28話 お揃い
ご覧いただきありがとうございます。
今回はゲームセンター回の後編です。
苦戦に苦戦を重ねたクレーンゲームですが、ようやく決着。
戦利品を前にした二人が、少しだけ距離を縮めるお話になっています。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「いいぞ、いいぞ、そのままゆっくり―――」
「ここっ。」
弾けるようにボタンから手を離した。
「よっしゃ。タイミングバッチリじゃん。」
「……油断は禁物。まだ最後が残ってる。」
「分かってるって。今度こそ決める。」
ボタンを押す手に力を籠める。
テン、テン、テン、テン。
アームが機械音を振りまきながら、縦方向に進んで行き、
「今ですっ!」
「っ!」
ゆっくりとアームが下降していく。
「頼むぞ、上手くいってくれ。」
「……。」
祈る様に目を閉じていると、
ガコッ
不意に、下から音がした。
「えっ?」
驚きを隠せないまま、千春さんは固まっていたのだが、
とうとう僕は取り出し口に手を入れた。
布のような、絹のような、柔らかでさらさらとした感触。
それを手の中に包んで、彼女の前で広げた。
「陽彩君……それから、百合香たんまで?」
掌の上には、二つのキャラぬいが仲良く並んでいた。
「僕ら合わせて7戦。長かった、本当に……。」
思わず顔を上げた。
「千春。」
「はい……。優斗さん。」
二人で顔を見合わせた。
お互いの顔には、喜びと達成感が浮かんでいた。
「僕らの、完全勝利だ。」
「っ! や、やったー!!」
左手に寄せたキャラぬいを落とさないように、
右手で彼女とハイタッチした。
パンっと、乾いた音が鳴る。
子供みたいに無邪気にはしゃぐ彼女。
とても眩しくて、微笑ましくて。
気付けば胸の奥が温かくなっていた。
「それじゃあ戦利品の分配。はいっ、陽彩君。」
「え? いいんですか?」
「いいんだとも。」
彼女の掌にそっと置いた。
「……わぁぁぁ、可愛い。」
目をきらきらと輝かせて、小さく体を揺らす千春。
無意識に僕の唇がふわりと結ばれた。
《この顔見れたんなら、取った甲斐あったのかもな。》
心にそう言い聞かせるのだった。
「あ、ちなみにこっちの百合香たんはどうする?」
「あ。それなら、優斗さんもらったらどう……かな?」
「え? でも千春、百合香たんも欲しかったんじゃ?」
フルフルと首を振った。
「それはそれ、これはこれ……だよ?」
そう言って、柔らかな眼差しを向けてきた千春。
「せっかく優斗さんが頑張って取ったんだし、
できれば百合香たんはもらって欲しい。」
言いながらその指は、大事そうに陽彩君の頭を撫でていた。
「って、私なんかが何言ってるのって話だけどね……。」
「そっか。」
困ったように微笑む千春を前に、
手元のキャラぬいを見つめた。
つぶらな瞳と目が合う。
「分かった。そういう事ならもらっておくよ。」
「それが良いよ。」
ストラップ部分がシャランっと揺れた。
「千春が陽彩君、僕が百合香たん、か……。」
不思議と、お揃いを持っているような気分になった。
「うん、悪くないね。」
「だよね。」
千春は陽彩君のぬいぐるみを、胸の高さまで掲げた。
まるで自慢するかのようなその仕草。
見ていたこちらまで気分が軽くなる。
《千春といると、いつもこんなのばっかりだ。》
それも、悪くはないか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
キャラぬいを手に入れた二人ですが、本人たちは気付かないまま少しずつ距離が縮まっています。
友達以上、恋人未満。
そんな空気感を感じてもらえたなら嬉しいです。
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