92 デート・クライブ視点
ティナと買い物に行くことを決めた後にクライブが王宮に戻ると、なぜか有識者会議に参加させられた。
議題は『必ずデートを成功させるためには』だ。
明日ティナと買い物に行くことを、デートと認識されていた。
会議では、色々な意見が出て、活発な会議だった。
行く場所、寄る店、食事。
ティナにどう接するか、どのような言葉をかけるか。クライブの表情、態度。
有識者によって、最善と思われることが提案されていく。
面倒くさい。
クライブは遠い目をしてしまったが、その思いはグッと堪える。
会議が終了後、様々な指令が乱れ飛んだ。
高級ブティックが並ぶ中央通りをデート場所と決めたため、中央通りを取り囲むように騎士を配置し、身元が確認できる者以外は入れないようにする。
立ち寄る予定の店は、全て貸し切りだ。
そこまでするのは、ティナを王宮に迎える必要があるためだ。
神獣と心を通わせているティナは驚異の存在だ。
ザイバガイト王国の国王と次代の王は、神獣グリファスから加護を受けているが、そのことにより、揺るぎない絶対の立場にいる
だがティナが現れた。対抗できる唯一の存在だといえる。
国王陛下はティナを王家に取り込もうと思われた。そのためには王家に嫁いでもらうことが最善だと。
国王には息子が三人いて、第一王子のスタックは、すでに婿入りが決まっており、いまさら変えることはできない。
現在は第二王子のクライブに白羽の矢が刺さっている。
自分にも幼馴染といえる婚約者がいるが、国王は、そんなことは歯牙にもかけていない。
自分が失敗したら、第三王子のロキシィがいる。
もし息子達が全滅したら、今度は白羽の矢は公爵家に移る。
この国にある公爵家は三家とも王家の血が入っている。公爵家に嫁いでもらったら、あれこれと理由を付けて、王宮に取り込む気だ。
その中で一番有力なのは、ハロルドだろう。ティナとも親しいようだから。
そんな思惑を持って当日を迎えたが、ティナは一筋縄ではいかなかった。
ティナを中央通りへと連れて来たが、何一つ思い通りにはいかない。
有識者の言う通りにやっているというのに。
貴族令嬢達の間では垂涎の的である、マダム=ローレラのプティクでドレスを見ようと誘っても逃げて行くし、王家御用達の国内トップの宝石店、ハーダル宝飾店で好きなアクセサリーを買ってあげるといっても逃げて行く。
捕まえるのが大変だ。
なぜいちいち逃げて行くのか。
そして気が付いた。
有識者は全てが貴族だということに。
貴族の年配の男性が何人集まろうとも、純朴な田舎出身の少女の何が分かるというのか。
流されていたクライブは気づくのが遅かった。
物で釣るのは無理だ。
それならばと、お茶に誘う。
顔に出やすいティナは『え、もう休憩?』と、言わんばかりの表情になっていたが、気づかない振りをして店に入る。
何とか会話をして、親しくなるきっかけが欲しい。
店に入りティナの対面の席に着くと、スーはちゃっかりティナの隣の席に座っている。ちょうちょは定位置であるスーの頭の上。みかんはテーブルの上だ。
クライブの後ろに控えているハリオルが、また口出しをしようとするのを視線だけで制する。
何でも好きな物を頼んでもらおうと思っていると、ティナがメニューを見て固まってしまった。困っているようだ。
どうしたのだろうか?
困るようなことがメニューに書いてあるのかと、クライブも見てみたが、クライブも困惑してしまった。
メニューが隠喩的? 比喩的? すぎる。
クライブでさえ困惑したのだから、ティナが注文できるわけがない。クライブが注文することにした。
何が好みか分からないが、一緒にお茶をした時、クッキーは好んで食べていたので、甘い物が好きなのだろう。
様々な物を注文する。ペット達も盛大な食欲を見せているので、量が多すぎるということはないようだ。
ティナは初めて見たスイーツもあるらしく、目をキラキラさせている。
良かった。逃げようとはしていない。
ふと気づくと、テーブルの上に乗っているみかんがマカロンを凝視している。
みかんは神獣だが、スーのように触手は出せないようだ。
もしかしてマカロンを食べたいのだろうか?
そっとマカロンをみかんへと近づけてみる。
あむっ。
マカロンがみかんの身体の中に取り込まれた。
みかんがクライブの手からマカロンを食べてくれたのだ。
クライブは感動する。
次はみかんを撫でてみたい。
きっと柔らかくて気持ちがいいはずだ。
そんなことを考えていると、紅茶が運ばれて来た。
辺りに花のような甘い匂いが漂う。
ティナも気に入ってくれたようで『いい香り』と嬉しそうだ。
その後、ティナの希望通りに『大通り』へと向かった。
護衛騎士達は、予定が大幅に狂ってしまい、戸惑いを通り越して混乱しているだろう。
有識者達と立てたプランでは、中央通りで買い物を済ませ、夕食を食べて帰宅予定だったのだから。
大通りへ行くと、規制をかけてはいないので、大勢の人々で賑わっていた。
騎士達はティナとクライブの周りを取り囲んで護衛したいだろうが、近づくことが出来ずにいる。
ティナは自分が護衛されていると知れば、驚いて帰ってしまいそうだ。
ティナは屋台や露店に興味津々のようで、急に店に向かって速足で近づいたり、いきなり立ち止まったりしている。
ハリオルが口うるさくティナに注意しようとするので、離れているように言って遠ざけた。
ティナが雑貨を売っている出店に小走りで行ってしまった。
これ程の人ごみだ、このままでは、はぐれてしまうかもしれない。
手をつないでもいいだろうか?
意を決してティナへと声をかけようとしたのだが、ティナがいない。
ほんのさっきまで、出店の商品を見ていたのに。
ペット達もいなくなっている。
慌てて辺りを探す。
散らばっていた護衛騎士達も集まって来た。
それなのに、ティナを見つけることはできないのだった。




