62話 甘いパフェと苦い秘密
水族館編中盤戦。
魚を見たり、クラゲを見たり、推しを見たり。
今回も相変わらずな二人ですが、とある失言によって平和なデートに暗雲が立ち込めます。
どうぞお楽しみください。
「そろそろ時間も時間だし、お昼にしない?」
近くのカフェともバーともつかない店を指さしながら、僕は彼女に言った。
時計を見ると、時刻はすでに正午過ぎ。
ずっと歩き続けていたこともあり、いい具合にお腹が空き始めていた。
「うんっ、それが良いと思う」
そう言うと、千春は慣れた手つきでスマホを操作しながら、
「いや、あっち着いてからの方が良いよね……」
「ん?」
「ごめんごめん、何でもない」
なぜか千春は慌てるようにスマホをしまった。
てっきり何か見せてくれるのかと思ったけれど、予想は外れたらしい。
「とりあえず、行きますか」
僕の問いかけに、千春はコクンと頷く。
それから二人の足先は同じ方向を向くのだった。
***
「もしかして、千春が誘ってくれた理由って……」
「そう、実は―――」
二人の前に並んだ料理やドリンクを示すように、千春は両手を広げた。
「実は今、期間限定“はし恋”コラボメニューが出ていたんです!」
「わぉ」
そう言ってテーブルへ視線を落とす。
「だから見て。このコースターも“百合香たん”仕様だし―――」
「何より対象商品一つにつき、限定ステッカーが一枚もらえるの!」
「ヤバいな……。“はし恋”ファン大歓喜じゃないか」
「だよねっ」
まるで自分が褒められているみたいに、千春は上機嫌そうに胸を反らした。
「ラ○ンニュースで流れてきた時ね、『これは絶対行かなくちゃ』って思ったの」
「激しく同意だね」
深く共感しながら、
「はし恋オタなら誰だってそうする。僕だってそうする」
「やっぱり優斗君は分かってるね」
「フフッ、当然ですよ」
眼鏡をクイッと上げる―――フリをした。
今日はコンタクトだ。
そして、銀色のパッケージに包まれたステッカーを指で摘まむ。
「それでどうする? 食べ終わってから開ける? それとも先?」
「う~ん」
千春は一拍置いてから口を開いた。
「……食後で行きます。メインディッシュは最後に取っておきたいから」
「了解。それでいこう」
二人は顔を見合わせる。
「「いただきます」」
そうして僕らの食事がスタートした。
手元のホットドッグを手に取る。
白い包み紙にくるまれたそれは、ほんのりと温かい。
ケチャップとマスタードの香りが食欲をそそった。
千春はというと、小さな紙袋から木べらを取り出し、サンデーパフェへそっと差し込む。
そのままするりと掬い上げ、
「んふっ、おいひい~!!」
噛み締めるように目をぎゅっと閉じながら、左手をぶんぶんと振っていた。
あまりにも美味しそうに食べるものだから、思わず僕も唾を飲み込む。
そういえば―――
「千春って、甘いもの好きなの?」
「んっ?」
スプーンを咥えたまま、千春は目をぱちくりさせた。
「前にコラボカフェ行った時もパンケーキ食べてたじゃん?」
「確かに、言われてみれば……」
なぜか千春は顔を赤らめた。
少し視線を落としながら、コトリとスプーンを置く。
「そ、その、たしなむ程度だから。べ、別に普段から甘いものをたくさん食べてるわけじゃないし。……でも最近、ちょっとふっくらしてきたかも」
「別にそんなこと思ってないよ」
「あぅ……」
自ら墓穴を掘ったことに気付いたのか、彼女は何とも言えない顔をした。
「それに僕も甘いもの好きなんだよね。執筆活動してると体が糖分を欲しがるというか……」
そう言った途端、千春の動きが止まった。
《あ、やらかした……》
「……ごめん今の無し、忘れてください」
誤魔化すように僕はそっぽを向く。
―――トンッ。
「優斗君」
何かが置かれる音がして、反射的にそちらへ目を向けた。
そこには某エ○ァのゲ○ドウポーズを決めた千春がいた。
「執筆活動って、なに?」
心なしか、その目が暗い水族館の中で不気味に光った気がした。
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