68 取り調べ
※ 誤字報告をありがとうございます。
とても助かっています!
「ティナ、お前に召集命令が出ている」
「え!?」
扉を開けたら、そこには壁。
ではなくて、寮母のトリカが立っていた。いつにもましてデカくてムキムキだ。
「あの、召集命令とは?」
「王宮から、ティナに聞きたいことがあるそうだ。騎士団詰め所に今から行く。これは断ることは出来るが、そうなると痛くもない腹を探られることになる。素直に応じた方がいいだろう」
「え、えええ、王宮に!?」
トリカの説明に、ティナは驚いてしまう。
「いったいなぜ……」
「それは騎士団詰め所に行けば分かる。そのまま拘束や、罰を受けるような案件ではない。安心するように」
トリカは安心するようにと言うが、にべもない言い方から安心できない。
それに、このままトリカに連れて行かれると、クライブとの約束がある。
「ちょっと待ってください。あの、私はクライブ様とお約束をしていて……」
「ああ、クライブ殿下の方から話は聞いている。ティナが騎士団詰め所での話が終わったら、せっかく王宮に来ているのだから、王子宮の方に来てほしいとのことだ」
「えええ……」
いつも王子様のクライブに、都合を合わせてもらっていたから、ティナは申し訳ないとは思っていた。だが、王宮に行くのは嫌だ。
胸を張って言えることではないが、ティナは王宮に着て行くような服を持っていない。もしかしたら王宮にはドレスで行かなければならないのかもしれないが、ドレスなんて生まれてから一度も着たことはない。もちろん持ってもいない。
今までは学園の食堂で会っていた。今も学園に向かおうとしていたから、ティナは制服姿だ。
この姿で王宮に行ってもいいのだろうか。
「しかし、何時の間にクライブ殿下と知り合いになったのだ?」
トリカは不思議そうにしている。
クライブは今年度の新入生だが、王族のクライブが試験を受けることはないだろうと、トリカは思っていた。
それに入学式は中止になったし、まだ授業は開始されていないため、同学年ではあるが顔合わせは行われていない。
それに習熟組のティナと高度な教育を受けて来たクライブでは、クラスが同じになるわけはない。
トリカからすれば接点が無いように思える。
まさか従魔つながり(ペットと神獣だから、従魔ではないのだが)だとは思わないだろう。
お茶会は、クライブ曰く “妖精を愛でる会” だが、お茶会の主旨を知る人族は、ティナだけだ。
「畜生ども、なんて恰好を……。まあいい、では行くぞ」
ティナと話していたトリカは、スー達の格好にやっと気づいたようだった。一瞬絶句していたが、気を取りなおしたのか、ティナを連行する。
スーとちょうちょは、ティナが嫌がるのなら全力を持って阻止するが、ティナの態度から行くべきなのだろうと判断して、大人しく付いて行く。
「ティナ!」
トリカの用意してくれていた馬車に揺られ、王宮の騎士団に着くと、そこにはハロルドが待っており、手を振ってくれている。
「ハロルド様……、どうして?」
「騎士達からティナに話があると聞いたから、立ち合おうと思ってね」
「ありがとうございます」
いきなり騎士団から聞きたいことがあると言われ、不安で一杯だったティナだが、顔見知りのハロルドが一緒に行ってくれることが分かり、ホッと胸を撫で下ろす。
「畜生どもは、どうしましょうか?」
トリカは従魔のことをティナにではなく、ハロルドに問う。
「ああ、一緒に連れて行こう。離そうとすれば暴れそうだ……。って、どうしたのだ、その恰好はっ! ぶはっ!!」
ハロルドは苦笑いをしながらスー達を見たのだが、スー達の格好に気づき、驚きよりも噴き出してしまっている。
「見てんじゃねーよ」
(ご主人様の俺への愛情が分かったか)
逆切れのちょうちょと、胸を張るスー(袋インのため、胸は分からず)。
笑いの治まらないハロルドと共に詰め所へと向かう。
(おい、ちょうちょ)
「ああ、気づいた。なんだ、この嫌な感覚は」
スーとちょうちょは、総毛立つような感覚に襲われ、辺りを見回す。
目の前に立つ騎士団詰め所の向こう。裏の方から漂ってきている。
だが、微かだ。
スーとちょうちょは気づくことができたが、ハロルドやトリカは気づいていないようだ。
このまま詰め所に入ってもいいのか?
こんな場所からご主人様を連れ出した方がいい。
だが、そのことを伝えたくても、ご主人様は緊張に固まってしまっていて、ペット達の訴えは届かない。
そのまま詰め所の中へと入っていく。
中には数人のガタイのいい男達がいた。制服を着ている者と着ていない者がいる。
「ああ、わざわざ呼びつけて悪かったね。私は騎士団で隊長をしているナッカという。お嬢ちゃんにちょっと聞きたいことがあってね」
ニコニコと笑顔だが、顔が巌のナッカが、ティナに椅子を進めながら話しかけてきた。
ナッカは四十代半ばで、この中では一番偉いのか、他の者達は動かず、ただその場に立っているだけだ。
「はい……」
ティナは椅子に座り、その足元にスーと、スーの頭上にちょうちょ。ティナを囲むようにハロルドとトリカが座る。
「それは、お嬢ちゃんの……、従魔なのかい? スライムと妖精? 妖精が従魔なのか!?」
ナッカが思わずそれと言ってしまったのは、スーとちょうちょが従魔には見えなかったからだ。獣か何かを、お人形のような感覚で連れ歩いていると思ったのだ。
騎士団の隊長のナッカには、ちょうちょは見えているようだが、袋に入ったスライムと頭にリボンを付けた妖精が、従魔だなんて思うわけがない。
「あ、いや、可愛い従魔だね……」
他にどう言えと? ナッカの対応に、ハロルドが、また噴き出している。
この時、詰め所の中にいた全員が、スーとちょうちょを見誤った。
女の子のおもちゃにされても大人しくしている、魔獣とはいえないような弱い存在だと思ってしまったのだ。
「隊長、そろそろ話を進めてもらってもいいですか。ああ、私は王都のギルドで副ギルドマスターをしているサイアスだ。今日は騎士団と共同で調査している件で、こちらに寄せて貰っている」
ナッカの隣にいたサイアスが、挨拶をしてきたので、ティナは頭を下げる。
「ああ、そうだな。お嬢ちゃんはシャーグラ商団と一緒に王都に向かっていたと聞いたが、そうなのかい?」
「はい。私が出稼ぎに村から出ようとしていた時に、丁度キャラバン隊が村に寄っていて、村長が王都まで同行させてくれるようお願いしてくれました」
ナッカの質問にティナが答える形で、取り調べは進んでいった。
だが、ナッカやサイアスの知りたい情報を、ティナは提供することは出来なかった。
なぜならキャラバン隊から途中で捨てられてしまったと思っているティナは、その後のことを知らないのだから。
逆にキャラバン隊が全滅したと知らされ、驚き涙していた。
余りいい待遇ではなかったが、お世話になった人達が、全員亡くなってしまったと聞いたのだ。お人好しのティナは静かに泣いた。
スーは、ご主人様の涙の意味を知っていたから、ただ静かに寄り添っていた。
次にスーがサート草を持っていたことを聞かれても、ティナは答えられない。
旅の途中で、偶然道端に生えていた草を抜いて、銜えていたのだろうと思っていたようだ。
スライムが消化せずに口に物を銜えることは不可能だということに、気づいてはいないようだった。
周りの者達は、まさかスライムの知能が高いとは思っていないからスーに質問はしない。
ただ、サノト村が全滅したという話を聞いた時、スライムが少し動いた。
(ああ、あいつは約束を守ったんだな)
スーはシルバーモンキーを思い出し、小さく頷いた。
ティナの隣に座るハロルドは、そのことに気づいたが、何も口を挟まない。
ナッカの感想としては、ティナの表情から嘘を吐いているとは考えにくい。
何十年と騎士団で鍛え上げたナッカを、騙せるとも思えない。
ティナへの取り調べは終了したのだった。




