35話 踏み出す一歩
体育祭の練習が続く放課後。
今回は千春のお話です。
過去の出来事が原因で、人との距離を縮めることに臆病になっていた彼女。 そんな千春が、自分の気持ちと向き合い、一歩前に進もうとします。
優斗の何気ない言葉に背中を押されながら、彼女が踏み出した小さな勇気を見届けていただけたら嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
「なんかあったら、またオタ活しに行こうよ? 僕はいつでも空いてるから。」
「……わたし、頑張ってみる。」
壁から離れ、背中をはたく千春。
それから僕の方に向き直り、握った手を突き出した。
「なら僕は、陰でこっそり応援してる。」
その手にコツンっと、拳を合わせた。
「上手くいったら教えてくれよ。」
そう言うと、彼女は笑って。
「うんっ、もちろんだとも。」
表情を華やかにした。
「さてと、そろそろ練習に戻りますか。」
「そうだね……あっ。」
何かを思い出したように、千春はサッと顔を逸らした。
「千春?」
反応に困り、とりあえず名前を呼ぶしかなかった。
やがて、背を向けたまま彼女が呟く。
「……その、顔洗ったりするから。先行ってて。」
「え? お、おう?」
頭の中に疑念は残ったままだったが、とりあえず納得することにした。
「それじゃあ、先に行ってるから。」
「う、うんっ! またあとで……。」
踵を返す手前、一瞬だけ振り返る。
千春は後ろを向いたままだった。
《……一体全体、どうしたんだろう?》
胸にとっかかりを覚えつつ、その場を後にしたのだった。
***
「お待たせーって、あれ? 来栖さんもいる?」
グラウンドに戻ると、雅之と来栖さんが並んで腰掛けていた。
「よっす~。さっきぶりだね。」
「随分遅かったな~。こっちは話題が尽きるとこだったぜ。」
「すまん、水飲み場が混んでたんだ。」
ちらりと視線を落とす。
片や金髪美少女ギャル。
片やイケメン(彼女持ち)。
《なるほど、なかなか絵になる光景だな。》
「あ、そうなん?」
「マジ? 俺らてっきり……。」
「?」
二人がこぞって顔を見合わせる。
「千春さんと何かあったもんだと。」
「へっ?」
口から変な声が漏れた。
《やばいやばい! どうしてバレて―――いやそれよりも。》
「まさか~。僕と千春さんの接点なんて無いし、そんなのしてたら他の男子に殺されるって。」
「そう言われればそうなんだがな。」
言い淀んでいる雅之。
「でも千春さん、練習中も小鳥遊のことずっと見てたし、そっちが水飲み行ったタイミングでどっか行っちゃったんだよ?」
顎に人差し指と親指を当てて、
「これは何かあるなぁ~、って思ったもん。」
よく見たら、口の端が緩んでいる。
本人的にも女子的にも、色恋事には興味が尽きないらしい。
「ズバリ、二人の間になにかあると見た。
どう? 私の推理、当たってる?」
勢いに思わず一歩引きそうになる。
その目は好奇心で輝いていた。
さてはこの人、少女漫画も好きなタイプのオタクだな。
「はぁ~……。」
眉間を押さえて肩を落とした。
《まったく。鋭いのやら、鈍いのやら……。》
「二人には悪いけど、僕らの間にそういうの何も無いよ?」
そのまま続ける。
「それに、ちゃんと話したのだって今日が初めてだし。」
「えぇ? ほんとに~?」
「ほんとだとも。」
「マジかよ~……。」
なんともなしに僕が言い切ると、不服そうに二人は口を尖らせた。
「ちぇ~、ちょっと期待したのに~。」
「ほんとだよな~。俺達の純情を返して欲しいぜ。」
「何言ってんだか。」
圧倒的少女漫画脳の二人を横目に苦笑を浮かべる。
「まぁでも、なんかあったら言ってよね。まずは私が面接してあげるから。」
「俺も同席しよっかな。『お前に千春はやらん』とか言ってみたいし。」
「もはや結婚の挨拶じゃん。僕いたたまれねぇ……。」
その一言にプッと噴き出した二人組。
釣られて僕も笑ってしまう。
「あの……。」
そんなことを言ってるうちに、後ろから声がした。
「うわっ!……ビックリしたぁ、千春さんか。」
そこには、顔を真っ赤にした千春が立っていた。
「え? いつから?」
「……今戻ってきたところです。」
「そ、そうか。」
《今までの話、聞かれてないってことだよね? よかった……。》
自分でも何が良かったのか分からなかったが、ひとまずホッとする。
そのまま無言が続いた後、
「時間もいい時間だし。今日はお開きにしよっか。」
「……はいっ。それが良いと思います。」
腰を上げた来栖さん。
「二人はどうすんの?」
「あぁ~。俺らも終わりにすっか。」
よっこいしょっと立ち上がった雅之。
「教室の荷物取ってこようぜ、優斗。」
「だね。」
そう言って男子組が歩き出す。
「したら私たちも、帰る準備しよっか。」
コクンっと首を縦に振った千春。
とぼとぼと歩き出した女子組だったが、
「あのっ! 来栖さん!!」
突然、千春が呼び止めた。
「えっ?」
驚いた顔で振り返る来栖さん。
その目には、ジャージの裾を強く握りしめる千春の姿が映っていた。
「あ、あの―――」
震えた声で言葉を探す。
口を開いては閉じてを繰り返し、
やがて意を決したように顔を上げた。
「今日、一緒に帰りませんか?」
沈黙が二人を包み、見てるこっちまで冷や汗が止まらなかった。
来栖さんは固まったままで表情がうまく読めない。
《来栖さん、どう反応するんだ?》
みんな(僕と雅之?)が固唾を呑んで見守る中、彼女は口を開いた。
「えっ、いいの! こういうの初めてじゃんっ、マジで嬉しい!!」
そのまま抱きしめられる千春。
その顔には、驚きと安心が浮かんでいた。
そんな彼女を見て、僕はこっそりと親指を立てたのだった。
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感想もいつも楽しく読ませていただいています。
それでは、また次回もよろしくお願いします!




