85 みかんの変身
「さて、スーから呼ばれた用事は済んだな。ならば次は我の番だ」
グリファスの言葉にスー達は嫌な予感がする。
(まさか、みかんを王宮に連れて行くとか言わないだろうな)
「いーやーだー。王宮になんか行かない」
「えっ、そうなったら王宮シェフのサンドイッチを、俺に作ってくれるように言ってもらおうと思ったのに」
ちょうちょがここぞとばかりに話に入って来る。
クライブの寵愛がみかんに移ったのなら、サンドイッチの新たな入手方法を考えなければならないのだ。
「どうせ連れて行くと言っても聞きはしないだろう。それは分かっている」
「じゃあ何だよ」
みかんは警戒心を露わに、グリファスを見て毛を逆立てている(スライムに毛は無い)。
「お前の色だ」
「色?」
「このままでは、お前は自分が神獣だと周りに自己紹介しているようなものだ」
(あー、そうだな。金色とか派手だよな)
「ケバイからねぇ」
グリファスの言葉に、スーとちょうちょは同意する。
みかんはスライムにしては、あり得ない色をしているのだから。
「しかたがないじゃないか、また泥まみれになれっていうの?」
みかんは拗ねる。
(チッ、可愛くなんかねーぞ)
上目遣いでこちらを見るみかんの態度を、思わず可愛いと思いそうになって、スーは慌てる。
この世の中に可愛いのは自分だけでいいのだ。
「こちらとしても新たな神獣が現れたと知られるのは避けたい。だからお前達もみかんのことは神獣だと言わないようにしてくれ」
(別にいいけど)
「よーし、交換条件だ! 王宮シェフのサンドイッチを要求する」
グリファスの言葉に、スーとちょうちょは了解を伝える。
新しい神獣の存在が知られれば、人族は群がってくる。
一番に巻き込まれるのはティナだ。
寮は防御されているが、四六時中寮の中にいるわけにはいかない。
純真なティナは悪意を持った者達の言葉に、コロリと騙されてしまうだろう。
神獣の力は計り知れない。騙されたでは済まない事態が起こるのを防がなければならない。
みかんが神獣だと知られないのが一番いい。
みかんも神の使命を思い出したようだ。それが何なのかは分からないが、動き出すだろう。
その時に、周りが足かせになってはいけない。
「我が人型になれるのを知っているだろう。みかんも神獣だから変異することができる」
「ほんとに!? やったぁ」
(神獣は何でもありだな)
「別に人型にならなくてもいいだろう、キャラが被るじゃねぇか」
みかんは喜んでいるが、人型のちょうちょは嫌そうだ。
「でも、僕はスライムのままがいいんだ。色を変えればいいんだよね?」
「ああそうだな。最初から人型は難しいだろうから、身体の色を変える方がいいだろう」
みかんは、人型はお気に召さないようだ。
(じゃあ何色になるんだ? ピンクなんかどうだ)
「それじゃ、意味ないやないか―」
スーのボケにちょうちょがペシンとスーを叩きながらツッコミを入れている。
さすがペット同士、阿吽の呼吸だ。
「僕は青がいい! スーと一緒のブルースライムになる」
みかんは宣言する。
(え、迷惑なんだが)
みかんが同じブルースライムになったら、ご主人様は小さい方を可愛いと思うかもしれない。
自分への愛情が、みかんに移ることはないと思う。ご主人様の愛がそんなに脆いものだとは思わない。ご主人様を信じている。
でも……。
「まぎわらしいな。せっかくだから違う色にしろよ」
同じ青色が二匹とか、大きさが違っていても間違うに決まっている。
ちょうちょも反対だ。
(みかんって名前なんだから、黄色でいいじゃないか)
「いや、それじゃあ、元の木阿弥だ」
またもちょうちょがスーにツッコミを入れている。
「青がいいのっ。スーと一緒がいいのっ」
みかんは聞き入れない。
「結局、どうするのだ?」
本人の意見が一番だろうが、周りが煩い。グリファスは確認を取る。
「じいちゃん、僕、ブルースライムになりたいの、お願い」
「じいちゃん……」
キュルキュルの瞳でみかんはグリファスを仰ぎ見る。
(じいちゃんってなんだ。いつの間に祖父と孫になってんだよ)
「いや、関係的には、そんなもんじゃないのか」
この世界に神獣はグリファスとみかんだけだ。
同じ神から遣わされているのなら、家族とまではいかなくても、親戚といえるのかもしれない。
「ま、まあ、しょうがないな。それでは身体の色を青に変える方法を教えよう」
「わーい、やったー」
可愛い孫の願いを叶えてやりたい祖父がそこにはいた。
(こらジジイ、俺達の反対意見を無視するな! しれっと先に進んでるんじゃねーよ)
スーの訴えは、丸ッと無視されてしまった。
こうして、みかんは希望通りのブルースライムに変化したのだった。




