10話 二人で映画
いつもお読みいただきありがとうございます。
好きな作品を語れる相手と、映画を観に行く約束をする。
それだけのことです。
決してデートではありません。
少なくとも本人たちはそう思っています。
今回はそんな二人の映画館での待ち合わせ回です。
どうぞお楽しみください。
「現在、待ち合わせ時刻30分前。」
腕時計を見てひとり呟く。
「早すぎても必死みたいだし、遅れるのは論外だしな。
丁度いいぐらいか。」
《っていうか、何で僕はこんなに気にしてるんだ?》
この状況がデートっぽいから?
いやいや、その思考はNGだろ。
「千春さんだってそんな邪な考えで来てないし、
僕が意識するのは違うだろう。」
酸素を吸って、頭を落ち着かせる。
「デートだと思わせない―――
そのうえで相手と自分が楽しむことを第一に。」
ふと、ガラス越しの自分の姿が見えた。
「にしても、まともな服がこれしかないとはな~。」
白のTシャツに黒のジーパン。
無難と言えば無難。
普通の一言に尽きるコーデだ。
「趣味以外に無頓着だったツケが回ってきた。
こんな機会があるなら、
服も新調しておくべきだったか……。」
``《あれ? 先客いた。》
待ち合わせだろうか?
休日の映画館。
洒落た格好。
おまけにさっきから何度も手鏡を見ている。
何だろう。
健気で可愛らしいな。
きっと、あの子の彼氏さんは幸せなんだろうな。
まぁ、僕には関係ない。
リア充爆発しろなんて、
考えるだけ虚しいだけだ。
だから目を逸らすようにスマホを開いた。【そっち着いたら連絡して~。】
【えっ、着いたんですか?】
【うん。】
【丁度、入り口付近の柱の前だよ~。】
【えっ?】
【私も、今そこにいるんですけど】
【うそっ?】
辺りを見回す。
カップル。
親子連れ。
高校生グループ。
カップル。
いない。
少なくとも周囲に、
彼女らしき影は見当たらなかった。彼女の恰好をまじまじと見る。
お団子ヘア。
黒縁メガネ。
黒茶の落ち着いた私服。
強い。
非常に強い。
オタク的に大変よろしくない。
「正直、眼福ものだよ。」
「えっ、なにもそこまで?」「時間ぴったしか……。」
胸躍ってるのは僕だけじゃないらしい。
嬉しさを隠し切れないのだろう。
千春さんは何度も、
背伸びするように踵を浮かせていた。
「それじゃあ行こっか。」
「はいっ、全力で楽しみましょう!」
その言葉に頷いた。
劇場公開初日。
隣には語り合える同志がいる。
限定特典もある。
さて―――
こっから面白くなってきたぞ。
気分は最高だった。
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