44 入学試験・最終試験前⑤
三次試験が途中で終了し、現在は休憩中となっている。
周りの受験生達は昼食をとるために、皆どこかへと行ってしまった。
大騒ぎしていたスー達も、そろそろ昼食をとらないと最終試験が始まってしまう。
結局毛を逆立てる勢いで(毛は無いが)怒っていたスーだったが、カーバンクルの元からティナが戻ってきたとたん、コロリと治まってしまった。
カーバンクルは、そのままクライブに抱っこされている。
「どうしようかしら……」
ティナは考え込む。
身一つのティナには昼食の準備なんてない。ましてや食堂に入ることも、屋台で食べ物を買うこともできない。
ポケットに小銭すら入ってはいないのだから。
迷いの森から出てくる時に、果物を持ってくればよかったのだが、その果物は妖精達が集めてくれたものだから、欲張ってはいけないとティナは思っていた。
「迷いの森に戻ろうぜ。俺が美味しい果物が実っている場所を教えてやる!」
(おおいいね。そのまま妖精の里に戻ってしまえ)
「なんだとぉ」
スーとちょうちょが言い争いを始めるが、ティナは一切気づいてはいない。
「ティナ嬢、昼食を一緒にとらないか?」
「はへ!?」
カーバンクルを抱っこしたままのクライブが、笑顔を振りまきながらティナへと話しかけてきた。カーバンクルを抱っこできていることが、もの凄っごく嬉しいようだ。
ティナは、いきなり王族から話しかけられて、変な声が出てしまった。
本当はハロルドとニックもティナと一緒に昼食をとりたがっていた。
だが、二人は結界が壊れた原因を調べているアール教頭に呼ばれ、そちらに行かなければならなくなり、既にこの場にはいない。
「いや、あの、その……」
ティナは返事ができない。
王族と一緒に食事などできるわけがない。ティナはテーブルマナーどころか、ナイフを使って食事をしたことがないのだから。
断りたい。切実に一緒に食事をしたくない。だが王族からの誘いを断るなんて、そんな無礼なことはできない。
ただただ固まるティナだった。
(なんで王子様が食事しようなんて言い出したんだ?)
「いいんじゃないか、旨い物が腹一杯食べられるだろう」
ちょうちょは乗り気だ。
妖精は魔素の塊だから魔素の溢れる地にいれば、食事を摂る必要はない。だが、味や触感は分かるので、食べることは好きだ。腹一杯という感覚は無いが。
「にーく、にーく、肉ぅ。早く食わせろ、もたもたすんなっ」
「私の腕の中でカーバンクルが楽しそうにしている」
クライブの腕の中で、カーバンクルが騒いでいる。食欲も出たようでなによりだ。
カーバンクルの声はクライブには届いてはいないのでカーバンクルが何を言っているかは伝わっていない。クライブは斜め上に感動していた。
「身構えなくてもいい、お前達にカーバンクルのことで相談したいことがあってな」
グリファスは人族の姿のままだ。
(相談、俺達に?)
「ああ、時間も無いし、食事を摂りながらという訳だ」
「いいんじゃないか、ティナは食べる物が無かったんだから、丁度いいじゃないか」
(まあ、そうだな)
スーは了解する。
神獣とペット達の話がついたので、一緒に食事をすることになった。
固まったままの飼い主を、スーがズボンの裾を、ちょうちょは髪の一房を引っ張り、クライブに先導され食堂へと向かう。
王族は他の者達とは一線を画す。
ティナ達が連れて行かれたのは、食堂という名のVIPルームだった。
出された食事は想像以上にキラキラしている。こんなに美しい物を食べたら罰が当たる。ティナはそんな思いで怖気付いている。
「従魔とは別に食事を用意したほうが良かったか?」
「い、いいえ。大丈夫です。ありがとうございます」
目の前の食事は、てんこ盛りだった。
従魔のことを思ってなのか、最初から前菜などと一緒にメインのステーキも出てきたが、見上げるほどに何枚も積み上げられていた。
ティナだけでは到底食べきれない量だ。
クライブの言葉からスーとちょうちょの分も一緒のようだ。
いつもスーと一緒に食事を摂っていたティナに違和感はないが、本来なら従魔とはいえ一緒に食事はしない。
「ほらアーンだ。慌てなくてもいいからな」
クライブが手ずからカーバンクルに自分の皿から食事を与えている。
たぶん、これがしたかったのだろう。
隣からグリファスが呆れた顔をしているが、止めはしない。小さい頃からやりたかった夢が叶ったのを知っているから。
「てめぇ、こんなに小さく肉を切りやがって。丸ごと寄越せ。ちんたらしてんじゃねぇぞ!」
お世話してもらっているカーバンクルは、クライブへと悪口雑言を浴びせている。通じてはいない。
(ご主人様、アーン)
スーが、ありもしないおちょぼ口を開けて食事を強請っている。
「お前、見ていて恥ずかしいぞ」
スーの頭の上から降り、テーブルに直に座っているちょうちょが、ティナから切り分けてもらったステーキを頬張りながら茶化している。
スーは聞いちゃいないが。
「それで相談なのだが」
イチャイチャ忙しい輩を見ながら、ウンザリ感満載のグリファスが口を開く。
「そういえばカーバンクルの相談っていっていたよな」
この中で唯一まともなちょうちょが返事をする。
「ああ、カーバンクルは従属から解放された。元の森に戻って生活するのが一番いいと思う」
「だよな。どこの森から連れてこられたのかは知らないが、遠いのか?」
(まだチビ助だぞ)
嫉妬して威圧までしていたスーだが、幼いカーバンクルを、なんやかんや心配しているようだ。
「それが野生で生きるということだ。下手に手を貸しても、自分で生きて行くことができなくなるだけだ」
「そりゃあそうだな」
(……)
目の前で王子様を罵倒しているカーバンクルを見ながら、何かしてやれることはないかとスーは考える。
「それがな、森へ帰してやると伝えたのだが、カーバンクルは帰らないと言い張るのだ」
(え、なぜだ?)
「森に帰りたくないのか?」
人族から親を殺され、自身はさんざん虐げられた。やっと従属の首輪から解放されたのだ、人族から離れ、森に帰ろうとは思わないのだろうか。
「俺は人族を許さない」
いきなりカーバンクルが話に入ってきた。
「だからここに留まって、人族に復讐する!」
カーバンクルは高らかに宣言する。
横から出されたフォークに刺さった肉を頬張りながら。




