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最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。  作者: 棚から現ナマ


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63 ちょうちょのレベルアップ⑤



木陰に皆で腰を下ろす。

目線を合わせるために、族長と長老、ちょうちょは低い枝に腰掛けている。

スーも目線は低いのだが、ご主人様の隣に居る。定位置として決まっていることだ。


「族長、長老、お久しぶりです」

グルグル巻きから自由になったちょうちょは頭を下げる。


「いや、思ったより早く帰って来たな。元気そうでなにより」

族長が嬉しそうにちょうちょを見ている。

族長や長老からすれば、若いちょうちょは子どもか孫の感覚なのだろう。


「あの……俺、レベルアップしたんです」

「おお、それは素晴らしいな」

ちょうちょの報告に長老は喜んでくれているようだ。

レベルアップしても、危惧は感じられない。


「妖精は、なかなかレベルアップが難しいからな、ちょうちょは元のレベルが23だったな」

長老は相手のステータスを見ようと思えば見ることができる。だが、それはプライバシーの侵害だ。勝手にステータスを見るようなことはしない。


「それが……一気に上がって、30になりました」

「はあっ、嘘だろう」

「いや、ありえん……ちょうちょよ、ステータスを見てもよいか」

「はい……」

長老の問いに、ちょうちょは覚悟を決める。

これで自分がステルスを持っていることがバレてしまう。二度と里に来るなと言われるかもしれない。


「なんとっ! ちょうちょよ、お前はステルスを取得したのか」

「長老っ、ちょうちょはステルスを持っているのですかっ」

長老と族長は驚き、それ以上の言葉が出ないようだった。


ステルスを持っている。それはちょうちょが妖精喰いと同じになったということだ。

なぜスーが一人で里にやって来て、他の妖精達を違う場所にやってくれと言ったのか、族長と長老は理解した。


「ちょうちょよ、身体に変化はないのか?」

「そんなに一気にレベルアップするなんて、あり得ない……」

「今の所は何も身体にへん、か、は……コホッ」

ちょうちょは二人に返事をしようとして、息苦しさに言葉が続かない。


里に来る時はティナの肩に乗っていた。

里に来てからは、グリファスの手の上にいた。

その時までは、何ともなかった。里に溢れている魔素を感じることもなかった。

族長達と並んで木の枝に腰掛けるようになると、周りに溢れている魔素(マナ)に身体が反応する。身体の奥がざわつき、胸が押さえられるような感覚が強くなっていく。

意識が遠のきそうだ。

早く、早く聞かなければ。


「妖精は、レベルアップすると妖精喰い、になるの、ですか? ケホッ」

「いや、だが……そうかもしれない」

ちょうちょの問いに答えたのは長老だった。


(わし)が妖精喰いになった者を知っているのは二人。一人目の時は、儂と族長とで何とか対処した。だが二人目は里から逃げ出し、長い間行方が分からなかった。たぶんスー殿が退治してくださったのが、二人目だと思う」

(やはり妖精喰いは、里の妖精が変化したものだったのか)

スーは呟く。

だが、なぜ妖精がレベルアップすると妖精喰いになるのだろうか。


「妖精は生きていく上で “食べない妖精” と “食べる妖精” に分かれていく。食べない妖精は、生まれた時の魔素の塊のままだ。だが、食べる妖精は魔素以外が身体に入り込み、純粋な妖精ではなくなってしまう。妖精ではない違う生き物に変化しているのだろう。そしてレベルアップをすると、食べない妖精には発現しないステルスという特性を取得する」

(違う生き物……。じゃあ、食べる妖精は全てが妖精喰いになるっていうのか?)

「いや、そうじゃない。妖精はレベルアップが遅い。レベルアップしなければ、そのまま妖精として生きていける。ステルスを取得しなければ、妖精のままでいられるのだ」

妖精の寿命がどのくらいなのか、スーは知らない。

だがレベルが上がれば上がるほど、レベルアップは、しにくくなる。

レベルアップのしにくい妖精は、そこまでレベルアップせずに死んでいくのかもしれない。


「ステルスという特性は、自分の姿が見えなくなるどころか、気配すら感じさせなくなる。他者に加護を授けることしかできない妖精にとって、使い方によっては武器にもなる有益な特性だ。だが、ステルスの特性は、それだけじゃない」

スーが妖精喰いと対決した時、妖精喰いは何の攻撃もしてこなかった。

ただ見えない。それだけだった。他に何があるというのか。


「ステルスは、食べる妖精の特性だけあって食欲を誘発する。食べたいという強い衝撃が襲ってくるようになる。そして一番に食べたいと思うのは魔素だ。元に戻りたいのかもしれない。魔素を取り込もうと、魔素の塊である妖精を喰らおうとするのだ」

(まさか、そんなことが……)

スーは言葉が続かない。

元に戻りたいというのが本能ならば、本能を止めることができるだろうか。


「そこまで分かっていながら、なぜ若い妖精達が物を食べるのを黙ってみていたのだ?」

今まで口を挟まなかったグリファスが問う。

妖精は物を食べなくても生きてはいける。ならば食べることを禁止すればいい。


「食べなくても死ぬことのない妖精は、食べることを軽く考えております。食べることは趣味嗜好なのだと。でも違うのです。食べなければならないのです。食べない妖精がどうとも思わないのに対して、食べる妖精は食べることを止められない。食べることを禁じられると、隠れてでも食べる。それで罰すると暴走する。どうしても食べたいと欲するのです」

族長は答える。

今までの長い時の中、族長は色々と対策をとってきた。だが、それで食べる妖精を無くすことは出来なかったのだ。


「……ちょうちょを里から出すべきではなかった。魔素の少ない場所では生きて行くのが精一杯で、レベルアップできないと思っていた」

「ちょうちょが強くなりたいと言った時、儂が止めるべきだった……」

族長も長老も、妖精喰いへの変化を止める術を知らないのかもしれない。

二人共に苦しそうな顔をするだけだ。


「お二方に聞きたい、一人目の妖精喰いを対処したと言われたが、攻撃手段を持たないあなた方は、妖精喰いをどうやって討伐したのだ。弱点を知っておられるのか?」

グリファスの問いに、族長と長老は身を固くする。まるで聞かれなくないことを聞かれたと言わんばかりに。


「それは……」

(ちょうちょを救いたい。何か手はないのか?)

言いよどむ族長に何とか教えてもらいたいとスーが問う。里に来てからちょうちょの体調が、どんどん悪くなっているのが分かる。早く何か手を打たないと。


「妖精喰いは、妖精喰いとなった瞬間に全てを忘れます。理性というか、過去のことや妖精であったこと全てです。ただ食べたいという欲求だけになってしまうのです。ですから同胞を食べることに何も感じない。罪悪感など持たない……」

族長は一旦言葉を止めると、苦しそうに顔を(そむ)けた。


「私と長老は妖精喰いを見ることが出来ました。だから食べられないように注意しながら、懇々(こんこん)(さと)し、思い出させたのです。妖精だった時のことを、里のことを、一緒に暮らしていた仲間のことを、思い出せと。時間はかかりましたが、妖精喰いは自分のことを思い出しました……」

「思い出してしまったために、自分の変化と自分のやってしまったことを知ってしまったのです。嘆いた妖精喰いは自死を選びました……」

途中で話せなくなった族長に代わり、長老が話を続けた。

小さく攻撃手段を持たない妖精が、人族並みの大きさを持つ妖精喰いを仕留めることは難しい。

族長と長老に出来たことは、ただ自我を取り戻させることだけだったのだ。


(じゃあ、ちょうちょが自我を保つことができれば、妖精喰いにならなくて済むってことだよな)

そのままちょうちょへと視線を移すと、様子がおかしい。もう限界なのか息苦しそうに貫頭衣の胸を掴み、(うずくま)ってしまっている。


「が、があぁぁぁ」

(ちょうちょ、駄目だっ!)

ちょうちょの顔色が変わった。

目が異様に吊り上がり、口を大きく開け、隣に座る族長へと襲いかかったのだった。




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