54話 私の番
皆さんこんにちは、浜焼き三太郎です。
体育祭編が終わり、今回は少しだけ日常寄りのお話になります。
ただ、今回の主役は優斗ではなく千春です。
人それぞれ苦手なものがあると思いますが、逃げずに向き合おうとすることは簡単なようで難しいですよね。
少しずつでも前へ進もうとする千春の姿を見守っていただけたら嬉しいです。
それでは、どうぞお楽しみください。
第二章完結まで残り3話
「そんじゃ、こっから帰りますか。」
「「「さんせ~。」」」
「ってか、なんか増えてんだけど。」
雅之が苦笑交じりに言った。
打ち上げを終えたサ〇ゼ前。
気づけば最初の四人だけでなく、体育祭実行委員の何人かまで集まっていた。
そう、穂乃花さんと五十嵐君である。
「ま、細けぇことは気にすんなよ。」
「そうだそうだ。器が小っちゃいぞ~?」
「穂乃花、お前なぁ……」
雅之は大きくため息をついた。
「みんな、この二人も一緒で大丈夫か?」
「ウチは平気。」
「僕も。」
「「だけど……」」
僕と来栖さんが千春へ視線を向けたのは、ほとんど同時だった。
《正直、千春が無理しそうなんだよな》
千春は不安そうにカバンの持ち手を握りしめている。
「……千春っち、大丈夫?」
来栖さんが心配そうに尋ねる。
その言葉に、千春は一瞬だけ視線を彷徨わせた。
それでも、
「だ、大丈夫です!」
意を決したようにそう言った。
「お、おっし。千春さんからもオッケーもらったし、行きましょっか?」
「それが良いよ~。ほらマサ君も行こっ!」
「ちょ、あんま引っ張るなって~」
そうして二人を先頭に、みんなが歩き出す。
気づけば、僕と来栖さんだけがその場に取り残されていた。
「千春っち、本当に大丈夫? ウチの方から何か言っとく?」
「そうだよ。五十嵐君も穂乃花さんもいい人だと思うけど、結構気疲れしちゃわないかな?」
というか、五十嵐君に関しては少し心配だ。
推しを神聖視しすぎているせいで、一人で暴走しかねない。
さっきの僕の発言で、さらに勢いづいていそうだし。
この時ばかりは、五十嵐君の背中を押したことを少し後悔した。
「……ううん、本当に平気。」
それでも千春は、僕たちの心配を受け止めたうえで、ふるふると首を横に振った。
「私も頑張らないとだから。」
「えっ?」
千春は胸に手を当て、大きく深呼吸した。
それからゆっくり顔を上げる。
「体育祭、みんな頑張ってた。優斗君も、運動するの苦手なのに全力で頑張ってた。」
「それは……」
――千春がいたから。
そう言う勇気を、僕はまだ持っていなかった。
「だから、今度は私の番。」
千春はバッグを背負い直した。
「苦手な人付き合いにも、ちゃんと向き合いたいから。」
そう言うと、空いた両手で軽く頬を叩く。
まるで自分を奮い立たせるみたいに。
そしてこちらを振り返った。
「私が頑張るところ、見ててよね……。」
懸命に作った笑顔。
少しぎこちなくて、だけど確かな決意が滲んでいた。
そのまま千春は駆け出し、先を行くみんなの輪へと飛び込んでいく。
「千春っち、頑張ってるね。」
「……うん。」
「ったく、あんなこと言われたら応援するしかないでしょ。」
三人の輪の中で、ぎこちなくも会話を始める千春。
そんな彼女の背中を、僕と来栖さんは静かに見守るのだった。
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