55話 ほとんど無自覚なんだけど
皆さんこんにちは、浜焼き三太郎です。
いつも『君を知って、恋を知る』を読んでいただきありがとうございます。
大人数での会話が苦手な千春ですが、少しずつ自分の足で前へ進もうと頑張っています。
そしてそんな彼女を見守る主人公たちの姿にも注目していただけたら嬉しいです。
それでは本編をお楽しみください。
第二章完結まで残り1話
「へぇ~。あの映画、千春さんも見たことあるんだ」
「は、はい……じゃなかった。うん。CMを見てたら、すごく惹かれちゃって」
「わ、分かるなぁ。なんつーか、ビビッとくる瞬間ってあるっすよね」
「……う、うん。そんな感じ」
前を歩くグループの会話は、自然と千春を中心に回っていた。
まだ慣れていないせいだろう。
受け答えには少しぎこちなさが残っていて、人見知りな彼女らしさが垣間見える。
「千春、大丈夫かな……」
「分からないけど、今は見守るしかないよ」
「でも……」
来栖さんは心配そうな視線を千春へ向けた。
今にも駆け寄りそうな勢いで身を乗り出しかけ、それを必死にこらえている。
その様子だけで、彼女がどれだけ千春を大切に思っているのか伝わってきた。
「来栖さん」
呼びかけると、彼女はこちらを向いた。
「本当にまずそうになったら、僕らが全力でサポートする」
そう告げると、来栖さんは小さく首を傾げる。
「だから、それまでは見てようよ。千春が頑張ってるところをさ」
「……」
何か言いたげに口を開きかけた来栖さんだったが、
やがて観念したように大きく息を吐いた。
「りょうかい。なら準備だけでもしておかないとね」
「だね。その意気だよ」
来栖さんは腕を組んだり伸ばしたりと、なぜか軽いストレッチを始める。
「それにさ」
僕は前方を指差した。
「あそこには雅之もいるし、多分大丈夫だよ」
視線の先では、ちょうど爆笑が起きていた。
「そうだね。小野寺なら心配ないか」
雅之の軽妙なトークのおかげなのか。
それとも現在進行形で披露している変顔のおかげなのか。
さっきまでよりも空気はずっと柔らかくなっていて、その中にはくすくすと笑う千春の姿もあった。
「ああ見えて千春は根っこが強いし、案外僕らの出る幕なんてないかもね」
「ふふっ、確かに。千春のこと、よく分かってるじゃん」
互いに笑みを交わしながら歩き出す。
すると来栖さんが、ふと思い出したように口を開いた。
「流石はお互い、名前呼びする仲だけはあるね」
「あー、うん――って、え?」
「だから、名前呼び」
来栖さんは僕と千春を交互に指差した。
「ま、まさか。勘違いでしょ。そもそも名前呼びなんて――」
「いやいや、無自覚かよ~。体育祭の時も、さっきもだけど。ちょくちょく出てたから」
「マジですか」
「大マジです」
その瞬間、顔に熱が集まる。
慌てて両手で顔を覆った。
《うわぁぁぁぁぁぁぁ……! ほぼ無意識で言ってたのか、僕……!》
恥ずかしい。
とにかく恥ずかしい。
穴があったら飛び込みたかった。
「あ、でも安心して。二人が実は仲良しで、恋人同士だとかは絶対言いふらさないから」
「……ちょっと待って。恋人?」
「え、違うの?」
「違うけど……」
来栖さんは引っかかるものがあるような顔で考え込んだ。
「でも、千春のあの感じ……」
「?」
彼女は何かを小声で呟いたあと、
すぐに首を振って考えを追い払う。
「ううん、何でもない~」
そして意味深な笑みを浮かべた。
「それよりさ。二人がどうやって仲良くなったのか教えてよ」
「……黙秘権を行使します」
「えぇ~、つれないなぁ。ちょっとだけでも~」
「ほら、千春たち離れちゃうよ? 早く追わないと」
「あっ! 逃げんなしっ!」
トテトテと駆け出す来栖さん。
その後を追うように僕も足を速めた。
楽しげな足音が、夜道に軽やかに響いていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回は体育祭後の打ち上げということで、少し肩の力を抜いた日常回となりました。
千春がみんなとの会話に挑戦したり、来栖さんが心配のあまりそわそわしていたり、主人公がそれを宥めたり。
派手な出来事こそありませんが、それぞれの関係性の変化や距離の縮まりを感じていただけていたら嬉しいです。
個人的には、来栖さんの「名前呼び」へのツッコミがお気に入りだったりします。
本人だけが気付いていない変化というのは、なんだか青春っぽくて良いですよね。
次回も引き続き、少しずつ変化していく彼らの日常を描いていけたらと思います。
それではまた次のお話でお会いしましょう。




