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君を知って、恋を知る ~学校一の聖女様と秘密の同担オタクライフ~   作者: 浜焼き三太郎
第3章 君と夏

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59話 ガラス越しの憧れ

好きなものを前にした時、人は普段見せない表情を見せることがあります。


今回は魚たちに囲まれながら、優斗が千春の意外な一面に触れていくお話です。


どうぞお楽しみください。


「中、広いな~。」


入り口を抜けた先には、薄暗い別世界が広がっていた。


「見て、サンゴっ。それに魚もたくさんいる!」


「どれどれ? うわ、めっちゃ綺麗。」


「でしょー!」


ガラスに張り付くように身を乗り出しながら、目を輝かせる千春。


「あれがミドリイシで、あっちのがハナヤサイサンゴ。」


「ふむふむ。」


「それで、あのキノコみたいなのが―――」


僕はそのまま彼女の言葉を待った。


だけど、いつまで経っても続きが聞こえてこない。


「千春?」


不思議に思って顔を横へ向けた瞬間、至近距離に彼女の顔があった。


艶のある唇はライトの明かりを受けて淡く光り、長いまつ毛が空調の風に揺れている。


「ご、ごめん!!」


「い、いえ!」


反射的に、二人揃って顔を背けた。


心臓の鼓動が一気に速くなる。


体中の血液が顔まで駆け上がってくるのを感じた。


この静かな空間なら、ひょっとしたら千春にも聞こえてしまうんじゃないか。


そう思うほどだった。


「き、気を取り直してですね……。」


早速、何事もなかったように振る舞おうとする彼女。


だけど、水槽のライトに照らされた横顔は色々と隠しきれていなかった。


「あれがウミキノコデス。」


「ソ、ソウナンダ~。」


―――しばらく、お互いの顔を見ることができなかった。


***


「次はこっちみたい。」


「おっ、魚めっちゃいる。」


「水槽も今までより大きい!」


「わぁ~~~!」


小さな歓声を上げながら、千春が無邪気にはしゃぐ。


そんな姿を見ていると、自然と口元が緩んでしまった。


「ナポレオンフィッシュに、トラフザメ! あとマダラトビエイもいる!!」


飛び跳ねる勢いで、彼女が次々と魚を指差していく。


「ほんとだ、すごいな。」


「だよねっ!」


すごいと言ったのは魚たちのことじゃない。


千春の知識量のことだ。


もちろん、彼女はそんなこと気付いていないだろうけど。


「この水族館に来るの久しぶりだけど、ずっと見ていられるなぁ~。」


「そっか。」


「うんっ!」


天真爛漫な笑顔が弾ける。


無意識なんだと思う。


彼女は今、普段の相手の顔色を窺うような話し方じゃなくて、自分の好きなものを夢中で語っている。


とても活き活きとしていて、眩しかった。


魚を通して、飾らない千春に触れられている。


そんな気がして、僕は心の底から嬉しかった。


「ね、優斗君。この魚の名前分かる?」


「舐めてもらっちゃ困るよ。これなら僕でも分かる。」


そう言って、僕は自信満々に答えた。


「ズバリ、カクレクマノミだ!」


「ぶっぶーっ。」


千春は小さく頬を膨らませながら、顔の前で腕を交差させた。


……何だろう。


めちゃくちゃ可愛い。


「正解はハマクマノミでした~。」


「マジか。当たったと思ったのに……。」


「クマノミは良い線だったけどね。」


わざとらしく肩を落とす僕を見て、千春が慰めるように笑う。


「この白い帯が二本だとクマノミで、一本だとハマクマノミ。覚えとくといいかも。」


「なるほど、勉強になるっす。」


「ふふっ。魚のことなら何でも聞いて。」


感心したように声を漏らすと、彼女は少し誇らしげに胸を張った。


《本当に魚が好きなんだな。》


千春の知らなかった一面を見られた気がした。


「千春って魚、好きなの?」


「ん?」


「こんだけ種類がいて、よく見分けられるな~って。」


「え、普通じゃ?」


僕は即座に首を横へ振る。


「僕、千春に言われるまで別の種類だって気付かなかった魚、結構いたよ。」


「ほんと?」


千春は少し意外そうに目を瞬かせた。


「結構、見たら分かるものだけど……。」


そう呟きながら、水槽へ視線を向ける。


しばらく魚たちを眺めた後、小さく笑った。


「でも確かに、魚は好きなのかもしれない。」


そう言ってスマホを取り出し、カシャリと一枚写真を撮る。


「特に、水族館にいる魚だけどね。」


画面を僕に向ける。


そこにはハマクマノミが映っていた。


鮮やかなオレンジの体に、一本だけ走る白帯。


そのコントラストがよく映えている。


「どの魚もみんな綺麗で、堂々としてて……。」


千春はガラスの向こうを泳ぐ魚たちを見つめた。


「なにより、自由だから。」


その声は小さくて、どこか遠かった。


「私に無いものばかり持ってるから。」


近いのに、触れられない。


水槽の中を泳ぐ魚たちへ向けるように、千春はそっと手を伸ばした。


まるで、ないものねだりをするかのように。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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今後ともよろしくお願いいたします。

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