84 第三の事件
ティナが襲われた。
矢が部屋に打ち込まれたのだ。
スー達は犯人を捜したいが、それは不可能だった。
凶器が矢だったからだ。
魔法や魔素が一切使われていない、力によって放たれたものだった。
もし少しでも魔素が使われていたら、それを辿って犯人を捜すことができるし、ティナが襲われる前に、そのことに気づけたはずだ。
学園の中では、授業や学園が必要と認めた時以外の魔法の使用は禁止されている。
だから矢を使ったのだろう。
矢が放たれた方角を探ろうと意識を飛ばしても、学園の中には生徒や教師などが複数いる。特定できない。
「一体なんのために」
手に矢を持ったままカイが呟いている。
スーは、うすうす気がついていた。事故が多すぎる。
結界が壊れた時も、照明が落ちて来た時も、ご主人様のことを狙ったといわんばかりだった。
同一犯だろうか?
ご主人様に仇成すものは、誰だろうと容赦はしない。必ず見つけ出してやる。
ティナは自分を狙う者がこの世に存在するなんて思ってもいないし、考えたことすらない。
田舎の百姓の娘には何の価値もない。そう思っている。
だからこの矢は、きっと弓道部(?)の流れ弾だろうと思ったのだ。この学園は部活動が盛んらしいから。
カイは、この事態を学園に知らせるべきだと言ったが、ティナは止めた。
黙っていてくれと頼みこみ、カイはしぶしぶ了承してくれた。
ティナは寮が気に入っている。だから波風立てずに、ずっとここに住みたい。
矢が入って来たことにより安全が考慮され、寮から出されることが嫌だ。国王から、また王宮に来いといわれたら、今度は断れないかもしれない。
窓が壊れたから修理をしてもらわなければならないから、学園へ連絡はした。ただペット達が騒いだために窓が壊れてしまったということにした。スー達は冤罪をかけられてしまったが、それでいいと文句など言わなかった。
この寮に居る方が自分達でご主人様を護ることができる。へたに寮から出されて、自分達が近くにいることが出来なくなったら、その方が困る。
すぐに寮母のトリカが駆け付けてくれ、窓を修理してくれるように手配してくれた。自分が休んでいたからと、悔しがっていた。
窓の修理は立ち合う必要があったから、結局ティナは授業を受けることはできなかった。カイも付き添うと言ってくれたが、トリカから授業を受けるようにと言われて、しぶしぶ教室へと向かっていった。
因みにトリカやカイは、みかんの存在を知らない。みかんは二人の視線からうまく隠れていた。神獣の存在を知られるのが嫌なのではなくて、ただ単に騒がれるのが嫌だったのだ。
(ということで、協力を頼みたい)
ティナが寝てしまった深夜、グリファスを念話で呼び出した。
「またティナが狙われたのか……」
矢が部屋に撃ち込まれたことを話し、協力を依頼する。
やはりグリファスも、ご主人様が狙われているのではと思っていたようだ。
「で、我に何をしろと?」
(ご主人様を狙う犯人は保身が強い。ご主人様を亡き者にした後も、のうのうと生活を続けたいのだろう。そのために手間暇をかけて事故に見せかけているし、自分では直接手を下してはいない)
実行犯の者達を、どうやって仲間にしたのかは分からないが、自分は遠い場所にいて、事件には関係ない顔をしているのだ。
(今までは手掛かりが一切なかった。というか手掛かりを見つけることが出来なかった)
スーは魔獣だから、聞き込みをしようにも人族とは話が通じない。
それにスーが近づけば、魔獣だと忌避されるだろう。
(一回目、二回目共に、ご主人様は無事だったが、そのことで犯人は焦ってきたのだろう。今までのように事故に見せかけないで、直接行動を起こしてきた。だから粗が出た。手掛かりを見つけたんだ。そこから犯人を見つけ出す。手助けをしてほしい)
グリファスに頭(?)を下げる。
グリファスに、どんな手掛かりがあったのかを説明し、どうしてほしいのかを話す。
神獣が表立って動くことはできないから、クライブにも手を貸してもらうことにする。
お茶会の時に、みかんをコンパニオン代わりに媚びでも売らせれば、クライブは良く働くだろう。スーは黒い顔をして嗤う。
残念なことに現時点では手掛かりがあったとはいえ、犯人の目星すらついてはいない。
犯人がご主人様に、また手を出して来るかもしれない。
ご主人様の安全確保をしなければならない。
そのためには、まず寮の防御を強化だ。
なにしろ寮は戸建てだから、襲うには最適な場所だといえる。
さて、どうしたものか。
スーには魔法が使えない。レベルアップして攻撃力は上がったが、防御面はイマイチだ。ご主人様から離れてしまえば護れない。
「なあなあ、目くらましの魔法なんてどうだ?」
今まで大人しくスーの頭の上にいたちょうちょが提案する。
妖精の里が人族に襲われた時、もう二度と襲われることがないようにと、森全体に目くらましの魔法をかけ、森を『迷いの森』にした。
魔法自体は、それほど強いものではないが、広範囲の常時発動魔法だ。
敵を寮に近づけないのはいい考えだ。
まあ、敵のレベルがある程度高ければ、役には立たないのだが。
(そうなると敵以外も寮に近づけなくなるから、それだとご主人様が困るんじゃないか?)
「うーん、そっかぁ」
真剣な顔で魔法を提案しているちょうちょだが、自身も魔法は使えない。
「じゃあ僕、僕がやるよ!」
みかんは触手を出せないが『はい先生!』と挙手のノリでピョンと跳ねる。
(みかんが? 出来るのか?)
「うん、できるよ! 防御の魔法陣を作れるよ」
みかんは一つ頷くと身体に力を入れる。
「見ててね!」
金色の輝きが増していく。
身体も少し大きくなったように見える。
身体全体からエネルギーが溢れ出し、辺りに波動のように広がっていく。
スーとちょうちょはエネルギーの圧力に吹き飛ばされそうだ。
「待て待て待て!」
グリファスが鈎爪の前足を使って、みかんを捕まえる。
「あ、ジジイ、放せっ」
「一体何をやろうとしているのだ。このままエネルギーを放てば、この学園、いや王都ごと吹き飛んでしまうぞ!」
「違うもん。防御魔法をしようとしていただけだもん」
首根っこを掴まれたみかんが、ジタバタともがきながら言い訳をしている。
(し、神獣こえー)
「俺ら消し炭になる所だった」
スーの放つ威圧など、子ども騙しと思えるほどに、強いエネルギーが感じられた。
いくら小さくて幼く見えていても、みかんは神獣だった。
「まったく。ちゃんと神獣としての自覚を持て。自分の力を知り、それを使うための修行をしなければ駄目だ。いいか、神獣の力を暴走させてしまえば、この国ごと壊してしまうことになるぞ。だいたいみかんは……くどくどくどくど」
グリファスの説教が始まってしまった。
みかんへの説教だが、スーとちょうちょも巻き込まれで傾聴させられている。
(年寄りは話が長い)
「だな、このまま朝になっちまうぞ」
最初は正座(?)だったペット達も、だんだんと態度が悪くなってきている。
スーは、わざわざ触手を出して、鼻ホジをしているし(スライムに鼻は無い)、ちょうちょはスーの頭の上でヤンキー座りをしている。
二匹はコンビニ前にたむろしている若者を彷彿とさせている。
「お説教なんて聞きたくない!」
みかんはグリファスの説教に反発して、フンと横を向く。
この小さなスライムは反抗期なのか?
説教を途中で中断させられたグリファスは、ツンな対応のみかんを見て思ったのだが、ハッと気づいた。
反抗期ではなく “イヤイヤ期” なのだ!
人族の幼児が生まれて一歳を過ぎた頃に、そんな状態になると聞いた。
「みかんは成長しているのだな」
思わず親戚の年寄りの心境になってしまうグリファスだった。
「まあ、しょうがない。我が少し手をかしてやろう」
結局、寮の防御をどうするかという問題が残ってしまった。
このままだと、またみかんが暴走するかもしれないので。グリファスが簡単な結界を寮にかけてくれることになった。
みかんに説教をしていたグリファスだが、自分こそ己の威力を忘れていた。
王宮にグリファスは防御魔法をかけているが、そのノリでシステムを構築してしまったのだ。
ティナの生活しているテイマー用最小単身寮は、あり得ない程の強固な守護魔法で守られることになってしまったのだった。




