43 入学試験・最終試験前④
分からないものは分からない。
そうグリファスは結論付けた。
従魔の首輪を簡単に外してしまったティナだが、それがどれ程規格外れなことか本人は分かっていない。それどころか首輪に術が掛かっていたことすら気づいていなかった。
本人が何も分かっていないのだから、聞き出そうとしても無駄だ。
ティナのことを考えると謎が謎を呼び謎が深まる。いいかげん考えるのを止めた。
ティナが首輪を外したカーバンクルは、すっかり元気になった。
こっちも謎だ。
魂が繋がっていた主から、無理やり引き剥がされたのだから身体にそうとうな負担がかかるはずなのに、首輪が外れた時からすぐに元気を取り戻した。
主と従魔の関係は、主が有利になっており、従魔が衰弱しようが死んでしまおうが、主に負担は一切掛からない。
カーバンクルが死んでいたとしても、ワークス侯爵家の息子は気づくことすらなかったかもしれない。
それなのに救護室にいたワークス侯爵家の息子は、カーバンクルの首輪が外れたと思われる時から苦しみだし、未だに寝込んでいるらしい。
元々魔力が無かったからなのか、媒体を使ってのテイムだったからなのかは分からない。体調が回復するかどうかもあやしい状態だ。
「俺、元気になった。こんなことも出来るようになった!」
他の従魔達の前で、カーバンクルがクルリと一回転して見せている。
(そうかぁ、そりゃあ良かったなぁ(棒))
「凄いねぇ、偉いねぇ(棒)」
相手をしているスーとちょうちょは、親戚のおじさんポジなのか、口だけで褒めている。
トムとランダーは自分達よりも強い魔獣達に及び腰だ。
パチパチパチパチ。
「すごいな。なんて可愛らしいんだ!」
クライブが盛大な拍手を送っている。満面の笑顔だ。王族の威厳が少しも感じられない。
「あの、クライブ殿下、お楽しみのところ申し訳ありませんが、そろそろカーバンクルの措置について考えなければなりません」
ハロルドは声をかける。
ハロルドは試験監督だということもあるが、この学園の生徒会役員でもある。
学園側としての対応をしなければならない。
目の前にいる強火担のクライブがどういう反応をするのか嫌な予感がするが、放置しておくことはできない。
「どうするか?」
「はい。今現在のカーバンクルは従魔ではなくなりました。ワークス侯爵家が所有権を主張してくるかもしれませんが、首輪の無くなったカーバンクルに所有権などありません。それにカーバンクルを渡した所で、ワークス侯爵家の手には余るでしょう」
ワークス侯爵家は従魔を金で買うような家だ、魔獣を扱える人手があるとは思えない。
「カーバンクルは、今ではただの魔獣です。学園の中に魔獣が出現した場合、即刻駆除しなければなりません」
「なっ!」
ハロルドの話にクライブが言葉を失う。
魔獣とは人族に危害を加える存在だ。学園に魔獣が出没したら駆除するしかない。
学園に入ることが許されているのは従魔だけだ。一部ペットだと言い張るもの達はいるが、それは置いておく。
「こんなに愛らしいのに……」
「愛らしさは関係ありません」
「私に撫でさせてくれるのに……」
「魔獣を撫でてはいけません」
「そんな……」
クライブは言葉を失う。
「クライブ、お主が愛おしいと思っていても、カーバンクルの方はやっと従属から解放されたのだ、そうそう人族と関わろうとは思うてはおらんだろう」
「ですがっ」
グリファスから諭されても、クライブは諦めきれない。
カーバンクルは、まだ幼い。親離れする前に人族によって親を殺された。
このまま森へ返して生きていけるだろうか。
加害者の人族として、クライブはカーバンクルを庇護したいと思ったのだ。もちろんそこにはカーバンクルを愛でたいという気持ちがある。モフモフしたいという気持ちもある。そちらの方が強いかもしれない。
だが、人族から目の前で親を殺され、さんざん苦しめられて来たカーバンクルに、人族の自分と一緒にいてくれと言えないことも分かっている。
だが……。
「よし分かった。王家がカーバンクルを保護しよう。私の宮に連れて行けばいいだろう」
クライブは第2王子だが、神獣の加護を持っているために王太子になることが決まっている。そのため自分専用の宮を持っている。そこにカーバンクルを住まわせようと考えたのだ。
(おいおい、盛大な国家権力の乱用だな)
「宮殿に魔獣を連れて行くのかよ。最強の公私混同だな」
カーバンクルの名前が出たので、スーとちょうちょはクライブ達の話を聞いていたのだが呆れている。
「それは無理かと」
「なぜだ」
「カーバンクルは魔獣です。それも高ランクの魔獣なのです。王宮で暴れたら人死にがでます」
「く……」
ハロルドの正論にクライブは言葉が返せない。
「森へ帰してやるのがいいだろう」
「ですが、余りにも幼いです」
「野生の魔獣に人族が手を出してはならん」
「……」
グリファスが諭す。
クライブも分かってはいるのだ。だが心配だし離れがたい。
「フェネックちゃん、こしょこしょこしょ」
「やめろー、くすぐったぁい」
ティナが寝っ転がったカーバンクルのお腹をくすぐっている。
「へー、カーバンクルがティナに懐いているじゃんか。人族が嫌いじゃなかったのか? うおっ!!」
野生の魔獣を手名付けたのか。さすが俺達の飼い主なだけはあるなと、ちょうちょが感心していると、オドロオドロしたオーラがスーから噴出された。
驚いてスーの頭から落ちそうになってしまう。
「おいスー、ビックリするだろうがっ」
ちょうちょはスーの頭をペシペシ叩くと文句を言うのだが、どす黒いオーラに包まれたスーは聞いちゃいない。
(なぁにぃをやっているんだぁぁぁ)
最大級の威圧がスーから放たれる。
「ウキャン!」
「まあどうしたの、また具合が悪くなったの?」
「おまえ、仔ども相手に何やってんだよ」
スーの威圧をまともに食らったカーバンクルは、怖がってその場に伏せてしまった。
ティナはスーの威圧を、まるで感じていないようで、震えているカーバンクルを心配している。
ちょうちょは大人げないスーを正気に戻そうとしているが、まるで効果はないようだ。
近くにいたトムとランダーは訳が分からないが恐怖を感じて逃げ出した。
「ほう、なかなかいい凄みを出しているではないか」
グリファスだけが面白がっている。
(はーなーれーろー。ご主人様から今すぐ、即刻、直ちに、離れろぉ!)
「聞いちゃいないだろうけど落ち着けスー」
嫉妬の炎メラメラとはこのことだな。ちょうちょは呆れるが、スーを落ち着かせようと何度もスーの頭を叩く。
「ウウウウ」
身の危険を感じたカーバンクルは、その場から逃げ出し辺りを見回す。そしてクライブを見つけると、急いでその後ろへと隠れた。
「!!! カ、カーバンクルが私を頼ってくれた。私を選んでくれたのだっ」
クライブは感動に震えている。
周りにいた人族もスーの威圧に当てられて、体調が悪くなった者もいるようだが、神獣の加護をもつクライブだけは平然としている。
カーバンクルは幼いながらに賢い。
クライブは自分を可愛がっていることを知っているし、そのクライブを神獣が守護していることを理解している。
ようするにグリファスの威を借るためにクライブを利用しているのだ。
「スライム怖い。ベーだ!」
(こいつぅ。俺に喰ってくれっていっていたよな。お望み通りに喰ってやる!)
クライブの背後から舌を出すカーバンクル。
イキっているスーだが、クライブへは近づけないでいる。
この勝負、カーバンクルの勝ちのようだ。




