42話 君、なんだよ?
今回のお話では、千春が過去と向き合った一方で、優斗もまた自分の不安と向き合うことになります。
大切な相手だからこそ抱いてしまう迷いや焦り。 そんな優斗の胸の内を、雅之の言葉と千春の想いが少しずつ解きほぐしていきます。
二人なりの「オタ友」の形を楽しんでいただければ幸いです。
「という感じかな。」
「ふぅん……。」
考え込んで、唇に人差し指を添えた千春。
「要するに」
「私が離れていくんじゃないかって、心配してたってこと?」
「うっ……」
図星を突かれてしまい、僕はなにも言えなかった。
彼女の視線に耐え切れず、ひたすら顔を手で覆う。
「ふふふっ」
笑い声が上がる。
「や、やっぱり、気持ち悪かったか……」
「違うの。ただ―――」
目尻を拭って僕を見た。
「そんな事、あるわけないじゃん……って」
彼女の唇がふっと綻ぶ。
「えっ?」
僕は素っ頓狂な声を漏らした。
「確かに来栖さんも大事な友達だよ。
こっちの私も好きだって言ってくれる素敵な人」
「でもね」
頬に掛かった前髪を、耳にふわりと掛けた。
「嬉しいことも悲しいことも、一番に伝えたい。
分かち合いたいって思えるのは―――」
彼女の人差し指が僕を示す。
顎を引いたまま、視線だけを持ち上げた。
「君、なんだよ?」
不意打ちを食らった。
目を逸らそうとしても、なぜかできない。
「そ、そうなんだ……」
やっとの思いで言葉を絞り出す。
「うんっ」
目を細める千春。
その笑顔が夜道の中でも眩しくて、目を逸らしてしまった。
「私の秘密を知っても受け入れるどころか、むしろ自信をくれた人。
辛いとき、悲しいときでも優しく背中を押してくれる人―――」
一度言葉を切る。
「私の中で優斗君の存在は、十分すぎるくらいに大きいの」
「……」
「なにせ君は、私の傍に居てくれる“気の合うオタ友”―――でしょ?」
そこで千春が、はたと動きを止めた。
「そっちこそ、勝手にいなくなったりしないでよ……ね」
いたずらっぽく目を細める。
それでも照れは隠しきれないのか、月明かりに照らされた頬はまだ赤かった。
《……なんだか、悩んでいたのが馬鹿みたいだな》
さっきまで背中に圧し掛かっていた重みが嘘みたいに軽い。
心の中のひび割れを淡い光が包み込む。
包み込まれた場所はどこも温かくて、触れれば熱が伝わりそうだった。
「だから優斗君」
改めて、僕の前を歩きだした千春。
数歩進んでから、くるりと振り返った。
「今回のことは心配ご無用というもの」
そう話しているうちに、僕は千春に追いついた。
街灯の光を受けて、千春が照れくさそうに笑う。
「これからも私は傍に居る―――だから君も傍に居て」
そう言って、千春は照れくさそうに笑った。
「……約束」
右手の小指がそっと差し出される。
見ると、僕らの出会いを彷彿とさせて、懐かしさと照れくささが込み上げた。
「千春……」
彼女を一瞥してから、控えめにそっと自分の指を合わせた。
二人の体温が肌を通じ合う。
「やっぱりこれ、ちょっと恥ずかしいかも」
「……それはお互い様だよ」
「ふふっ。そっか」
僕らは笑い合って、照れ合って、そうして帰り道を歩いていく。
なぜか世界から取り残されたみたいに。
僕の瞳には千春だけが映り、
千春の瞳には僕だけが映っていた。
「……ねぇ、やっぱりあの二人って」
「フッ、小野寺雅之はクールに去るぜ」
「あ~! ちょっと、先行かないでほしいんですけど~」
もっとも、前の二人の目には僕ら二人が映っていたのだが。
それはまた別の話。
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