86 スー、パパになる
みかんは無事にブルースライムもどきに変化することができた。
「フフフ、スーとお揃いだ!」
みかんはご満悦だ。
クルクルと回って、変化した身体を見せている。そんじょそこらにウヨウヨいる雑魚スライムにしか見えない。
(そりゃ、良かったねぇ(棒))
「すごいねぇ、変わったねぇ(棒)」
親戚のおじさん達(仮)が、おざなりに応えてやっている。
「まあ、みかんちゃん、青くなっちゃったの? ああきっと元の色に戻ったのね。泥まみれだったから、色がおかしくなっていたのね」
次の日の朝、色の変わったみかんを見て、ティナは一人で納得して、一人で頷いていた。
それでいいのか? スーとちょうちょはティナの理解力というか順応力に驚いている。
だがこれで、みかんも堂々と寮から出ることができる。
日常が戻って来た。
ティナの一日は、けっこう大変だ。
朝の通常授業の前にゼロ時限授業として習熟組の授業が一限ある。
その後、すぐに通常授業が始まる、午前中が座学、午後が実技だ。
午前中の座学は、ティナは眠気との闘いだ。なんせチンプンカンプンなのだから。
ティナのクラスは授業内容レベルが一番低いクラスなのだが、それでも勉強自体したことのなかったティナにすれば、理解できない。
真面目そうに黒板に向かっているが、何も頭に入ってはいない。
午後からの実技は特性ごとに分かれるので、ティナはテイマークラスだ。
ティナに従魔は一匹もいないのでテイマーではないが、では他のどのクラスに行くのかと問われたら、答えようもないし、どのクラスにも入れないと思う。
そのままテイマークラスで授業を受けている。
現在のテイマークラスでの授業は、基礎ということで、まだまだ実技まではいっていない。テイマーの成り立ちや、起源などを座学で習っており、座ることの苦手なティナにすれば、またも睡魔との闘いだ。
通常授業が終わると、また習熟組の授業が一限あり、やっと勉強が終わる。
それから共同棟に立ち寄って、お風呂に入って寮に戻って来る。
もちろん出来る限りペット達は同伴する。
一緒にいられないのはトイレと風呂ぐらいだ。
今日から午後の実技が屋外での訓練になった。
もう椅子に座って睡魔と戦う必要がない。ティナはホッとした。
一学年のテイマークラスの生徒は、ティナを入れて三人しかいない。
入学試験で一緒だったカイとタイリーだ。
カイとは習熟組もだが、座学のクラスも一緒だ。
「頑張る。頑張る!」
ブルーウルフのトムが、尻尾を盛大に振りながら、勢い込んでいる。
(おー、何に頑張るのか分からんが、ガンバレ)
「無駄に勢い込んでいるな。まあ、ガンバレ」
「こいつウザイ」
トムは、屋外に出ることができ嬉しいのだろう、勢い込んでいる。
座学で大人しくしていなければならなかった反動が出ているのかもしれない。
「ティナ、スライムが増えていますね。きちんとテイムして従魔にしていますか?」
担任のリーリャ先生が、今日始めて一緒にきているみかんを見て問う。
従魔以外は学園に入ることは許されないのだ。
「えっと、はいそうです……」
ティナには一匹たりとも従魔はいない。
だが、そう答えるようにとクライブから言われている。何だか後ろめたい。
ティナはチロリとクライブへ視線を向ける。
クライブはティナの視線を感じていないのか、じっとみかんを見ている。
今までクライブは実技の授業に参加することはなかった。神獣の加護を受けているクライブは、テイマーの授業に出る必要はないし、他の特性の授業にも出ることもなかった。
それなのに、なぜか今日から授業に参加するとのことだ。
(おい、みかん見られているぞ)
「あらやだ、ストーカーかしら?」
「さっきも撫でられそうになった。失礼なヤツだ」
ペット達は、ヒソヒソとクライブのことを話している。
なぜかちょうちょは、おねえ言葉になっている。
ペット達は分かっているのだ、クライブが可愛いもの好きで、みかんがターゲットだということが。
「え!? スライムが増えているじゃないか」
「おお、可愛いな」
カイとタイリーもティナの連れている小さなスライムに気が付いたようだ。
「大きいスライムと小さなスライム。こいつら親子なのか?」
「ああ、そうかもしれないな。いつも連れていたスライムが産んだのか?」
カイとタイリーの何気ない言葉は、その場にいるペット達と神獣に衝撃を与えた。
(違うっ! 俺は子持ちなんかじゃないっ。産むわけがないだろうがっ。なんて失礼な奴らなんだ!)
スーは怒りに震える。
「ぶはっ、スーとみかんが親子。ぶはははは」
可愛い顔を盛大に崩して、ちょうちょが爆笑している。
「親子、親子っ、スライムの親子っ」
トムは嬉しいのか、尾っぽを盛大に振っている。
(じゃかあしいわっ。毛玉黙っとれ!)
「キャイン!」
スーの一喝で、トムはカイの股の下に逃げ込む。
「ん、どうしたんだトム」
カイは、ぶるぶる震えるトムを不思議がっている。
「…………」
みかんは、じっとスーを見たまま、何かを考えているようだ。
「まあ、親子みたいですって、同じブルースライムですものね。あら、みかんちゃんどうしたの?」
ティナが掬い上げようとするのを、みかんはスルリと躱すとスーの元へと跳ねて行く。
「パパ?」
みかんはスーを見上げて問う。
小首を傾げる仕草は可愛らしい。小首がどこかは分からないが。
(だーれーがーパパだっ。お前の親になった覚えなどないわっ!)
スーは即座に否定する。
「パパだ。僕のパパだっ!」
みかんはスーの拒絶など聞いちゃいない。嬉しいのか、スーの周りをぴょんぴょんと飛び跳ねる。
(だから違うと言っているだろうがっ。パパ呼びなんかするんじゃねぇ!)
「パ、パパだって……」
激怒するスーの頭の上で、ちょうちょが腹を抱えて笑っている。もう声すら出せないようだ。
「まあ、皆仲良しね」
ティナは騒いでいるペット達を微笑ましいと見ている。
この場に魔獣達の言葉が分かる人族は誰一人としていなかった。




