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君を知って、恋を知る ~学校一の聖女様と秘密の同担オタクライフ~   作者: 浜焼き三太郎
第3章 君と夏

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67話 二人の約束

楽しい時間は、いつか終わる。


だからこそ、人はその先を願うのかもしれない。


水族館を後にした二人が交わしたのは、小さな約束。


それは夏へと続く新しい一歩。


そして、止まっていた優斗の時間を少しだけ動かすきっかけでもあった。

「じゃあ、そろそろ帰りますか。」


「うんっ、そうだね」


軽やかな笑みを浮かべながら千春が頷いた。


僕らは並んで歩き出す。


コツ、コツ。


二人分の足音が夕暮れの歩道に重なった。


「今日だけであの水族館、制覇できたんじゃない?」


「ふふっ、分かってないなぁ、優斗君は」


千春は自信満々に人差し指を立てる。


「実はあの水族館、季節ごとに展示が変わったりするんだよ」


「うそだろ? じゃあまだまだ奥が深いってことか……」


「そゆことっ」


屈託のない笑顔。


本当に水族館が好きなんだなと思う。


「なるほどな。じゃあ次に行く時はもっと楽しめそうだ」


何気なく言ったその言葉に、


千春の足がぴたりと止まった。


「千春?」


振り返る。


彼女は少し目を丸くしていた。


「えっ? ご、ごめん。何でもないよ」


「そうか?」


「うん。ただ……」


千春はもじもじと身をよじる。


それから視線を逸らしながら、


「また次があるんだなぁって」


小さく呟いた。


つま先が落ち着きなく地面をこすっている。


「もしかして、嫌だった?」


「ち、違うよっ!」


千春は慌てたように顔を上げた。


目が合った瞬間、


また恥ずかしそうに逸らされる。


「ただ……嬉しくて」


その仕草が妙に愛おしかった。


守ってあげたくなるような。


ずっと隣にいてほしいと思ってしまうような。


そんな感情が胸の奥から湧き上がる。


来栖さんや学校の連中が見たら卒倒するかもしれない。


今の千春には、それだけの破壊力があった。


「ありがとうね、優斗君」


「……おう」


気恥ずかしさをごまかすように後頭部へ手をやる。


「こっちこそ。今日はありがとな。すごく楽しかった」


「それなら良かったです」


千春は嬉しそうに笑った。


並んで歩く彼女の胸元では、


エメラルドのブローチが夕陽を受けて静かに輝いていた。


「次はいつ行こっか」


「うーん、夏休みとか?」


「あぁ、言われてみればもうすぐか」


夏の気配が濃くなった空を見上げる。


耳を澄ませば、


どこからかヒグラシの鳴き声が聞こえていた。


梅雨の湿気はすっかり姿を消し、


代わりに乾いた夏の空気が街を包み始めている。


「それに水族館以外にも色々行ってみたいですね」


「確かにな」


夏。


ラブコメの定番イベントが詰め込まれた季節だ。


青春。


縮まる距離。


かけがえのない思い出。


そんなものは画面の向こうだけの話だと思っていた。


少なくとも少し前の僕なら。


「優斗君は行きたい場所とかあるんですか?」


「行きたい場所か……」


考えながら視線を巡らせる。


ふと柱に貼られたポスターが目に入った。


「花火大会、とか?」


夜空に広がる色とりどりの光。


胸に響く音。


火薬の匂い。


昔から好きだった。


毎年のように足を運んでいたくらいには。


――最後に行ったのは確か。


ズキッ。


頭の奥に痛みが走る。


その先を思い出そうとすると、


見えない壁に阻まれるような感覚。


思い出してはいけない。


そんな警告だけが胸に残った。


「良いですね! 花火大会っ!」


弾んだ声に意識を引き戻される。


「でも私、一回も行ったことないんですよ。だから行ってみたいなぁ」


千春は目を輝かせていた。


楽しそうにはしゃぐその横顔が、


なぜだかやけに眩しく見える。


気付けば、


僕は彼女ばかり見ていた。


「じゃあ、さ……」


ぎゅっと拳を握る。


心臓がうるさい。


それでも意を決して口を開いた。


「今度、一緒に行かない?」


少しだけ声が上擦った。


我ながら情けない。


けれど言い直す勇気もなかった。


千春は一瞬、


何を言われたのか理解できなかったような顔をした。


そして、


ゆっくりと口を開く。


「……それって、二人で?」


探るような声。


「……うん」


短く頷く。


まともに顔を見ることができない。


断られたらどうしよう。


嫌がられたらどうしよう。


そんな考えばかりが頭を埋め尽くす。


「どう、かな?」


意を決して視線を向ける。


すると、


「……っ」


千春は息を呑んだように固まっていた。


白い頬がみるみる赤く染まっていく。


揺れる瞳。


震える唇。


まるで時間だけが止まってしまったみたいだった。


「い、嫌だったら本当に断ってくれていいから!」


「へっ?」


僕の慌てぶりに、


千春はようやく我に返った。


それからバッグの持ち手をぎゅっと握り、


困ったように笑う。


「まったく、優斗君って人は……」


そして。


「花火大会、楽しみにしてるねっ」


今日一番の笑顔が咲いた。


その眩しさに、


僕の心臓はまた大きく跳ねた。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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