テストが近いということで、当初はクラ対リレー組だけで勉強会を開く予定だった。
だが気付けば話が話を呼び、教室には机をいくつも繋げて問題集を広げる生徒たちの姿があった。
あちこちから質問や雑談が飛び交い、もはや勉強会というより小さな自習室である。
そして、その中心にはやっぱり千春がいた。
「ねぇ~千春さん。ここの問題なんだけど」
「俺も教えて欲しいっす。ここが特に分かんなくて―――」
「もうっ、みんな千春っちが疲れちゃうでしょ~。ほら散った散った」
次から次へと集まる生徒たち。
男子も女子も関係ない。
その様子を見ていると、千春の人望の高さがよく分かる。
「あ、あの……ちょっと待ってください。」
懸命に対応しているが、流石の千春も手一杯らしい。
穏やかで柔らかな笑顔は保たれているものの、どこか余裕がなくなり始めていた。
《あれは大変そうだな》
少し心配になって視線を向けていると、
「なぁ、優斗の旦那。ここの問題分かるっス?」
突然、横から声が飛んできた。
「えっ? あぁ、ここの問題は―――」
そこまで言って、僕は動きを止める。
「ちょっと待って。なんで達哉がここにいるの?」
「へへっ。面白そうだったからつい来ちまった」
「いや、君違うクラスじゃ……」
「まぁまぁ、細かいことは気にすんなって」
そう。
体育祭以降、少し変わったことがある。
それは五十嵐達哉とよく話すようになったことだ。
廊下ですれ違えば立ち話をするし、気付けば恋愛相談やくだらない雑談をする仲になっていた。
《それにしたって教室にまで来るとは思わなかったけど》
「おーい五十嵐~。陸上部のエースがこんなとこで油売ってていいのかよ~?」
「テスト休みだからいいんだよ。今回はマジで頑張るかんな」
「ハハッ。万年学年最下位が何か言ってら~」
「うっせーな。」
ガハハハと笑い合う達哉とクラスメイトたち。
なんだろう。
僕より馴染んでいる気がする。
「はぁ~、今日も麗しい。せい―――じゃなかった、千春さん……」
「君は相変わらずだね……」
「そりゃあ千春さんファンとして、推しを愛でるのは当然だろ?」
達哉はうっとりした目で千春を眺める。
あの視線はもう憧れとか好意とかを通り越している気がする。
流石に神格化し過ぎじゃないだろうか。
「……というか意外だね」
「何が?」
「てっきりあそこに混ざるものかと」
僕が指差した先では、千春を囲む生徒たちが未だ列を作っていた。
勉強の質問をしているように見えるが、多分それだけじゃない。
第三者から見ても、その下心は割と透けて見えていた。
「いやぁ~、俺だって出来ればそうしたかったんだけどよ……」
途端に達哉は肩を縮める。
「やっぱ本人を前にすると、喋るより緊張が勝つわ」
「えぇ~? あれだけ僕相手にシミュレーションしてたのに?」
「無理だ」
達哉は真顔で首を振った。
「顔に見惚れて力が出ねぇ」
「ア〇パ〇マンかよっ!」
思わずツッコミが飛び出す。
達哉も堪え切れず吹き出した。
そんなくだらないやり取りをしている間も、千春は引っ張りだこだった。
次々に質問へ答え、周囲の生徒たちに笑顔を向けている。
こちらに視線を向ける余裕はなさそうだ。
そして、その時だった。
「小鳥遊君、ちょっと良いかな?」
不意に掛けられた声に顔を上げる。
近くにいた女子生徒が、どこか言いづらそうな表情でこちらを見ていた。
そして―――。
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