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ある文芸部の日常譚  作者: 夏日向


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「それではまた明日から、よろしくお願いします!」

「うん、また明日」


 晴れて新入部員になる決意をした少女の後ろ姿が遠ざかり、完全に見えなくなったところで笑顔を作るのを止めた。

 そして、何も干渉してこなかった先輩の方へ不服だという意思を込めた視線を送りつつ、先程置きっぱなしにしていた文庫本の前に座る。

 自然とため息が出た。


「随分お疲れのようね」


 隣からページをめくる音と同時に声がかけられる。当たり前のように視線は文庫本に注がれたままだ。


「お陰様で。もう少し愛想の良い先輩がいたら良かったんですけど」


「私は別に、あなたにやれ、と命令した訳じゃあないわ」


 笑みの含まれた台詞。

 ……その通りだ。篠原結姫は俺に命令した訳じゃない。ただ、少し困っている人がいるよ、と教えてくれただけだった。


「それでも、先輩はあの子を見捨てられないからわざわざ俺に教えたんですよね」


 この先輩はわざわざ、小説に集中し、このままでは入口前で立ちすくむ彼女に気づかないであろう俺の意識を掻き乱した。


「あら、あなたは随分可愛らしい子の相手ができて役得だ、なんて思ってるんじゃあないかしら?」


「思ってないですよ、そんなこと」


 ふふ、なんて笑いながら彼女は言葉を続ける。


「これから楽しくなりそうね」


 ああ、この人はきっと、俺が苦労するのを見て楽しむ算段なのだろう。

 静かに文庫本が伏せられ、彼女の瞳が俺を捉えた。


 ──雅という語彙が脳裏に浮かぶ。


彼女はカーディガンの袖から少し出された指を口元に持っていき、目を細めた。

 強く風が吹いたのか、カーテンが大きく舞う。

 俺に静かに向けられたのは、彼女の中身を知らない人が見たら見惚れてしまうような、そんな笑顔だった。

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