36話 ちぐはぐ
※今回は千春と来栖さんのお話の後日談回です。
勇気を出して一歩踏み出した千春。
そんな彼女のことが気になって仕方ない優斗ですが、果たしてその結果は……?
少しずつ変わっていく関係をお楽しみください。
「はぁ~あ、今日も疲れた~。」
家に着くなり、ベッドにダイブ。
枕の肌触りが心地よく、大の字になって顔をうずめた。
部屋の電子時計を見ると、既に夜の7時。
しかし頭の中をよぎるのは、ずっと同じことだった。
「千春、大丈夫だったのかな?」
僕らが学校を出る瞬間、下駄箱で話す二人の姿が見えた。
足元を見つめ、心細そうにカバンを抱きしめていた千春。
その姿が心配で、助け舟を出そうとアイコンタクトを取ろうとした。
だけど、それに気づいたうえで、決心したように来栖さんに向き直っていたので、結局何も出来なかった。
「そうだっ、連絡!」
スマホを取り出す。
しかし予想に反して、彼女からの連絡は何も来ていなかった。
「う~む……。」
唸りながらしばらく考え込む。
「こっちから聞くしかない……か?」
L〇NEを開き千春のアイコンをクリック。
トトトッと、メッセージを打ち込み始めた。
「今日どうだった? いや、今日大丈夫だったか? う~ん、これも違う。」
眉間にしわを寄せながら、ベッドの上のスマホとにらみ合う。
「くそっ、上手く言葉が見つからない!」
悔しい気持ちを枕に叩きつけても、ぽすっと気の抜けた音しか返ってこない。
心の中のわだかまりは残ったままだ。
「そもそも聞いていい話なのか? 相手としては大分お節介に思われ―――」
ピコンッ
突然画面が光った。
脊髄反射でスマホを手に取り画面を開く。
差出人
千春
「えっ、うそ?!」
まさかの人物に、飛び跳ねるようにL〇NE起動。
逸る気持ちを抑えつつ、深呼吸して文面を見た。
【今日の帰り、来栖さんと帰ったんだけど……】
「帰ったんだけど―――その続きは?!」
僕の気持ちを察してか、はたまたこの状況が見られているのか、メッセージが立て続けに送られてくる。
【なんか、めちゃくちゃ仲良くなれました!!ヾ(≧▽≦*)o】
ぽてっ
「よ、よかった~~~。」
安堵のあまり、スマホを手から落としてしまった。
でもその空いた手で胸をスッと撫で下す。
ピコンッ
拾い上げてからまたメッセージの内容を確認。
【それで今度、蒼ブレのイラスト展に行くことになった~!!】
【これも全部、優斗君が背中を押してくれたおかげだよっ。】
【ありがとう☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆】
「メッセージ、ポンポコ来るな~。」
ふふっと、口元を抑えた。
「全部全部、千春が勇気を出したおかげだよ、っと。」
送信ボタンを押した。
ついでに“お疲れーーー!!”と書かれたクマのスタンプも投下する。
すかさず既読がついて、それからまた返事が来る。
それを繰り返す中で、
「来栖さんと仲良くなっていけば、いつか僕はお役御免になるのかもな~。」
はたと呟いた一言に、胸がチクリと痛んだ。
「いけないな。もっと喜ばなきゃなのに……。」
千春の理解者が、同性のオタ友が出来た。
これは良いことだし、僕も彼女も望んだことだ。
それなのに寂しいとか勝手に思うのは、いわゆるお門違いってやつだよな。
くるりと頭を下にして寝転んだ。
「僕も、随分と欲張りになったもんだ。」
こちらの事情はつゆ知らず、相も変わらず通知音が鳴り続けている。
僕はそれを手に取って、見るより先にひっくり返す。
差出人は確認するまでもない。
けれどこれ以上見ていたら、自分の醜い部分が画面越しに伝わってしまいそうだった。
頭を冷やせ、素数を数えて落ち着くんだ。
1、2、3、―――4。
「全然落ち着いてないな。」
力のない笑いが漏れた。
「……さてと、風呂でも入るか。」
そう言って、風呂の用意を済ませるのだった。
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