63話 次回、優斗死す。そして尋問へ……
やめて! 千春に執筆活動の内容がバレたら、自分をモデルにしたヒロインの存在まで知られて、優斗が羞恥心で悶え死んじゃう!
お願い、死なないで優斗!
あんたが今ここで倒れたら、黒歴史原稿や下書きフォルダはどうなっちゃうの?
まだ言い訳は残ってる。ここを耐えれば、生還できるんだから!
次回「優斗死す」
尋問スタンバイ!
手を組んだまま、千春は黙り続けている。
まるで「話すまで逃がさない」とでも言いたげな視線だった。
「い、いやぁ、聞き間違いじゃ……」
「……」
僕が必死に話題を逸らそうとしても効果はない。
あらゆる言い訳や御託を並べてみるものの、千春の無言の圧力がすべてを押し潰していく。
「優斗君」
「は、ハイ」
千春はこれ見よがしに大きくため息をついた。
「別に言いたくないなら、それでもいいよ」
「けど」
そう続けると、彼女はぽっと頬を染めた。
「私ばっかり恥ずかしいとこ見られて……ちょっと不公平だと思う」
……ん?
今なんて言った?
「―――責任取ってよね」
ブフォッ!!
盛大にドリンクを吹き出した。
「ちょっ!? 待って、ストップストップ!!」
慌てて両手を突き出して制止する。
待ってくれ。
状況がまるで理解できない。
どうして僕は今、学校一の美少女に涙目で『責任を取れ』なんて迫られているんだ?
「責任? 恥ずかしいところ? 一体何の話をしてるんだ?」
備え付けのペーパータオルで口元を拭きながら問いかける。
こっちは内心、それどころじゃない。
「だから、その……あの時見たよね?」
「見たって?」
聞き返すと、千春は視線を落として口元を尖らせた。
「……屋上で私が、ぬいぐるみに話しかけてるところ」
「あぁ……」
そこでようやく思い出す。
「僕らが出会った日のこと?」
千春は小さく頷いた。
「それが千春の恥ずかしいところだって?」
「うん。それと、私の告白現場とか」
「もしかして三年の先輩が告白してきた時?」
否定は返ってこなかった。
なるほど。
そういえばあの時、雅之と一緒に目撃していたんだっけ。
「まさかバレてたとは……」
「ほんとだよ。見世物にされてる気分だった」
千春は肩を落としながらため息をつく。
組んでいた手はいつの間にか解かれ、顎の下で両手を重ねていた。
どこか憂鬱そうだった。
……こっちは半分バラエティ番組でも見ている感覚だったけど。
千春からすれば公開処刑みたいなものだったのかもしれない。
「不快な気持ちにさせてごめん、千春……」
握っていたホットドッグの包みにくしゃりと皺が寄る。
「僕は面白半分だったかもしれない。でも、君からしたらたまったもんじゃなかったよな」
「……」
僕は深く頭を下げた。
千春は何も言わない。
その沈黙が逆に重かった。
きっと相当怒らせてしまったのだろう。
「言葉だけ?」
その一言に背筋が凍り付く。
「……いいえ。僕に出来ることなら何だってします」
沈黙が痛い。
顔を上げるのが怖い。
千春の顔を見ることすら出来なかった。
もしかしたら今、あの聖女みたいな穏やかな顔は氷の仮面に変わっているのかもしれない。
そう思うだけで胸の奥がずきりと痛んだ。
何よりも―――
優しい人を怒らせてしまった。
その事実が重くのしかかる。
「……優斗君」
「っ!」
重々しく千春が口を開く。
審判を待つ罪人みたいな気分で、恐る恐る顔を上げると―――
「私、怒ってないってば」
「え?」
千春は困ったように眉を下げた。
「どれも事故みたいなものだったし。あんなの、日常茶飯事だもん」
そう言って優しく微笑む。
その柔らかな笑顔を見た瞬間、全身から力が抜けそうになった。
「こっちこそごめんね……ちょっと意地悪しちゃった」
「い、いや、いいんだよ」
申し訳なさそうにする彼女を見て、大きく息を吐く。
はぁ~……良かった。
怒らせてオタ友解約とか言われたらどうしようかと思った。
「ってことはつまり、執筆の件も無しってことで―――」
「それはダメ」
にっこり。
千春の瞳が細められる。
「何でもするって言ったよね?」
有無を言わせない笑顔だった。
「あ、はい。ですよね……」
僕に出来たのは、素直に頷くことだけだった。
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